第146話 乱入者
ボウシカの町、元リンカン城を利用して3国による会談が行われた。
会談の場には円卓が用意され、他の2人の代表が視界に入るように間隔が空けられ、椅子が設置されている。
代表の3人が椅子に座り、それぞれの代表の数歩後ろに2人の護衛が直立で立っている。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。進行をさせて頂くハンソー王国宰相のルジェーロと申します」
ハンソー王国の宰相は、マルコが学生時代ハンソーの王子のイラーリオの裏での行いを援助した事により失職し、現在このルジェーロが就いている。
あの事件により、王子のイラーリオはしばらく牢獄行きとなり、その牢獄の中で散々喚き散らした後、自殺したらしい。
イラーリオの指示とは言え、協力をした宰相はこれまでの王国への貢献を考慮して、恩情により職を失するだけで済まされた。
「私はハンソー王国国王のサント・ディ・ハンソーだ。早速だが、我々ハンソー王国としては、この同盟に反対はない」
ハンソー王国の国王のサントがまず最初に名を名乗り、同盟への意見を言った。
この3国の中では一番の領土を持つハンソーが、真っ先に参加を表明したことに、ルディチ王国代表のマルコと、ミョーワ共和国代表も意外な気が僅かにした。
ハンソー国王は、慎重派な印象をどの国も感じていた。
このボウシカを手に入れるのにも、予想より進軍が遅かった事からそういう印象が生まれたのである。
「ミョーワ共和国大統領のプリモ・ロッシです。我々は元々この同盟を言い出した身ですので、ハンソー王国同様賛成致します」
副大統領のセコンドと話し合い、プリモはこの会談の招集を呼びかけた張本人である。
なので、同盟の賛成は当然である。
「ルディチ王国国王、マルコ・ディ・ルディチです。我々ルディチ王国は……!!?」
マルコが同盟への意見を言おうとした時、マルコは異変を察知し、咄嗟に身構えた。
「お前がルディチ国王か?」
「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」
ワンテンポ遅れて、マルコ以外の参加者達も突然の乱入者の2人に対して身構えた。
「……お前は! チリアーコ!?」
「お久し振りです。ルディチ国王」
乱入者の2人の内、1人の顔に見覚えがあったマルコは、その男の名前を呟いた。
名前を呼ばれたチリアーコは、前回とは違い今回は名前を覚えて貰えていたので、若干嬉しそうにマルコに挨拶をしてきた。
「……挨拶はいい、何しに来た?」
「私は止めたのですがね……」
そう言って、チリアーコは隣に立つ男の後ろに一歩下がった。
「こちらの方はデンオー帝国次期皇帝筆頭のヴィーゴ・ディ・デンオー様でらっしゃいます」
そしてチリアーコは一緒に来た男性の事を、この場に集まった人々に紹介した。
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」
この言葉に、この場の全員が驚きの表情に変化した。
帝国に対抗するために集まった会談の場に、その次期皇帝が現れるとは思いもよらなかったからである。
「……おっと! 待て待て、今回はこの会談の邪魔をしに来たのではない。ルディチの国王……マルコだったか? お前の顔を見に来ただけだ……」
3国の護衛達が武器に手を当てて、ヴィーゴに飛びかかりそうな雰囲気を出した事に、態とらしく慌てたように制止の声をあげ、この場に現れた理由を楽しそうに発言した。
「……私に何か用でも?」
名前を出されたマルコは、ヴィーゴを正面から見据えた。
「!!?」
マルコと目を合わせ、少しの間見つめていたヴィーゴは、体からじわじわと魔力を出し始めた。
それに対してマルコも魔力を放出し、もしもの時は対応出来るようにヴィーゴの挙動に注意を払った。
「「「「「「「!!?」」」」」」」
ヴィーゴだけでなく、マルコも纏う魔力が限界が無いように少しずつ膨れていくのを、ルディチの護衛役のロメオとクリスティアーノ以外の人間は驚きの表情と共に恐怖の感情が沸き上がっていた。
『こんなのがいるうえに、ティノまでいやがるのか?』
プリモの護衛も兼ねて付き添いで来ていたセコンドは、今更マルコの実力がとんでもない事を知り、内心かなりの焦りが生じていた。
セコンドはいつかルディチとも戦う日が来ると思っていて、ルディチの最大注意人物をティノだと考えていた。
今回も護衛にティノが来ると思って気を引き締めていたのだが、護衛にいないことに僅かだが気が楽になっていた所であった。
それが蓋を開けたらルディチ国王自体が化け物だと知り、これまでルディチ王国に感じていた印象が一気に崩壊していた。
「……フッ、チリアーコの言った通りだな……」
膨らんでいた魔力を一気に消し、確認が済んだヴィーゴは一言呟いた。
「マルコ! お前の事を気に入ったぞ!」
そのすぐ後、ヴィーゴは嬉しそうにマルコを指差し、近寄って行った。
「!!?」
しかしヴィーゴは近付く足を止め、バックステップしてまたチリアーコの側に立ち戻った。
マルコの前に、ローブで顔を隠した乱入者がまた1人現れた。
その男が纏う空気に、ヴィーゴは今まで感じたことなのない雰囲気を感じ、背中に冷や汗が流れてきた。
「……何者だ!?」
何とか声を振り絞り、ヴィーゴは現れた男に声をかけた。
「ティノ様! お久し振りです!」
マルコは現れた男、ティノの顔を見ることなくティノだと理解し、嬉しそうに挨拶をしてきた。