第148話 決裂
「えっ……!?」
新しく用意された会場で再開された会談の冒頭、ハンソー国王の発言によってマルコ達ルディチ王国陣は驚きで言葉を失った。
「我々ハンソー王国はミョーワ共和国との同盟は締結するが、ルディチ王国とは締結するつもりはない!」
再開されるまでの間に何があったのか、ヴィーゴ達の乱入前から意見が変わり、ハンソー王国がルディチとの同盟を拒否してきた。
「な、何か我々と同盟をしたくない理由でもあるのですか?」
会談が再開され、後は同盟を締結して終了になると思っていたマルコは、ハンソーの突然の拒否に困惑した。
確かに元々この大陸で最小国家のルディチと、同盟を結ぶメリットは少ないかもしれない。
しかし、デメリットが特にないのだから取りあえず結んでおいて、体よく使えば良いと思うのが普通だろう。
「我々ミョーワ共和国もハンソー王国とは同盟を締結するが、ルディチ王国とはするつもりはない!」
「なっ!!?」
ハンソーに続き、ミョーワの大統領のプリモも同じ意見を口にした。
あまりの出来事に、マルコは驚きと困惑で何を言っていいか分からなくなった。
「……先程まで我々の同盟参加に意見など出なかったではないですか? 理由を仰って下さい!」
少しの間をおき、マルコはどうにか絞り出した言葉を他の2人の代表に投げかけた。
「……先程帝国の奴等と共に乱入して来た男は誰ですか?」
マルコの質問に対して、プリモが質問をし返して来た。
「ティノ……の事でしょうか?」
何故そこでティノの事が出てくるのか分からないが、マルコは取りあえず聞き返した。
久々の再会で思わず昔の呼び方で話してしまったが、今回はちゃんと様をつけることなく呼ぶことが出来た。
「この会談には進行役と会場を提供する理由に、進行役と護衛で我がハンソーが3名、他の代表には護衛の同伴者2名が義務づけされていましたな?」
「はい……」
ハンソー国王のサントが、マルコに対して今回の会談を開くにあたって届けられた手紙に書かれた条件の事を話し出した。
また話が変わったことに内心イラッとしつつも、マルコは冷静に返事をした。
「……にも関わらず、先程帝国の奴等が侵入してきた時、ルディチ王国は更に1人護衛の人間を増やした。紛れもない条件違反だ!」
「……ハッ?」
確かにティノが入ってきたのはある意味条件違反だが、その程度の事に文句を言って来ているのかと、マルコは頭に?が沢山浮かんだ。
「条件違反を犯すような信用の出来ない国とは、同盟を締結する事は出来ない!」
「…………」
マルコはサントの言い分に、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情になり、固まってしまった。
「我々も同じ考えだ!」
「…………」
ミョーワのプリモまでもが同じ事を言ったので、理解出来ずマルコは頭の中が真っ白になった。
「……2国共何を仰っているのですか? ティノは確かに我々ルディチの人間ですが、あの時は緊急事態だった為に入ってきただけで、むしろ帝国の人間と魔物を排除しただけではないですか!」
1拍間をおき回復したマルコは、2人の意見に対して反論を述べだした。
「しかも、あの侵入してきた魔物は相当強力な魔物です。この部屋にいる人間が誰1人怪我を負わなかったのは、ティノが倒したお陰ではないですか!」
マルコの言ったことは正論で、あの時誰も怪我をしなかったのはティノの瞬殺があったからだ。
ティノがいなかったら、もしかしたら大怪我を負う人間もいたかもしれない。
「それは分からないだろ? 我々の護衛の実力も知らずそのような言い訳をしないで頂きたい!」
「言い訳……?」
マルコは事実を言っただけだったのだが、サントにそれを言い訳ととらえられたことに半ば呆れ、次の言葉が出なかった。
「あの者が現れなくても、我々の護衛の実力ならば怪我を負うことはなかった。つまりルディチ王国側の勝手な判断である!」
「それは結果論ではないですか! そんな理由でこの同盟から外されるなんて納得いきません!」
「結果論であろうとなかろうと、ルディチ王国との同盟は締結しない! 理解したならお引き取り頂きたい!」
「……くっ!」
サントの言い分には全く納得がいかない。
こちらが何を言おうにも、ルディチとの同盟は締結しないの一点張りで、全然会話にならない。
しかも、サントだけでなくプリモもまでもが同様のスタンスを取っているので、どうしようもない。
「ロメオ! クリスティアーノ! どうやら我々はお邪魔のようだ。ルディチに帰るぞ!」
「はい!」「畏まりました!」
これ以上ここにいても進展は望めないと思ったマルコは、護衛の2人を連れて会談の部屋から出ていった。
マルコが去ったその後、ハンソー王国とミョーワ共和国の同盟が締結され、その事が数日の内に大陸全土に知れ渡っていった。
◆◆◆◆◆
「……どういう事だ?」
帰りの馬車の中で、マルコは独り言を呟いた。
因みに、マルコも転移魔法が使えるが、さすがに歩いて会談の場に現れる訳にはいかないので、仕方なく馬車に揺られて行き来している。
「私が思いますに、理由はマルコ様とティノ殿かと思います」
本職の執事の役割の為に同乗しているクリスティアーノが、その独り言に反応した。
「僕とティノ様? どういう意味だい?」
クリスティアーノの意見に思い当たる事がなく、マルコは説明を促した。
「マルコ様の実力を知らなかったミョーワは、マルコ様の実力に焦りを覚え、ティノ殿の人外じみた実力を見た2国共恐怖を覚えたのではないかと……」
実際の所、ミョーワの人間はある程度ティノの実力を見たことはあったが、相変わらずの強さに以前の時とは違い危険人物に思うようになっていた。
そこにマルコまでもがかなりの実力であることで、小国であるうちは構わないが、同盟によって帝国領土を手に入れ、大きくなったときは手に負えなくなる。
それを恐れ、ミョーワはルディチとの同盟を拒んだ。
ハンソーの方は、マルコが初等部の時の大会で実力をある程度知っていたが、成長と共に更に強くなったマルコだけでなく、ティノという1国軍隊レベルの戦力まであったことに、ミョーワ同様、国としてこれ以上大きくなられては困るので同盟を拒んだのだった。
クリスティアーノは、ほぼ正解の説明をマルコに対して行った。
「……じゃあ、2国は同盟と言い、帝国を倒すのと同時に、相手を潰す算段をしていたと言うことかい?」
「……怖れながら、どの国も内心では自国の大陸統一を当然画策しているはずです。マルコ様はそうではないのですか?」
クリスティアーノは、マルコのこの質問に疑問に思った。
それほど長い関係ではないが、自身の主の考えが分からずつい問いかけてしまった。
「僕は別に大陸統一には興味は無いよ。僕の国の人達が平和に幸せに暮らせればそれで良いと言うのが一番かな……」
「…………左様ですか」
どの国の人間も大陸統一に懸命に頭を巡らせるなか、主の欲の無さに思うところがあったが、建国から自国市民の為に常に動いている事が変わらない主に、今まで以上の忠誠を密かに心で誓っていた。