第149話 領土拡大へ
同盟締結から2週間後、ミョーワ共和国とハンソー王国の同盟軍が、市民による内乱が広がっているリンカン王国に東南から侵略していった。
その同時期、帝国は大将軍の地位にある3人がそれぞれリンカン王国に向かって侵略を開始していった。
父である皇帝ダヴィドの指示で、長男のセルジュは南から、次男サウルは西南から、三男のヴィーゴは西から攻め込んでいった。
「マルコ様。同盟軍と帝国が侵略を開始しました」
その情報を得た宰相のアドリアーノが、マルコに対して説明をしていた。
同盟から外された事をマルコから聞かされたとき、アドリアーノはかなり肩を落としていた。
これでルディチとしても、帝国の驚異が少しは減ると思っていたからである。
しかし、落ち込んでばかりもいられず、まずは情報を集める事に専念した。
そこで知ったのがこの話である。
「そう……」
マルコは帝国はともかく、同盟軍の結成から侵攻までの早さに少し感心していた。
同盟締結した2国は、これまで色々と交流があったからだろう。
とは言え、軍の連係までは訓練していないはずなのに急いだのは、少しでも早く領土を手に入れ、ルディチの動きも抑える考えが見え隠れしている。
「我々も単独で侵略を開始するべきではないでしょうか?」
今のリンカン王国は、侵略に対応など出来る状態ではない。
小国のルディチであっても、領土を拡大する絶好の機会である。
その為アドリアーノは、ルディチも侵略行動を取った方が良いのではないかと進言した。
「何で?」
あまり侵略には気乗りしない様子で、マルコはアドリアーノに侵略する理由を尋ねた。
「ルディチ王国はこの大陸において最小の国、マルコ様と場合によってはティノもいるとは言え、数で攻め込まれれば負けることは必至です。その為には領土拡大、人口増加が必要になってくるわけです」
分かりきっている事だったが、アドリアーノはマルコにあらためて説明した。
「確かに僕も領土を大きくしたい気持ちはあるよ。でも無理矢理と言うのが如何なものかと思うんだ」
このルディチの土地も、1度攻め潰された土地である。
しかし、アドリアーノ達が奪還して、生きていたマルコを担いで国家として復活した経緯がある。
その事から、侵略をされた側の感情を考えると二の足を踏んでしまう。
「無理矢理でなければ、どうやって領土を拡大するつもりなのですか?」
アドリアーノがマルコに強く進言しないのは、マルコの言っていることが理解出来る部分があるからである。
リンカン軍に潰され、恨みの感情を糧に奪還まで至ったのだから……
しかし、他の国々が動き出しているなか、このまま何もしないのは愚策である。
侵略が嫌なら他の方法で領土を拡大するしかない。
マルコにはそれがあるのではないかと、アドリアーノは問いかけた。
「ん~…………、話し合い?」
マルコは特に考えていなかったのか、少しの時間考えたあと、自信なさげに答えを出した。
「力ずくで奪ったら、奪われた多くの人達が恨みを持つでしょ? 話し合いで決まったら恨みが無いとは言わないけどかなり少ないでしょ? その方が町の発展、更には国の発展はかなりの速さで進むと思うんだ!」
答えが出てから次々と良いイメージがマルコの頭に湧いてきた。
マルコは、それを楽しそうにアドリアーノに話していった。
「フッ! マルコらしい発想だな」
護衛としていつも一緒にいるロメオは、この間ずっと黙っていたのだが、相変わらずのマルコの発言に思わず笑ってしまった。
「……しかし、話し合いでは無理では……」
これまでの歴史で、話し合いで領土拡大を成功したという話など聞いたことがない。
しかし、マルコの楽しそうな笑顔を見ていると、何だか僅かだが出来そうな気分になる。
それでもやっぱり無茶な考えに、アドリアーノは否定の言葉を発した。
「そうかな? まぁ、やってみてダメだったらその時考え直そうよ!」
アドリアーノの否定の言葉を気にせず、マルコはその方向で進めることにノリノリになっていた。
王の椅子に腰かけていた状態から立ち上がり、壁に張られていた地図を眺め始めていた。
「じゃあ、まずはナイホソから行ってみよう!」
マルコは地図にあるルディチ王国の王都、トウダイの町の西にあるナイホソの町を指差し、ここからまず話し合いをしていこうと告げた。
ナイホソは現在トウダイとは交流が無いが、過去はよく行き来し合う土地だった。
ある程度の年齢の市民は、ナイホソの町の初等部に通っていた者がほとんどである。
しかしながら、最近ではリンカンの衰退から、町としてもあまり良い話を聞かない。
徴兵により若者を奪われ、農作物に支障が出て、餓死者が多く出ているという噂が流れている。
「おい! 待てよマルコ!」
「マルコ様! お待ち下さい! 念のため護衛を……マルコ様!」
まるでピクニックに出かけるように、マルコは楽しそうな表情で王の間から出ていった。
それをロメオとアドリアーノが慌てて追いかけて行ったのだった。
主人公のはずのティノが動かせない。困った……