第144話 興味津々
リンカン王国との戦争の勝利と、天災級の魔物の討伐を果たしたヴィーゴ率いる帝国軍が、王都のダイーに帰還する途中、その情報が入ってきた。
「ヴィーゴ様!」
滞在中の町の領主館の一室で、旅の疲れを取っていたヴィーゴのもとに、ダルマツィオがエピファーニオとチリアーコを連れて入室してきた。
「どうした?」
ヴィーゴは椅子に座ったまま、入ってきた3人を眺めて問いかけた。
「どうやらハンソーなどの3国が何やら動いている模様です」
戦争が終わった後、チリアーコが他国の動きを探りに動いた結果、どうやら3国間で動いているようであった。
「…………なるほど、3国で組むつもりだな……」
チリアーコの報告を得て、ヴィーゴはある考えを導きだした。
「まさか!? 同盟を組むと言うことですか?」
ダルマツィオはその事に思い至らなかったので、驚きと共に疑問の声をあげた。
「あり得ますね。ヴィーゴ様の活躍によって、今や我が帝国は他とは比べ物にならない程の大国になりました。対抗するには同盟の道しか残っていないでしょう」
エピファーニオはヴィーゴの考えに納得し、自分でも整理するように分析した考えを口にしていった。
「それにしても動きが速いな……」
ヴィーゴも3か国の立場に立てば答えに行き着く事は出来るだろうが、リンカンとの戦争が終わって5日程度しか経っていないのに、これ程速く行動に移すのには速すぎる気がした。
「……裏で動いている者がいるかもしれません」
エピファーニオも同じ考えになり、ある仮説に思い至った。
中々会うことは出来ないが、チリアーコのように転移魔法が使える者が動いているとしか思えない。
「かなり頭が切れる人間のようだな……」
ダルマツィオもようやく思考が追い付いたのか、ヴィーゴとエピファーニオという戦略家の1歩先行く人物に、変な汗が流れてきた。
「……失礼ながら、私に心当たりがあります」
最初の報告以来黙っていたチリアーコは、ここに来て話に加わってきた。
「……本当か? チリアーコ!」
「はい。恐らくティノと呼ばれる人間が動いていると思われます」
ヴィーゴの問いに対して、チリアーコは苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「…………ティノ?」
「聞いたことないな……」
ダルマツィオとエピファーニオは、チリアーコの答えに首を傾げた。
「どんな人間だ?」
「現在この大陸最小の国であるルディチ王国、その国王の縁の者です」
ヴィーゴは興味を持ったのか、チリアーコにティノの事を聞いてきた。
その質問にチリアーコは簡潔に答えを返した。
「ルディチ? そう言えばそんな国があったな……」
ダルマツィオはあまり興味が無かったのか、そんな小国の事など詳しくは知らなかった。
「……失礼ながら、そこの国王は私の見解では、実力的にはヴィーゴ様と互角に思われます」
「そんな馬鹿な!? 最近では帝国の英雄と呼ばれているヴィーゴ様程の実力を持つ者などいるはずがないだろ!」
しかし続いて話されたチリアーコの言葉に、隠せないほどの戸惑いと共に声を荒らげた。
「……更にティノは、ヴィーゴ様でも勝てる可能性はありません」
「「!!?」」
尚も続いたチリアーコの言葉に、ダルマツィオだけでなくエピファーニオも驚き、思わず声を失った。
「……ほお、それは面白い! 1度会ってみたいな……」
2人とは違い、どこか嬉しそうにヴィーゴは呟いた。
「……どうやら今回の同盟のように、裏でルディチを守るために動き回っているようで、居場所を掴む事が困難です」
チリアーコ自身、ティノの暗殺の機会を探るため探し回ったのだが、ティノの姿を見ることが出来ずにいた。
「……そうか、ではルディチの国王の方にするか?」
若干残念そうな声を出した後、一人言のように驚きの言葉を呟いた。
「!!? 1人で会いに行くと言うのですか!?」
聞き逃してしまいそうな音量で呟かれた言葉に、ダルマツィオは目を見開いて問いかけた。
「あぁ、どんな男か見てみたい!」
ワクワクしたような表情でヴィーゴは答えた。
「いけません! 他国からしたら、ヴィーゴ様は最大の暗殺対象です! しかもどうやって行くつもりですか?」
ダルマツィオは、現在自分の価値を理解していないようなヴィーゴの態度に強目に制止の声をあげた。
いくらヴィーゴでも、1人で1国を潰す事は不可能である。
1人で行ったら、殺されるのが落ちだ。
「移動ならチリアーコに送って貰えば良い。しかし、ダルマツィオが言うように1人で行ったら危険かもな……」
どうやら、ダルマツィオの言ってることは分かっていてもやめるつもりは無いようで、ヴィーゴはどうやってルディチ王に会おうか考えて始めていた。
「……ヴィーゴ様! その前に皇帝陛下に今回の報告を致しませんとなりません!」
どうにかヴィーゴを止めようと、エピファーニオは一先ず王都への帰還が優先だと言うことを思い出させた。
「……そうだった。よし! 急いで帰るぞ!」
「もう今日は日暮れです。急ぐにしても明日からです」
「くっ! ……仕方ない皆早く寝ろ! 明日は早くから出るぞ!」
「……畏まりました」
どうにか王都までに興味が治まってくれることを願いつつ、ダルマツィオ達は室内から出ていった。
「俺と同等な人間か……」
3人が出ていった室内で1人になったヴィーゴは、窓の近くに立ちルディチ王国のある東の方角の彼方を眺めた。
「……どんな奴か楽しみだ!」
まだ見ぬルディチ国王の人物像を想像しつつ、これまでの人生で1、2を争うほどに胸が湧き、結局翌日は寝坊し、通常通りの出発になったのだった。