第151話 ジルド
盗賊を退治した事でマルコ達への警戒が薄れたのか、老人達はマルコ達に近寄り礼を言ってきた。
マルコ達は、ようやく会話らしい会話が出来ると胸を撫で下ろした。
「町が荒廃していますが、どうしてこんな風になったのですか?」
この町は畑だけでなく、町中も結構荒れていて家の所々が破壊されている。
その原因が何なのか分からなかったので、マルコはまずは原因を聞いてみる事にした。
「皆さん姿から見るに、旅の方ですかいの?」
「……リンカン王国の人間ではありません」
この町が荒廃したのは、少なからずリンカン王国の上層部が原因なのは噂などで察しているので、マルコはとりあえずこの国の人間では無いことを告げた。
「そもそもは王都からの研究者が来てからですじゃ……」
出てきた老人の内の1人の老婆が話始めた。
やはりリンカンの上層部が原因らしく、老婆は悲しげな表情になっていた。
「魔物の調査だと言うことで、近くの森でキャンプをし始めたのじゃ。するとその森から魔物が頻繁に出て来るようになっての……」
この時点で、マルコはある程度誰のせいだか予想がついた。
ここ最近のリンカン王国の魔物の研究といったら、恐らくチリアーコが主導した事だろう。
ルディチ王国への巨大魔物による襲撃前に、最終段階の研究をルディチの隣にあるここで行っていたのだろう。
この町の人達もそうそうあり得ない魔物の襲撃に、原因がその研究者達だと結論付けたらしい。
「その魔物の討伐に立ち向かった男達の数人が命を落としたのじゃ……」
この町の規模なら、余程の魔物で無い限り壊滅はあり得ない。
しかし、被害なく治める事が出来ない数の魔物の群れだったらしい。
その魔物のせいで、町の家の一部や畑が何ヵ所か壊されたと言う話だ。
「その修繕を開始して数日後、国からの徴兵で若者が連れていかれたのじゃ……」
ここで魔物の研究が済んだチリアーコが、ルディチに魔物を仕向け、その研究結果から帝国との戦争に進んでいったのだろう。
その戦争に総力を尽くす為に、上層部はこのような国の端の町からも徴兵したのだ。
それにより老人と女性、そして子供しかいなくなってしまったようである。
「若者達がいなくなり少したった時、この盗賊達が現れ始めたのですじゃ……」
「なるほど……」
この盗賊達のせいで若い女性は拐われ、それに抵抗した老人達は容赦なく殺されていった。
数日に1度現れる盗賊達に食料も奪われ、この町の人達は食べるものが無くなっていき、皆痩せ細った体になったらしい。
「先程の少年の祖父もこいつらに抵抗して殺されてしまったのじゃ……」
石を投げた少年の父は、国の徴兵によって連れていかれたこの町の領主である。
つまり前領主である少年の祖父が、指揮をとって町の改善にあたっていた所にこの盗賊達が現れたようで、責任感から真っ先に立ち向かい殺害されたらしい。
「……じゃあ、あの少年がこの町のトップなのですか?」
祖父が盗賊に殺され、父は戦争でムシュフシュの餌食になり恐らく死亡、そうなると血筋的には少年が領主を次ぐ事になる。
「そうですじゃ。あの子は母も生まれてすぐ亡くしておるので、この町の領主の資格としてはあの子しかいないのですじゃ……」
つまり少年は天涯孤独という訳である。
まだ幼く、初等部に通う前の年齢で町の領主はいくらなんでも不可能だ。
リンカン王国自体が立ち行かない状況で援助を受けることもままならない。
「もうこの町はお仕舞いですじゃ……」
老人達は諦めたように呟き、うつ向いてしまった。
「……………大丈夫! まだ道はあるよ!」
老人達に対してマルコは明るく言葉をかけた。
「しかし……」
「僕達ルディチ王国が力を貸すよ!」
老人達やこの町の人達を不憫に思ったマルコは、身分を隠すことをやめることにした。
「お主らルディチ王国の人達だったのかい?」
「こちらに居られる方はルディチ王国国王、マルコ・ディ・ルディチ様にあらせられます……」
「!!? 国王様ですかいの!?」
老人達は、マルコの1歩後ろに控えたクリスティアーノの説明によって驚愕の表情になった。
「ルディチ国王と言ったら、リンカン王国でも名領主で知られる一族の人間で噂の……」
「その通りです!」
ご先祖様を褒められて照れているマルコに替わり、知ってて当然といった表情でクリスティアーノは答えを返した。
「お兄ちゃん国王様なの!?」
老人達と話をしているところに先程の少年が、話を聞いていたのか走って近寄ってきた。
「そうだよ!」
マルコは優しい笑顔で少年に返事を返した。
「……僕を、……僕の町をたすげてぐだざい!」
マルコの返事を聞いた少年は、次第に涙を流し始め、ぐしゃぐしゃな泣き顔になりつつ救いを求めてきた。
「……………それは、この町の領主としての発言かな?」
涙を流している少年の頭を撫でつつ、マルコはそう問いかけた。
「……うん! ……いや、はい! お願い致します!」
少年は王に対する言葉使いではないと思ったのか、言葉を正して頭を下げてきた。
「利発な子のようだね。よし! 任せなさい! ルディチの名にかけてこの町を復興して見せるよ!」
少年の願いに対して、マルコは胸を叩いて答えた。
「本当ですか!?」
マルコの言葉によって、これまでの泣き顔だった少年は一気に明るい顔に変わった。
「少年! 名前は?」
「はい! ジルドと申します!」
「よし! ジルド! 一旦王国に戻る! 付いてこい!」
「は、はい!」
何となくの分からない流れによって、ナイホソの町はルディチ王国の傘下に入ることになった。
ロメオは従魔を呼び出し盗賊達を連れ、マルコはジルドを連れてルディチ王国に向かって帰っていった。
クリスティアーノは、マルコの指示によってナイホソに残っている市民に食事や治療を施し、ルディチからの援軍が来るまで待機する事になった。
これによってクリスティアーノが市民に何かしたのか、マルコが次に町に来たとき、市民がマルコを崇めるようになっていて若干引くことになった。