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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
154/260

第154話 マッシモ

 時は遡る。

 帝国との戦争に大敗喫し、国王シスモンドと公爵のマッシモは、リンカン王国王都のナカヤに逃げ帰って来たのだった。

 僅かながらムシュフシュに殺されず生き延びた兵によって、王の逃走が市民に広まり、王の評価は最悪に落ちていったのだった。

 家族を無理矢理徴兵され、帝国との戦争で見捨てられたと知った市民は、怒りから王を糾弾する行動をとっていった。

 それが広がっていき、もはや暴徒と化した市民は王を討伐すべしという気運が高まっていった。


「マッシモ! このままでは私は市民に殺されてしまう! 何とかしろ!」


 自分が起こした行動によるもののせいだというのに、それを棚にあげてシスモンドは、マッシモに問題を丸投げした。


「……畏まりました。策を練りますので少々お待ちください」


 そう言い、頭を下げたマッシモは、シスモンドの前から立ち去って行った。


「コレンナ様、もはやシスモンド王ではこの国は終わりです! シスモンド様に代わってコレンナ様が王になった方がよろしいのではないでしょうか?」


 翌日、マッシモに付き従っていたため、難を逃れたこの国の残り僅かな貴族達が、市民を抑え込む事はもう不可能だと諦め、マッシモに対して王の排斥を提案して来た。

 マッシモに次ぐ爵位の者が代表して発言し、執務室に集まった他の4人の貴族達も同じ意見らしく、マッシモに王位に付くことを望む声をあげた。


「……お前達の考えは分かった。しばし考えるゆえ、一度席を外してくれないか?」


「畏まりました」


 顎に手を当てて考え事を始めたマッシモは、5人の貴族達に退出を促したのだった。

 5人は言われた通り退出し、マッシモは部屋に1人になった。


「……………クククッ、ハハハハハッ! とうとう私が王の座に付く事になるとは……、運が向いてきましたね。あの馬鹿さえ消せば市民も多少治まるだろう」


 まさかの好機に、マッシモは思わず笑いが込み上げてきた。

 元々この国を自分の好き勝手に操ってきたマッシモ、その状態でも良しとしてきたのだが、やはり王という地位には興味はあった。

 しかし、他の貴族や市民の期待がない状態でなったとして、長続きしないのは目に見えている。

 現在僅かに生き残った貴族からは支持を受けた。

 王を糾弾する市民達も、ここで立ち上がった自分を支持するに決まっている。


「帝国も他の国も王が代わり、一枚岩になったこの国を相手に攻め込む事は躊躇うはず、その間に軍の編成や強化を徹底的に行えばきっと現状を凌げる」


 自分が王になることで、明るい未来が見えてきたマッシモは、窓の外を眺めて自分が統治する事になるであろう王都の町並みを遠い目をして見つめていた。



◆◆◆◆◆


 2日後、王の間に集まった全貴族(と言ってもマッシモを入れて6貴族)が、玉座に座る王に対して意見をすべく集まっていた。


「何じゃ? マッシモ、市民を治める策は考えついたのか?」


「はい。簡単な事です。市民の願いを聞き届ければよいのです」


 その言葉と共にマッシモ達、全貴族は片膝をついて座っていた状態から立ち上がり、腰に差していた剣を抜き出したのだった。


「なっ!? 何のつもりだ? 私を殺すつもりか? マッシモ!」


 剣を向けられたシスモンドは、慌てながらも信じられない様子でマッシモに問いかけた。

 王に剣を向けるなど完全な不敬罪、この時点でマッシモは自分に敵対したと言っているようなものである。

 しかし、マッシモはシスモンドと幼い頃から過ごしてきた唯一の友人である。

 そのマッシモが自分に剣を向ける事があるとは思ってもいなかった。


「残念ながらシスモンド様、いや、シスモンド! お前にはこの国のため死んでもらうしか無くなったのだよ」


 そう言ってマッシモは、一歩、また一歩とゆっくりシスモンドに近付いていった。


「…………残念だよマッシモ、本当に(・・・)裏切るなんて……」


「…………本当に(・・・)?」


 自分が王になる想像で嬉しさを噛みしめながら、シスモンドを殺すため近付いていたマッシモは、王の言葉に若干遅れて反応した。

 まるで自分が、シスモンドに反旗を翻す事を知っていたような口ぶりである。


