第153話 足止め
「それじゃあ、皆手分けして修理にあたってね」
魔導師部隊を引き連れてナイホソの町に戻ったマルコ達は、早速外壁修理にあたっていった。
「マルコ、お前までやってたら皆が手を抜けないだろ」
魔導師部隊と一緒に修理にあたっているマルコに、ロメオが呆れたように注意した。
誰よりも張り切ったようにマルコが修理しまくるので、付いてきた魔導師達も手を抜けず懸命に修理にあたらざるをえなかった。
それを見ていたロメオは魔導師達が可哀想に思ったので、注意をすることにしたのだった。
「えっ? そうなの?」
マルコからしたら、悪気は無いので全く気付かないでいた。
ロメオに言われて周りを見たら、休みもなく修理に働いていた魔導師達は疲労が顔に出ていた。
「……後は皆に任せて、田畑の修復に行こうか?」
皆の表情からちょっぴり悪い気がしたので、マルコは魔導師部隊に外壁の修理を任せる事にしてその場から離れていった。
マルコが去って一息ついた魔導師達は、その後もしっかりと外壁の修理を行っていき、その日の内に修理を終わらせたのだった。
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一方その頃帝国のリンカン侵略は、思わぬ抵抗によって進むことが出来ずにいた。
「チッ! 何なんだこの魔物の大群は……」
南から攻め込むセルジュは、倒しても倒しても湧くように出てくる巨大蟻の魔物の大群に辟易していた。
「くそっ! ヴィーゴの奴がまさか本当にリンカンに勝利するなんて思ってもみなかった。これでは俺の次期皇帝の座が遠退いてしまったではないか!」
帝国領土内の兵士達は、リンカンとの戦争の短時間による勝利と、ムシュフシュ程の強力な魔物の退治によって、ヴィーゴが英雄視されてきている。
このような状況で、セルジュが皇帝の座につけるとはまずあり得ない。
「今回の領土拡大を手土産に、俺こそが次期皇帝に相応しいと思わせなければならないのに……」
意気揚々と乗り込んだは良いが、まさか人ではない物に侵略の邪魔をされるとは考えていなかった。
「貴様ら! 早く女王蟻を退治しろ!」
この巨大蟻はそれほど強いわけではない。
しかし、女王蟻を倒さない限り際限が無いように襲いかかってくるのが特徴である。
愚痴をこぼしつつ蟻を斬っていたセルジュは、苛立ちながら部下達にこの蟻の元凶である女王蟻の始末を急ぐように檄を飛ばしていた。
◆◆◆◆◆
「くっ! 何なんだこの魔物は……」
南西から侵略を開始したサウルの部隊にも、魔物の大群が押し寄せていた。
こちらは巨大蜂の魔物で、飛んでる分だけ手こずるが、巨大蟻と同様にそれほど強いわけではない。
退治方法も同じで、女王を退治しないと勢いが止まらない魔物である。
「ヴィーゴの奴め、ムシュフシュなんて化け物まで倒しやがって……」
セルジュ同様、サウルも焦っていた。
次期皇帝の座は、セルジュさえ落とせば済む話だと思っていた。
そんなところに今回のヴィーゴの大躍進、完全に相手にしていなかった弟の成功に、自分では頭脳派だと思っていたサウルは、ヴィーゴの事を読めなかった自分に歯噛みしたのだった。
ヴィーゴが現在皇帝の座に一番近い。
この領土拡大はセルジュ同様、地位向上の好機と挑んだのだが、魔物の足止めに手間取っていた。
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「……ダルマツィオ、どう思う?」
兄達と違いのんびり侵略を進めていたヴィーゴだったが、こちらでも兄達同様、魔物の足止めにより先に進むのが遅れていた。
進む道、進む道が蜘蛛の魔物の糸で邪魔をされ、回り道を余儀なくされていた。
流石に3度目になるとおかしいを通り越して、予想通りといった感じである。
前方の道に張り巡らされた蜘蛛の糸を眺めつつ、ヴィーゴは側近のダルマツィオに尋ねてみた。
「……流石にこれが自然に出来たとは思えません。人為的な意図があるとしか思えません」
「だよね……」
今回は、これまで遠回りした時間を取り戻す為に、糸を除去して進む事にした。
魔法によって糸を切っているのだが、かなり丈夫な糸のようで手間取っている。
「兄貴達も全然進んでないって話だし、こんな事が出来そうなのは……」
「……ティノですかね?」
ヴィーゴの側にいたチリアーコが、ヴィーゴの促されて答えを口にした。
「魔物を従魔にして操っているのだろうが、平気で3ヶ所を足止めする事が出来るなんてマジで化け物だな……」
「……全くです」
チリアーコも使えるが、ティノが闇魔法による転移が出来ることは分かっている。
とはいえ、転移には距離に応じて魔力が消費される。
チリアーコも魔力が多い方だが、ティノがやっているのはとんでもない程の魔力が必要である。
従魔にするため契約魔法で魔力を使い、それぞれの場所に転移で先回りして魔物を配置し、同時に3ヶ所足止めするのに莫大な魔力を遣っているはずである。
とても人間の所業に思えない。
考えただけで、相手にすることの恐ろしさが湧いてくる。
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「これ以上帝国に大きくなられるのは困るんでな……」
3ヶ所に監視用のクワガタを配置し、ティノはある場所から帝国の侵略を足止めしていた。
「ティノ! 本当に帝国を抑え込んでいるのか?」
「はい、シスモンド様。今のところ帝国軍は先に進めず、動けずにいます」
「おお、そうか! この間にリンカン王国を再興する。まだ我々は終わらぬ!」
そう言ってリンカン国王のシスモンドは、兵の召集命令を出し、国の再建を図るのだった。
『無駄な事を……』
ティノは、リンカン王国の現王都ナカヤにいる。
ルディチが同盟から外されたのを知り先を見据えた時、今のルディチが他の国より領土拡大するには足止めが必要になる。
ルディチが拡大するまでリンカン国王に死なれては困る。
その為リンカン王国の僅かな延命の為に、リンカンに潜入することにしたのである。
再建に意気込むシスモンドを内心呆れつつ、ティノは帝国の足止めとミョーワ、ハンソーの連合軍の侵略を遅らせることに力を注いでいた。