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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
145/260

第145話 クリスティアーノ

 帝国の圧勝で終えた戦争から数日、ハンソー王国、ミョーワ共和国、ルディチ王国の3国による会談がリンカン王国の元王都、現在ハンソー王国の領地であるボウシカの町で開催されることになった。


「マルコ! 私も連れてって!」


 元々ボウシカ生まれの、マルコの妻パメラが会談の話をしていた所、言葉を挟んできた。


「……えっ!? 別に観光に行く訳じゃないんだよ?」


 王妃を連れての会談参加は、他国からしたら観光気分に思われる可能性がある。

 唯でさえルディチは小国、この会談に参加を許された事が不思議なくらいである。

 そこで他国から下に見られるような行為は出来る限り避けたい。


「私はただ、ボウシカの町がどうなっているか見てみたいの!」


 ボウシカは、ハンソーの領地となってから治安の悪化した為パメラは帰らなくなったが、少なからずまだ知り合いが住んでいるはずだ。

 それに、離れたとはいえ自分の生まれ故郷の様子はずっと気になっていた。

 今回のマルコの会談のついでに、自分の目で町の様子を確認したいと思ったのだった。


「パメラのお願いは聞いてあげたいけど……、ごめんね。今回は諦めて……」


 これからのこの大陸を左右する会談になるので、今回はさすがに連れていけないと考え、マルコは優しい口調でパメラの帯同を認めなかった。


「……そう、……そうよね。今回は重要な会談だものね……」


 マルコの反対の言葉を受けて、パメラもそれ以上わがままを言うのは困らせるだけだと身を引いたのだった。


「私も付いて行きたい所ですが、マルコ様がいない間の国の運営に動き回らないといけないので不可能です」


 宰相のアドリアーノは、とても残念そうに同行が出来ないことを告げた。


「まぁ、俺は付いて行くとして、会談の会場に入れる同伴者のあと1人は誰にするんだ?」


 共和国から届いた手紙には、会談には同伴者は2人までと記されていた。

 その事から、あと1人マルコと共に会談に参加する人間をどうするかと、ロメオはマルコに尋ねた。


「失礼ながら、私をお連れ下さいませ!」


 マルコ達が話し合っている所に、執事のクリスティアーノがティーワゴンで運んできた紅茶を、それぞれに配った後に話に入ってきた。


「クリスティアーノを……?」


 執事としては申し分ないクリスティアーノではあるが、外交的な話の場に連れていくのはどうなんだと、マルコは首を傾げた。

 場合によっては荒事になる可能性がある場所で、クリスティアーノは戦えるのかということも疑問である。


「マルコ様、クリスティアーノはあの(・・)セバスティアーノさんの息子でして、代々ルディチ家に使えてきた一族です。執事としての能力は勿論、私とクランメンバーとして動いていたときにかなり鍛えあげたので、護衛としても大丈夫だと思われます。セバスティアーノさんから貴族内での立ち回りなども指導されていたので、交渉などの場でもかなり使えるはずです」


 アドリアーノは、マルコが疑問に思っていたことの答えを説明した。


「セバスティアーノさんの……」


 赤子だった自分を、命を懸けてまで救おうとした執事の名前を聞いて、マルコは驚きと共に申し訳ない表情になった。


「マルコ様、お気になさる必要はありません。父は一族としての使命を全うしたに過ぎません。安全地帯までマルコ様をお連れできなかったとは言え、ティノ殿に託すことが出来た父は、充分使命を果たしました。私は父を誇りに思えど、嘆く気持ちはありません!」


 クリスティアーノは心の底からそう思っているといった表情で、真っ直ぐにマルコに対して視線を向けていた。


「…………そうか。しかし、セバスティアーノさんの息子だったとは知らなかったな……」


 クリスティアーノの態度から、これ以上セバスティアーノの事を申し訳なく思うのは失礼にあたると思い、マルコは納得の声を呟いた。

 それにしても、クリスティアーノがマルコの執事に付く時に説明しておいて欲しかったという目で、クリスティアーノを推薦したアドリアーノを見つめた。


「……申し訳ありません。クリスティアーノの方から、マルコ様には興味を持たれるまで話す必要はないと言われていたので……」


 マルコに見られ、恐縮したようにアドリアーノは答えを返した。


「私はマルコ様のお役にたつことが仕事です。私の情報など必要な時が来るまで覚えて頂く必要はないと考えました。ですので、アドリアーノ殿にそのように申しました」


 クリスティアーノは、当然といったような真顔でアドリアーノの言葉に付け足して話した。


「……そうか。じゃあ、クリスティアーノ! 会談の同行を頼むよ」


 自分の執事の座に自然に付いて、問題なくというより、昔からずっと仕えてくれているような雰囲気にしてくれていたので、細かいことを聞くことがなかった。

 本来、王になったのだから、マルコが聞いておくべき事だったのだが、今回の事でようやく知った自分を内心で反省しつつ、クリスティアーノの同行の許可を出したのだった。


「畏まりました。お役にたてるよう粉骨砕身勤めさせて頂きます」


 マルコの言葉に、右手を胸に当てて頭を深く下げ、クリスティアーノは同行の指示に従う言葉を返したのだった。


「それでは私はマルコ様の旅の用意を致しますので、失礼いたします」


 そう言ってクリスティアーノは、一礼した後ティーワゴンを押してマルコ達の前から去っていった。

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