第132話 ルディチ王
新王国ルディチが建国して3年、この間ケトウ大陸の国々は膠着状態になっている。
どの国も、攻め混む隙を狙って睨み合っている。
そんな中、ルディチ王国は平和が続き、周辺地域から逃れるように来た市民によって人口が増えて来ていた。
「ギルマス!!」
「!!? どうした!?」
息を切らして1人の冒険者が、ギルドの中に走り込んできた。
その慌てた様子を見て、ギルマスのブルーノが冒険者に近寄っていった。
「ドラーゴです! 近くの森に地竜型のドラーゴが群れで現れました!」
「何!!? 何頭だ!!?」
ルディチ王国王都、トウダイの周辺には強力な魔物はあまり出現しない。
しかし、ごくまれに巨大な魔物が出現したりするのだが、ドラーゴ程の強力な魔物が出現するなど、数百年ぶりと言っても良いほど稀な事である。
「それが…………」
「早く言え! 時間が惜しい!」
躊躇う男の態度に、ブルーノは大きめの声で命令した。
「10頭です! その内1頭は他の倍近い大きさをしていました!」
「何だと!!?」
10頭のドラーゴなど、これまで聞いたことがない程の地獄だ。
「くそっ!! おい! Aランク以上の冒険者を招集しろ! 町にある回復薬をありったけ集めろ! 他の冒険者は市民の避難に手伝いを頼め!」
事態を把握したブルーノは、ギルド職員に冒険者と負傷したときの為に回復薬の回収の指示を出した。
「王宮にも連絡しろ! 場合によっては市民の避難を頼まなければならねえ! 急げ!」
「「「「「はい!!」」」」」
ギルド内にいた職員や冒険者達は、ブルーノの指示を聞いて各々が自分がすべき事を理解したように動き出した。
それから少しの時間が経ち、町にいたAランク以上の冒険者達が集まり、町の門の前に集まっていた。
『チッ! 流石にAランク以上だとこれだけか……』
門の前に集まった冒険者はおよそ50人位だった。
たった50人の人間で、10頭の地竜を相手にするのは正直キツい。
それでも新興国のこの国に、これだけの数が集まったのは奇跡である。
「相手は地竜型ドラーゴ10頭だ! 名前を売りたい奴は俺に続け!」
「「「「「おう!!」」」」」
Aランク以上まで登り詰めただけあって、冒険者達は恐れることなく先頭を走るブルーノに付いていった。
「おい、おい……、何だよあれ!?」
ドラーゴ達がいる森に着くと、冒険者達は驚きの声を上げた。
と言うのも、9体のドラーゴが巨大な岩のような大きさをしているのに対して、ボスらしき1体は倍以上の大きさの体をしていたからである。
ドラーゴ達は森の魔物や動物を食しつつ、トウダイの町に少しずつ近付いて来ていた。
「総員! 打ち合わせ通り3班に別れて1体ずつ確実に倒して行くぞ!」
「「「「「おう!!」」」」」
事前の打ち合わせにより、重装武器班、軽装武器班、遠距離戦闘班と3班に別れ、トウダイに向かってくるドラーゴの内1体を誘き寄せブルーノを先頭に冒険者達は襲いかかっていった。
「ガーーーー!!!」
軽装武器班がドラーゴの注意を引くため動き回り、その間に重装武器班が固い鱗に僅かずつだが傷を付けていく。
「「「「「はっ!!」」」」」
傷を付けられたドラーゴが反撃をしようと動くと全員一旦下がって躱し、遠距離戦闘班が魔法や弓矢などで味方が付けた傷を目掛けて集中砲火を喰らわす。
「グガーーーーー!!!」
傷が広がり苦しむドラーゴの隙をついて、軽装武器班が攻撃を開始する。
これらを繰り返すことで、ブルーノと冒険者達は1体また1体とドラーゴを仕留めていった。
「くそっ!! 数が多い!! このままじゃ町に着いてしまう!!」
冒険者達は町の為に命をかけたりはしない。
その為、なるべく安全に闘うので死人は出ていないし、怪我人は少ない。
