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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第6章
135/260

第135話 情報提供

 帝国の王都のダイーに入ったティノは、帝国のいつもの光景に胸くそ悪くなっていた。


「オラー! しっかり運びやがれ!」


 商人らしき男が、荷台に大量に荷物を乗せた荷車を奴隷らしき男性に引かせていた。

 奴隷の男性は食事もまともに与えられていないのか、痩せ細った体で苦悶の表情をして荷台を引っ張っていた。

 その速度の遅いことに、荷物の持ち主である商人が腹をたて足蹴にしていた。


「ったく! そろそろこいつも買い換え時かな?」


「!!? すいません! ちゃんと運びますのでお許しください!」


 商人の男がそう言うと、奴隷の男性は細い手足に懸命に力を込めて、荷車を引っ張っていった。

 その光景を他の帝国の住民は、何とも思わない様子で通りすぎて行っていた。

 それもそのはず、このような光景はこの国が出来てから当たり前の事なので、気にする人間などいないのである。

 この国には冒険者も寄り付かず、冒険者ギルドはあっても開店休業状態になっている。

 しかし、有事の際にはかなりの金額が支払われるという理由から、ならず者の冒険者が集まるのでどうにか成り立っているらしい。

 帝国にこれまで支配下に収められた国の住民は奴隷にされ、ほとんどが元リューキ王国への道路整備に当てられている。

 しかし、こういった個人用に肉体労働をさせられる人間や、若い女性であったなら娼館送りにされる事も多いらしい。

 帝国は数々の土地を手に入れてきたので、奴隷の数は莫大に膨れ上がっている。

 そのせいか、帝国市民は掃いて捨てるほどいると思っているようである。


「…………」


 今もティノが通っている道の端には、痩せ細った5才位の子供の遺体が転がっているというおぞましい光景が広がっている。

 ティノ自身多数の他人の命を奪ってきた身ではあるが、さすがにこの国の住民の神経はイカれているとしか思えないでいた。


 冒険者ギルドに入ると、やはり今は戦争が近い時期に無いせいか、1人の冒険者もいなく、受付も欠伸をしている始末である。


「暇かい?」


「おぉ、いらっしゃい! 生憎、金になりそうな依頼はないよ」


 受付に話しかけると、戦争時の大金目当ての人間に思われたのか、仕事は無いと言われた。

 しかし、その勘違いは予想通りである。


「次はいつ入りそうだい?」


 ここのギルドならば、他には知れ渡らない情報も入ってくるはずである。

 それを期待して、ティノは問いかけてみたのである。


「ここだけの話、帝国は現在戦争をし過ぎたせいか、貯蓄の方が空っぽに近いらしい。リューキを手に入れたのは食料を豊かにする目的が大きいらしいぞ」


 元リューキ王国の土地は人口は少ないが、作物が豊富に取れる事が知られていた。

 どうやら帝国は、それを見越して手に入れたらしい。


「ちょっとした情報があるんだが、買うかい?」


 ギルドとしては戦争がしたい訳ではないが、戦争で儲けているのも事実なので、そういった情報がほしいものである。

 ティノはギルドを利用して、帝国が動かせないかと考えている。


「ほぉ、そいつは聞いてみたいね!」


 その時、1人の男が奥の部屋から出てきた。

 ここのギルマスのコンサルボである。


「証拠はないけど聞いてくれるかい?」


 ティノは、ギルマス直々に話せるのはしめたものだと思いつつ問いかけた。


「あぁ、最近仕事が無くて困っていたんだ!」


 どうやらこのような地域のギルマスに任命されるだけあり、コンサルボという男もだいぶイカれた内面をしているらしい。

 戦争の種になりそうな情報が欲しくて、うずうずしているようである。


「リンカン王国の情報なんだが……」


 ギルマスの立場なら、皇帝とまではいかなくても、将軍クラスの人間と懇意にしているはずである。

 この男から上に情報が広まればもしかしたらと思い、ティノはリンカン王国の人造の魔物兵器の情報をコンサルボに話したのだった。


「……そんなことがあり得るのか?」


「さっきも言ったが証拠はない。しかし酔った兵士がそんな話をしていたのを確かに聞いた」


 コンサルボは聞かされた情報に目を見開いて驚きつつ、確認の質問をしてきた。

 それに対してティノは、もっともらしい嘘をついて答えを返した。


「……それが本当なら、のんびりしている暇はないな!」


 そう言ってコンサルボは、慌ててギルドから出て行こうとした。


「あぁ、ギルマス!」


 責任者が何も説明せず出て行ってしまったので、受付も慌てて呼び止めていたのだが、コンサルボは聞こえていないようであっという間にいなくなってしまった。


「……今の情報は役にたったかい?」


 ギルマスが急にいなくなったので、困った顔になった受付にティノは問いかけた。


「……確かにこちらには有益な情報でした。しかし、証拠がないのでは……」


 そう言って受付は渋った様子で呟いた。


「おい、おい、あれだけの情報をタダって言うんじゃないだろうな?」


 ティノとしてはギルマスが動いた今、もう用事は済んでいるが、怪しまれないように料金の徴収をすることにした。


「……分かりました。少ないですがこちらでどうでしょう?」


 そう言って受付は金貨を数枚渡してきた。


「少ないけどまあいっか……」


 他ならもう少し貰えそうな情報なのに、ここのギルドも資金不足なのだろうと思い、ティノはこれで手をうった。


「仕事の依頼が入りそうになったらまた来るよ!」


「そうですか。もしかしたら1、2ヶ月位で入るかも知れませんね……」


 ここでは仕事とは戦争を意味している。

 それを理解している受付も、ギルマスの様子からそれほど遠くない時期だと、ティノに教えていた。

 ギルドから出て、ティノは少し通りを歩いて、人通りがいないところから転移していった。


「すまんな。ここで安らかに眠りな……」


 そう言ってティノは、魔法の指輪から取り出した帝国の町の通りで転がっていた子供の遺体を、自然豊かな場所に埋葬してあげたのだった。


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