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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
141/260

第141話 4時間戦争

 戦場に突如現れた巨大な魔物は頭に2本の角が生えていて、4本の足で立ち、蠍の尾を持っている。

 前脚は猛獣、後ろ脚は猛禽類のような形をしている「竜」とも「龍」ともとれる魔物だった。

 名前から「怒れる蛇」と言われているが、れっきとした竜である。


「ムシュフシュだと……?」


 その姿を見たダルマツィオは驚愕の表情で呟いた。

 天災クラスの化け物がこんな場所に現れるとは思ってもいなかった。


「こいつはすごいな……」


 ヴィーゴの方は若干感心したように呟いた。

 事の重大さを理解していないような態度である。


「如何なさいますか?」


 どう考えても逃げた方が良いのだが、一応現在は戦争中、敵を置いて逃げるわけにはいかない。

 ヴィーゴに判断を任せるようにエピファーニオは問いかけた。


「倒すしかないだろう?」


 ヴィーゴの答えは逃走ではなく討伐だった。

 しかもあの魔物を見て、僅かに嬉しそうに見えるようである。


「しかし、あのような化け物を相手にするには……」


 ムシュフシュの大きさは7~9m位ある。

 あの魔物からしたら、人間は群がる蟻程度にしか思わないだろう。

 そんな魔物を相手にどうやって戦うのか、ダルマツィオは分からないでいた。



◆◆◆◆◆


「なっ!? 何だあの化け物は!?」


 すぐ目の前に現れたムシュフシュにオルチーニ公爵家当主のエンニオは慌てふためいた。


「オルチーニ様! これはどう言うことですか!?」


 オルチーニはヴィーゴとの密会で、戦争時にリンカンを裏切ることを約束していた。

 そして、これまで歴代に渡ってオルチーニ公爵家に付き従ってきた幾つかの貴族家も反逆に誘っていた。

 それにより、反逆を受けたリンカン軍は後退の一途といった感じで進み、ようやく反逆者抹殺に動き出していた。

 兼ねてからの話し合いで、その状態になったら帝国側に逃げるようにヴィーゴに言われていたので、そう通りにしようと馬の踵を返そうとしたところ、巨大な魔物が出現したのである。


「おのれ! マッシモめ! 味方ごと潰すつもりか!?」


 ムシュフシュが近くにいた人間を片っ端から喰らい始め、辺りは敵味方関係無く、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。


「どうにかして帝国側に逃げるのだ!!」


 エンニオも付いてきた貴族達に指示を出し、逃走の体制に入った。


「ガーーーーーッ!!!!!」


 少し腹が膨れたのか、ムシュフシュは残りはいらないとばかりに口から炎を吐き出し、辺り一面燃やし出した。


「そんな!? 私が死んでたま……」


 逃走を図っていたエンニオもその炎に巻き込まれ、死体も残らないほどの高温で消し飛んだのだった。



◆◆◆◆◆


 ムシュフシュが現れた事で驚いているのはリンカン側も同じであった。

 現れた当初はオルチーニ達反逆者を攻撃していたのだが、次第に辺り構わず破壊しだし暴れ始めた。


「チリアーコ! 何が起きている!?」


 その様子を見ていたマッシモはチリアーコを呼びつけ、事の次第を問いただした。


「……残念ながら今回のは、全く言うこと聞きません。」


 マッシモの前に現れたチリアーコも、焦ったように答えを返した。

 魔物を作り出すと同時にチリアーコは毎回従属魔法を掛けているのだが、今回はそれが全く効かない状態である。


「馬鹿な!?」


 チリアーコの答えに国王シスモンドは、驚きと恐怖で震えていた。

 ルディチ時の実験で、敵の方向に向かわせる事が出来ると分かっていたはずなのに、それが出来ないのでは只の恐怖の対象でしかない。


「マッシモ!! 逃げるぞ!!」


 そう言ってシスモンドは、悩む間もなく馬を用意し、逃げる体制に入った。


「お待ちください!! シスモンド様!!」


 それに付いていくようにマッシモも馬を用意した。


「チリアーコ! 貴様が作り出したのだ! 貴様が何とかしろ!」


 マッシモはその言葉を残して、味方の兵士をそのままにした状態で、シスモンドと共に戦場からは逃走をしだした。


「……やれやれ、あんなのが上に立っているからリンカンは滅ぶのだ」


 残されたチリアーコは、逃げていくシスモンドとマッシモの背中を見つつ溜め息をついたのだった。


「……じゃあ、帰る(・・)としますか?」


 そう呟いて、チリアーコはその場から転移していった。



◆◆◆◆◆


「おおっ! すごい威力の炎を吐き出すな!」


 遠く離れた場所から眺めている為、帝国側には被害が少しで済んでいた。

 そんな中ヴィーゴは、ムシュフシュの暴れっぷりを見て楽しそうな声をあげていた。






「ただいま戻りました。ヴィーゴ様(・・・・・)!」


「!!?」


 ヴィーゴの目の前に、先程までリンカン側にいたチリアーコが現れた。

 突如現れた見知らぬ男に、ダルマツィオとエピファーニオは腰に差した剣を抜こうと構えた。

 しかし、ヴィーゴが何も言わず手で制止したので、抜く寸前で止めた。


「よく戻った(・・・)チリアーコ……」


 ヴィーゴのリンカン戦における最大のカードは、オルチーニの反逆のような薄っぺらい物などではない。

 リンカンが帝国との戦争を、決断する為の動機を作ってやる事である。

 チリアーコは、元々ヴィーゴの指示によってリンカンに潜り込んだに過ぎない。

 リンカンは、帝国との戦争を始める前からカードなど持っていなかったのである。


 朝始まったこの戦争は、魔物の出現によってリンカン軍の敗北が決定した。

 たった4時間でリンカン軍は壊滅したのだった。

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