その分倒せるドラーゴの数も少なく、まだ3頭しか倒せていない。
このままのペースでは、とてもではないが町への侵入を防ぐ事が出来ない。
「!!?」
どうするか考えていたブルーノ達の前に、町から応援が駆けつけた。
「冒険者の方々! 町への貢献感謝する! 遅くなったが我々ルディチ王国軍も助力致す!」
以前はクランエローエだった戦闘班メンバーは、マルコが設置した国の防衛を司る軍にほとんどが所属することを懇願した。
エローエ幹部だった者達は、団長格として待遇され、エローエの副長だったベルナルドを軍団長として活動していた。
300人程の王国軍兵が集結してドラーゴ討伐に参戦した。
「遅ーぞ!! ベルナルド!! だからテメーはしょっちゅう怪我すんだ!!」
「そんな事今は勘弁して下さいよ!! 先輩!! 大体今は軍団長なんですから部下の前で言わないで下さいよ!!」
ベルナルドとブルーノは同じ町出身で、高等部時代の先輩後輩になる。
なので、ブルーノは軍団長という立場を忘れいつもの口調で話していた。
王国軍の参戦によりドラーゴ討伐は勢いを増し、7頭いたドラーゴも残りはボスらしき巨大な1頭のみとなった。
「ダリャー!!」
我先にとボスに冒険者の1人が斬りかかった。
「ぐっ!? 固い!?」
しかし剣は弾かれ、全く傷を付けることが出来ない。
「「「「「はっ!!」」」」」
ならばと、魔法や弓矢の攻撃を雨のように降らすが、何事も無かったかのようにドラーゴは動いていた。
「剣も魔法も効かないのか!?」
これには冒険者だけでなく、王国軍の兵士達も驚きの表情に変わった。
「なら俺が……」
どんな攻撃も通用しないドラーゴに固まる人々を置いて、ブルーノが巨大ドラーゴに向かおうとしたところ、1人の男性が高速で追い越していった。
「ハーーー!!!」
その男は巨大ドラーゴの額にあった宝石のような物に、膨大な魔力を纏った剣を突き刺した。
「ギャオォォーー!!!」
地面に響き渡るような声をあげて、ドラーゴは苦しみ出した。
「リッチョ!!(針ネズミ)」
そして更に膨大な魔力で、男は巨大ドラーゴの体内に氷魔法を放ち、内部から串刺しにして、まるで針ネズミのような見た目にしてドラーゴに止めを刺した。
「「「「「…………………………」」」」」
その戦闘力の高さと、それを行った人物に対して、王国軍の兵士や冒険者達は口を開けて驚いていた。
「やったね!」
巨大ドラーゴを1人であっさり倒した男は、ブルーノやベルナルド達軍の団長格達の前に降り立ち、ピースサインをして軽い口調で呟いた。
「お前は……」「あなたは……」
その男にブルーノとベルナルドは呆れた様子で呟き、
「「何をやってるんだ(ですか)!!?」」
大きな声で男に詰め寄った。
「王が戦闘の最前線に出てくるなんて何考えてんですか!!?」
「……いや~、すごい魔物が出たって言うから、つい……」
そう、その男とはマルコのことであった。
王になったとは言え、魔物と聞いたマルコは何も考えず飛び出して来てしまったのである。
15才になり、背丈も伸び立派な成人男性になっても、昔の気持ちを抑えきれなかったのである。
すごい剣幕で注意するベルナルドに、王なのにマルコは申し訳無さそうにしていた。
「つい、ではありませんよ! 無茶しないで下さい!」
「うん。分かった! あと、よろしく!」
「あっ!? マルコ様!」
注意するベルナルドを軽く流して、マルコは闇魔法の転移でその場から逃げていった。
ドラーゴの後始末を任せて……
「はぁ……、全く、我が王は何を考えておられるのやら……」
いなくなってしまったマルコに、軽く溜め息をつきながら、ベルナルドは嬉しそうに呟いたのだった。
「全くだ……」
その一部始終を、離れた場所で1人見ていたティノも、同意の言葉を呟いたのだった。




