第133話 報告
「何をなさっているのですか!? マルコ様は王なのですよ! 軍もいるのですから、もしもの時の為に残っていて頂かないと!」
「悪い! 分かったから落ち着いてアドリアーノ!」
ドラーゴを倒して戻ってきたマルコは、現在アドリアーノに説教を受けていた。
「ロメオ! お前も何故止めなかった!?」
「すんません。止める間も無く行っちゃいまして……」
ロメオはマルコに頼まれ、冒険者を辞めてマルコ直属の護衛職についているのだが、自分より実力が上のマルコの護衛と言ってもやることはなく、たまにマルコと手合わせしたり、お忍びで魔物狩りに出掛けたりと、ほとんど遊び相手のようである。
とは言え役職は護衛なので、マルコを1人で行かせた事に一緒になって説教を受けていた。
アドリアーノは、王にも関わらずちょこちょこいなくなるマルコに、毎回小言を言う役割になっていた。
「……それにしてもすごい魔物だったよ!」
説教をかわす為に、マルコは倒して来た魔物の話をし始めた。
「それは変ですね……」
「え? どこが?」
マルコの話を聞いていて、アドリアーノは考え込むようにして呟いた。
「まず、この地域にドラーゴが出たのは、初代ルディチのカルロ様が子供の時に現れて以来聞いたことがありません。しかもそれが群れをなして襲ってくるなど、国によっては一夜で滅びますぞ」
「……確かに、マルコみたいな化け物でもいないとそうなるっすね」
「ロメオ! マルコ様は王だぞ! 化け物は言い過ぎだ!」
「……すんません」
現在王の間には3人しかいないので軽い口調で話しているが、他の人間に聞かれたら不敬罪だと言われそうな事を言うロメオに、アドリアーノは注意をした。
「しかし言い方は兎も角、ロメオが言うようにマルコ様のような実力者がいなかったら、この国も被害が出ていたかもしれません。それに……」
「それに?」
「僅かな可能性ですが、これ程の魔物の群れが自然に発生するとは考えにくいのではないかと……」
この言葉にマルコとロメオは険しい表情に変わった。
「……誰かが狙ってやったって言いたいの?」
「いえ、そこまでは言いませんが、人為的な何かが加わっているのではないかと……」
言われてみればアドリアーノの言った通り、今回の魔物の襲撃はおかしい気がしてきた。
「……う~ん、そうだとしたら結構面倒臭い事になるよね?」
「はい、誰がどのようにおこなったのか分からないと、似たような事がまた起こる可能性が捨てきれません」
3人は同じ意見になり、考え込むようにして黙り混んでしまった。
「マルコ!!」
「!!?」
そんな中、王の間に血相を変えたパメラが現れた。
「……どうしたの? パメラ……」
パメラの性格からある程度言いたいことは理解しているが、マルコは律儀に問いかける事にした。
「魔物の退治に出かけたって聞いたわ!」
「うん! 行ってきた!」
「何で私も連れて行ってくれなかったの!?」
ロメオと出掛けて帰ると、毎回のように何故自分も連れて行ってくれないのかと、パメラが拗ねるのもお決まりの状況になってきている。
その為、今回の魔物の出現を知って、パメラは急いで装備をしたのだが、その間にマルコが出て行ってしまったことに拗ねているようである。
「ごめん! じゃあ今度またあったら連れていくよ!」
へそを曲げたパメラを落ち着かせる為に、マルコは何とか思い付いた言葉を話した。
「マルコ様! 今回の様なことは次などあっては困るのですが!」
マルコの言葉に、アドリアーノの方が反応した。
当たり前だが、こんなことが続くような台詞に困ったような表情をしていた。
「絶対よ! 置いてったら許さないわよ!」
「パメラ様! そもそも御二人は軍に任せて下されば良いのです!」
アドリアーノそっちのけで、わーわーと話すマルコとパメラに、そのつどアドリアーノたしなめる言葉を投げかけていた。
◆◆◆◆◆
「フー、やれやれ……」
魔物の襲撃という特別な事が起きたとは言え、今日も1日平和に終わった事に、自室に戻ったアドリアーノは一息ついた。
“コンッ!”“コンッ!”
そこに、扉をノックする音がなった。
「……誰だ?」
「俺だ!」
夜に自分を訪ねて来るなどそうそう無い事なので、注意をしながら問いかけると返事が帰ってきた。
その声に覚えがあったので、アドリアーノは素直に扉を開けた。
「久しぶりだな? ティノ」
扉を開くとそこにはティノの姿があった。
3年ぶりに会ったアドリアーノは、懐かしい顔を見て僅かに表情を緩めた。
「久しぶりだな。マルコの相手に疲れてないか?」
室内に入ったティノは、アドリアーノの顔を見て軽い口調で問いかけた。
「確かに少しは疲れるが、マルコ様の側にいられる嬉しさの方が勝っているかな……」
肩をすくめた後、本音を話したアドリアーノにティノは平和そうで安心した。
「今日の事だが?」
「!!? 何か知っているのか?」
アドリアーノが訪問の用件を聞く前に、ティノは先に用件を話始めた。
「あぁ、今日の魔物の襲撃はリンカン王国の仕業だ。奴等はある人物を引き入れ、魔物の研究や実験を繰り返してきた。そしてそれの実験に今回ここが狙われたって訳だ」
「!!? おのれ!! リンカンの奴等め!!」
ティノの話を聞いて、アドリアーノは怒りの表情になり、強い口調で声をあげた。
「……で、その魔物を操ってるのがチリアーコって奴だ」
「!!? 確かそいつは……」
「俺とマルコの命を狙っている奴だ。大人しくしてると思ったらリンカンと繋がっていやがった」
チリアーコが以前マルコにちょっかい出してきた事は、アドリアーノに注意の1つとして教えておいた。
なのでアドリアーノはその名前を聞いて、思い出したような表情になった。
「俺はまたリンカンを調べてみる。だからマルコの周辺を気にしておいてくれ!」
そう言ってティノは、扉から出ていこうとした。
「マルコ様に会って行かないのか?」
その為、アドリアーノは行ってしまうティノに問いかけた。
「一応しっかりやってるようだし、危機でもないのに会う必要はないだろ……」
そう言ってティノは扉を閉めて、いなくなった。
「変に頑固だな……」
マルコの危機には駆けつけると言いつつ、今回の事で戻ってきたということは、まだマルコを心配しているのだろうと分かるのに、会って行かない態度に、アドリアーノは苦笑して呟いたのだった。