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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
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第139話 ヴィーゴ

「ヴィーゴ様、今回は誠にありがとうございました!」


 リンカンが迫るブリューの町に向かう前、ヴィーゴとの面会を果たしたダルマツィオは、会って早々に深々と頭を下げ礼を述べた。


「気にするな。元々お前はオルランドの巻き添えを喰らっただけだ。落ち度はない。兄さん達を黙らす為に一時雑務をさせる事になっただけだ」


「それでも感謝致します」


 そう言ってダルマツィオは再度頭を下げた。


「それよりもリンカンとの闘いの事だ」


 話が進まないので、ヴィーゴはダルマツィオからの礼を受け取り、リンカンへの対策について話すことにした。


「はい。ギルマスからの話だと本気で我々帝国を潰すつもりでいるようです」


 実験の成功に気を良くしたのだろう、リンカンは総力を挙げて進軍しているようである。

 

「よくあんな国が今までもったものだな……」


「……全くです」


 ヴィーゴとダルマツィオは、こちらの戦力を分析出来ていないリンカンの事を呆れたように呟いた。


「奴等は気づいていないのか?」


「はい。全く……」


 ヴィーゴが皇帝に大見栄切ったのには理由がある。

 リンカンへの罠を仕掛けてあるからである。


「今回リンカンを潰せば次期皇帝は俺で決まりだ。これまで大人しくしていたが、あの2人は1国を治める器じゃない。腕力重視の脳筋バカと、安全地帯からの魔法攻撃しかしないビビリ野郎に付いていく部下など憐れでしかない」


 ヴィーゴと兄達は少しだけ年が離れている。

 年子の兄達は常に自分が上だと競いあっていた。

 兄達からしたら、文武においてヴィーゴは競い相手だとは1度も思った事などないだろう。

 自分が皇帝になったとき、都合よく使える駒ぐらいにしか思っていなかったはずだ。


「あんな奴等が皇帝になったら、帝国はすぐに潰れると断言出来る」


 ヴィーゴはこれまでの戦争で大して目立たないようにしてきた。

 目立って兄達に邪魔されるのは我慢ならない。

 その為、文武においても目立たないようにしてきた。

 小さい頃から全てにおいて兄達以上の才能を持っていたヴィーゴは、現在戦闘力は父をもしのぎ帝国最強である。

 その事をちゃんとした目を持った将軍達は、理解しているようである。

 ダルマツィオもその中の1人である。

 今回ケトウ大陸の中で帝国を除いて最大の領土を持つリンカンを倒せば、次期皇帝争いから兄達はお払い箱である。


「俺が皇帝になったら即排除だな……」


 あの2人の事だから、ヴィーゴが皇帝になったら納得などしないだろう。

 ヴィーゴの暗殺を考えるのが分かりきっている。

 不穏分子は即排除、父のダヴィドも良く言う台詞である。

 どうやらダヴィドの血を、一番良い形で受け継いだのはヴィーゴらしい。

 母似の中性的な顔でありながら、浮かべた黒い笑顔は完全にダヴィドそのもののようであった。


「ヴィーゴ様こそ皇帝に相応しい御方、私はその為に役に立てるよう精一杯努めさせて頂きます」


 ダルマツィオは将軍の地位に付いてすぐ、ヴィーゴの下に付くことが決まった。

 まだ成人の年齢にも満たないが、皇帝の子供と言うだけで大将軍の地位を与えられたお飾り三男、と噂されていた子供の下に付くのは正直不愉快だった。

 しかしヴィーゴの側に付いて、その隠している実力を垣間見て気持ちを切り替えた。

 次期皇帝になるのはヴィーゴだと思ったダルマツィオは、それまでの武力重視の考えを変えた。

 部下の才能を見極め、自分に有力な人間を釣り上げた。

 それが現在ダルマツィオの右腕のエピファーニオである。

 将軍になりたての頃のダルマツィオしか知らなかったティノが、以前との変化に目を見張ったのは、大本を正せばヴィーゴによるものである。


「俺はお前が将軍として優れているのは分かっている。期待しているぞ!」


「ありがたきお言葉恐れ入ります。それでは例の策の準備に入るよう指示を出しますので失礼します」


 そう言って、ダルマツィオはヴィーゴの前から立ち去った。


『リンカン軍のみならず、ケトウ大陸の国々は思い知ることになるだろう……』


 部屋から出て廊下を歩きながら、ダルマツィオは沸き上がる気持ちを抑えるのに必死になっていた。

 ヴィーゴの名が大陸中に知れ渡る日が、すぐ目の前にやって来ている。

 ダルマツィオは、ヴィーゴが帝国を最強最大の国家へと導いてくれると信じている。

 もしかしたらこの大陸のみならず、他の大陸へも進出できるかもしれない。

 それ程偉大な人間に、ヴィーゴはなれる実力を有している。


『必ず勝つ!』


 これからヴィーゴが歩む覇道の第一歩、その餌食となるリンカン王国軍との闘いを、最高の形で勝利するべくダルマツィオは気合いを入れ直して歩いていった。



◆◆◆◆◆


「おのれマッシモ! 我々オルチーニ家に黙って帝国への進軍を決めるとは!」


 リンカン王国オルチーニ公爵家の当主エンニオは、帝国への進軍が決まったことを後から知らされ、自分が国の中枢から外されていることに憤りを覚えていた。

 一人息子のベリザリオを殺され、仇を撃とうとオルランドを殺害に向かったところ大打撃を受けて撤退、コレンナ公爵家当主のマッシモは、その責任を追求して中枢から外れるように王に進言した。

 そして現在エンニオは、帝国との戦争の先陣を任された。


「……まあいい、もうやることはやった。これから私はもう一度上に立つのだから……」


 誰もいない自陣でエンニオは密かに呟いたのだった。


 

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