第143話 見物
「……全く、やられたな……」
デンオー帝国対リンカン王国の戦争を見に来たティノは、帝国が圧勝する様を見て思わず呟いた。
「SSSランクの魔物を作り出したは良いが、コントロールなんて出来るわけないとは思わなかったのか?」
ルディチ王国での実験の時ですらコントロールはイマイチだったのに、それ以上の魔物を出してコントロール出来ると思っていたとしたら、リンカン王国上層部は頭がお花畑でいっぱいと言わざるを得ない。
「それにしてもオルチーニとの密会は察知していたが、チリアーコまで手駒だったとはな……」
帝国皇帝の三男のヴィーゴは、3兄弟の中で一番要注意人物だというのは分かっていたが、どうやらとんでもない成長を遂げたらしい。
「ムシュフシュまで倒すとはな……」
SSSランクのムシュフシュを倒すには、体内を攻撃するしかない。
分かっていてもあれ程の魔物が、簡単に攻撃させてくれる訳がない。
味方を的確に利用して、ムシュフシュの隙を作った事は天晴れといった感じだ。
「爆発系の魔法が得意みたいだな……」
炎系の魔法が得意な人間が成長すると、殺傷能力の高い爆発系の魔法が使えるようになる。
ティノが昔見たヴィーゴは、文武において秀でていた。
頭が良い為、兄達のやっかみを受けないよう実力を隠しているようだったが、ティノはその潜在能力に注目していた。
その潜在能力を上手く開花させたようだ。
「ムシュフシュは特に炎系の魔法に強いからな……」
しかし、詰めが甘かったようだ。
得意の爆発系の魔法を体内に喰らわせた事に成功したとは言え、敵の弱点だけでなく得意な事も考察に入れなければ、一歩間違えればあの世行きだ。
今回は運良くダルマツィオが止めたから良かったが、紙一重であった。
「そう言えば、昔倒したことあったっけ……」
ムシュフシュの事を考えていたら、ティノはそんな事を思い出した。
「ちょっと手こずったっけ……」
ティノも、昔ムシュフシュと戦った事がある。
まだ全属性魔法が成長しきっておらず、唯一水魔法だけが最高値へと到達していた時期の話である。
現れたムシュフシュが、今はなきチョーダと呼ばれる国からリンカン王国へと向かって進んでいた。
このままリンカンに行ったら、ティノの子孫にも被害が及ぶと思ったので、退治することにしたのだった。
しかし、近距離攻撃も遠距離攻撃も通用せず、悩んだ結果大昔戦ったドラーゴ同様、内部破壊をすることで退治したのだった。
「あの化け物相手に恐れず立ち向かい、あの強力魔法を放つか……」
ティノはヴィーゴの能力の高さに、あることを思うようになった。
「マルコとどっちが強いかな……」
ヴィーゴは自分1人でここまで実力をつけてきた。
元々の才能があったとは言え、あれ程の実力を手に入れるとはまさに天才と言ってもいいかもしれない。
一方マルコは、ティノのむちゃくちゃな訓練によって鍛え上げた努力の人間。
今回の戦いを見る限り、両者の実力はほぼ互角といったふうに思える。
「まずいな……」
互角の戦いで勝つには、運と突発的な閃きが必要である。
両方とも鍛えようがないものだが、天才は緊迫した状況でこそ真の力を発揮する。
そう思うと、ヴィーゴが僅かに上かもしれない。
ただでさえ国力に巨大な差があると言うのに、このままでは、マルコが折角得た幸せな生活を無くしかねない。
「リンカンはこれから崩壊していく。それまでに何とかしないと太刀打ち出来ない状況になるな……」
部下を放って戦場から逃げた王を、誰が崇めると言うのだ。
今回どうにか命を繋いだようだが、リンカン王国は内部から崩壊していくだろう。
いくらコレンナ公爵家の威光をもってしても、抑えきれるものではない。
帝国は、のんびり領土を拡大していけば良い状況である。
「今の帝国を相手にミョーワでは力不足だな……」
勢いがあるとは言え、今回の事でミョーワ共和国が帝国を潰す可能性は無くなったと言って良い。
ミョーワがリンカンの領土を一部を手に入れて、多少拡大したところで勝ち目が無いのは目に見えている。
「……仕方がない」
ティノはあることを思い付き其を実行に移す為、その場から転移した。
◆◆◆◆◆
行き先はミョーワ共和国、副大統領のセコンドに会うためだ。
まだセコンドは、戦争が終結したことを知らない。
勝った方に攻め込むつもりでいたのだろうが、ほぼ被害がなかった帝国に攻め込んだら返り討ちである。
「何!? もう終わっただと!?」
セコンドの妹のリリアーナに、緊急事態だと面会の機会を作って貰ったティノは、セコンドに会って早々に戦争終結の経緯を話した。
「こんな結果になるなんて……」
そう呟き、セコンドは頭を抱えてうつ向いてしまった。
ティノ同様、両国による互角に近い戦いが繰り広がると思っていただけに、この結果は想像もしていなかった。
「帝国に天才が混じっていた。皇帝三男ヴィーゴ、あれは今回の事で次期皇帝が確定だ。あの天才相手に戦うのにこのままでは、この大陸は帝国のものになってしまうだろう」
「じゃあ、どうしたら良いって言うんだ?」
思考が働かず、藁にもすがるような表情でセコンドはティノに尋ねた。
「残っている3国で同盟を結ぶしかないだろ?」
分かりやすい答えである。
帝国は確かに領土的には最大になるだろうが、完全に支配下に置くのには時間がかかる。
崩壊していくリンカン王国領土を手に入れるなら、3国がバラバラに動くよりも協力し合って動けば、何倍も早いだろう。
「なるほど!」
少しだが思考が回復したセコンドは、納得の声をあげた。
「後はお前に任せる。俺はルディチに行くのでな……」
「あぁ、分かった」
ようやく落ち着いたセコンドを残して、ティノは一連の話を伝えにルディチに転移していったのだった。