第152話 理想論
マルコとロメオは、一度ルディチ王国のトウダイに戻ってアドリアーノと話をしていた。
「えっ!? 上手くいったのですか?」
朝出かけて夕方帰ってきたと思ったら、まさかの話し合いの成功にアドリアーノは信じられない表情をしていた。
荒れているという噂があったので、武力でもその日の内に手に入れる事はできるだろう。
マルコが失敗して帰ってきた時の為に、アドリアーノは軍団長のベルナルドに指示を出して軍の編成をしていたところであった。
「うん! この子ジルド! ナイホソの領主の息子で、町の復興を頼まれた!」
「ど、どうも初めまして!」
マルコはジルドを紹介して、領主から頼まれたとニコニコと話した。
ジルドは、アドリアーノの威圧感に若干怯えながらも頭を下げて挨拶していた。
「この子が領主……ですか? 誰か他の者に任せた方がよろしいのでは?」
アドリアーノは血筋とは言え、流石にこの子では幼すぎるのではないかと疑問を呈した。
「あそこの町は今老人と子供がほとんどで、若い人が全然いない。それにあの町出身の人間に統治させる方が、わだかまりがなくて良いと思うんだ!」
「確かにそうですが……」
元々マルコは、遺恨がないように傘下に治めるために話し合いに行ったので、傘下に入ってもその町の出身者に治めさせるのは反対はない。
それでもやはりジルドが幼いので、アドリアーノは領主を任せる事に不安が消えない感じである。
「老人の中に元教師のお婆さんがいてさ、その人に教育して貰いながら学習すれば良いし、領主の仕事は誰か補助する人間を出せば良いんじゃない?」
マルコ達に話かけてきたお婆さんは聞いたら元教師らしく、丁度良いのでジルドの教育を頼んでおいた。
領主の仕事と言っても、しばらくは復興に関する仕事がほとんどで、補助する人間がいればジルドの負担は軽減されるはずである。
「……マルコ様が仰るのであれば、私はその通り都合をつけたいと思います」
マルコの説明を受けると、何となく上手く行きそうに思えてくるから不思議である。
アドリアーノもそう感じだし、マルコの言う通りにすることに納得した。
「じゃあ、まず魔導師部隊の人達連れて、明日からナイホソの復興を始めようか?」
「えっ!? 復興の為に魔導師部隊を使うのですか?」
マルコの発言にアドリアーノは驚いた。
魔導師部隊は、戦闘の為に編成された部隊で、復興などは冒険者や市民から募って行うのだと思っていた。
軍の一部としての意識が強く、それを復興に使うという発想がアドリアーノには無かった。
「冒険者達を募集して集まるまでに、少しでも速く改善した方が市民の人は喜ぶでしょ?」
「それは、そうですが……」
「だから町の外壁だとか田畑の修繕は済ませておこうと思って」
魔物による物なのか、ナイホソの町の外壁もボロボロで、盗賊もそうだが魔物の侵入も容易に許してしまいそうである。
あれでは安心して町の復興にあたれない。
マルコは、思い付きで動いていそうだが、確かに外壁の修繕は真っ先にあたるべき案件である。
「あと、盗賊達は奴隷にしてこき使ってよ」
「トウダイで使うのですか?」
「ナイホソで使ってると恨みから市民の人が殺しちゃいそうだからね」
復興で人手が必要なナイホソで使った方が良いと思うが、確かにその可能性がある。
盗賊を殺せば問題ないが、奴隷は国の財産扱いになる。
それを殺せば、殺した市民に罰を与えなくてはならなくなる。
それを防ぐ為にもトウダイで使った方が良い。
「じゃあ、魔導師部隊に準備させておいてくれる? 僕はジルド連れて出かけてくるから!」
「畏まりました。しかし、いったいどこへ?」
「僕の町の目指すところを説明しようと思って。行くよ! ジルド!」
「えっ!? はい! 失礼します!」
マルコはアドリアーノに準備を任せた後、ジルドを連れてトウダイの町を案内することにした。
ジルドは、訳も分からずマルコに付いていった。
◆◆◆◆◆
「マルコ様! いったいどちらへ?」
町中を普通に観光するように、マルコは進んで行っていた。
ジルドはマルコの意図が分からず、ただ付いていく事に必死だった。
「ジルドも食うか? 美味いぞ!」
マルコは屋台で買った串肉を食べつつ、ジルドにも食べるように促した。
「……ありがとうございます。頂きます」
最近は録な食事をしていなかったので、ジルドは恐縮しつつも串肉を美味しそうに口に含んだ。
2人は近くの公園のベンチに座り串肉を食べた後、のんびりしていた。
「ジルドはこの町を回ってみてどう思った? 率直に言って良いよ!」
それほど長く町を回った訳ではないが、マルコはあることを重視してジルドに町を見せていた。
「……とても活気に溢れていると思います。建国してまだ数年でここまで発展するなんて思ってもいませんでした」
ジルドはマルコに言われた通り、思ったことをそのまま口にする事にした。
ジルドが言った通り、トウダイはゆっくりとだが確実に発展してきた。
他の国に比べたら確かにまだまだだが、他の大陸からも移住する人も増えてきて人口も増えてきている。
「……それと、獣人や魔人も見かけますね」
「そう! それ!」
マルコが聞きたかったのはその事である。
聞きたかった事がジルドの口から出たので、思わず声が大きくなってしまった。
「ジルドは獣人や魔人の人達の事をどう思う? やっぱり人族が一番だと思う?」
「……いいえ、祖父も父も本当は獣人や魔人の人達を町に増やしたかったようです。しかし、リンカン王国は人族主義なのでできませんでしたが、獣人の人は身体能力が高く、魔人の人は魔力が多いだけで人族と大差ないと言われて育ってきました。だからこの町では市民の人も普通に接しているので不思議に思いました」
リンカン王国は古いせいか人族主義がとても多い、そのせいか獣人や魔人の商人や旅人などは、滅多にこの大陸には来ない。
ルディチ王国の市民は、昔のトウダイから一時期他大陸へ避難していた人がほとんどなので、避難時に慣れたせいかそういった偏見は無くなっている。
マルコもそれを推奨しているので、獣人や魔人が増えてきているのである。
「僕も沢山の獣人や魔人の人に来てもらえる町にしたいと思います! 祖父も父も出来なかったことを僕が代わりに成し遂げたいです!」
「よし! 良く言った! ルディチ王国はそういった町が理想だ! ジルドも僕に協力してくれ!」
自分の理想と同じ事を考えているジルドの事を気に入ったマルコは、嬉しくなり手を差し出した。
「は、はい! 宜しくお願いします!」
マルコの差し出した手を握り、ジルドも嬉しそうに頭を下げた。
「じゃあ、ジルドの夕食も用意させたから、そろそろ城に戻ろうか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
日も暮れて来たので、マルコはジルドと共に城に戻っていった。
帰るとアドリアーノが忙しく動き回っていて、観光していたマルコは少し悪い気がしないでもなかった。