「ガッ!?」


 ふっと湧いた疑問から、シスモンドへ近付く足を止めたマッシモを、ローブを被った1人の男性が、腕の関節を決めて床に抑え込んだ。


「なっ!? 何だ貴様は!? どう言うことだ!?」


 突然の事に、今度はマッシモが慌てる番になった。

 王への道はすぐそこ、シスモンドの首さえ取ってしまえば済む話、手の届く距離にある自分が抑え込まれるなど想像もしていなかった。

 その為、現状が理解出来ず、マッシモは一瞬パニックになった。


「お前達! 王はすぐそこだ! 私に代わり、首を取れ!」


 マッシモはどうにかすぐに頭を働かせ、他の貴族達に王の殺害を命じた。


「………………」


「……何で?」


 しかし、マッシモの命を聞いた他の貴族達は、抜いた剣をマッシモに向けて近寄っていった。

 何故王ではなく自分に剣を向けているのか分からず、マッシモは更にパニックになった。


「……マッシモ、国の為に死ぬのはお前だ。私が強引な徴兵を市民にしたのも、帝国との戦地を味方を見捨てて離れたのも、全てお前の指示によるものだ」


「……? 何を……………?」


 突然話始めたシスモンドの言葉に、理解が出来ずマッシモは声が出なかった。

 帝国との戦争に強引な徴兵を指示したのも、あの時真っ先に逃げ出したのもシスモンドであり、自分は指示など出していない。

 シスモンドが一番分かっている事を、何故自分に言ってくるのか……


「…………私に全ての罪を着せると言うのか?」


 冷静になり、答えはすぐに浮かんできた。

 自分が王を殺す事を考えたように、王も自分を殺す事にしたのだと……

 辛うじて生き残った兵士達は、王が仲間を見捨てた戦地から逃げた事は知っていても、どういう理由で逃げたのかまでは理解していない。

 王の参謀であるマッシモが指示したからだと知れば、どうにかマッシモに市民の怒りは向いてくれる。 


「これしか私が生き残る術はない」


「貴様!」


 この期に及んで尚、自分の命を優先するしか考えないシスモンドに、これでもこの国を良くする為に動いている自分が犠牲にならなければならないことの悔しさと怒りで、力一杯歯を噛みしめたマッシモの口からは血が流れていた。


「…………殺れ」


 怒りで目を血走らせて睨み付けるマッシモに、シスモンドは見下したような視線で貴族達に指示を出した。


「グアッ! ……………………」


 貴族達の武器により、体中を突き刺されたマッシモは、最後までシスモンドを睨みつつ絶命していった。


「……本当に私を殺しに来るとは、愚かな……」


 絶命したマッシモの遺体を眺めつつ、シスモンドは呟いた。


「しかし、マッシモに罪を着せるとは、良い策を提案してくれた。誉めて使わすぞ……」


 抑え込んでいたマッシモが絶命したので、手を離したローブの男にシスモンドは体を向けた。


「……ティノ(・・・)!」


 そしてティノに言葉をかけたのだった。


「ありがとうございます。これで王の身は安泰かと……」


 シスモンドの言葉に、心にもないことを平気で言いつつティノは頭を下げた。


 マルコの治めるルディチ王国には時間がいる。

 その為、帝国や同盟軍を足止めしてリンカン王都を少しの間でも守るには、シスモンドに近付くのが一番やり易い。

 マッシモを王にすげ替えても構わなかったのだが、マッシモはマルコの両親の仇でもある。

 そんな奴に嘘でも頭を下げ続けるのは、途中でキレてしまいそうだったので止めておいた。

 シスモンドに近付くのは結構簡単だった。

 ティノはチリアーコ探索に乗じて、リンカンの事は結構調べてある。

 マッシモに睨まれ、冷や飯を食わされていた貴族の事も知っていた。

 その貴族の名前を使って王へ謁見し、現状を打開する策としてマッシモの犠牲案を話したのだった。

 最初シスモンドは、一応友であるマッシモを陥れることに、僅かながら躊躇っているようであった。

 なので、他の貴族を使って王への忠誠心を試したらどうかと提案した。

 結果まんまと乗っかり、王に剣を向けるに至ったという感じである。

 シスモンドはそうなる可能性も考えていたが、出来れば今までのように友であるマッシモに支えて貰いたかったようであった。


 そして、王の評価を得たティノは、帝国達の侵略を抑え、マルコに時間を与えることに動くのだった。


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