第131話 その後
「かっこつけて出てきたは良いけど、どこ行こう……」
取りあえずトウダイの町から出てきたが、どこの国から探りを入れるか迷っていた。
「リンカンかハンソーのどっちかだろうな……」
現在マルコの国は、西のリンカンと南と東にハンソーが接している。
当然このどちらかが、そのうち攻めて来るだろう。
「……リンカンだな」
これまでの行動から、ハンソーの現国王は思慮深い性格の印象である。
自分から攻め込むということは、あまりしてくる感じはない。
それに引き換え、リンカンは王都を奪われ、その屈辱を晴らす機会を虎視眈々と狙っているはずである。
リンカンの元王都を奪ったハンソーに攻め込む前に、こちらも元リンカン王国の領土だったトウダイを奪い返しに動く可能性がある。
そう考えたティノは、現在のリンカン王国を調べに動き出した。
◆◆◆◆◆
「先生いなくなっちまったな……?」
その頃ティノがいなくなったルディチ王国では、マルコの自室でマルコとロメオがティノの事を話していた。
「……うん。昔からたまにいなくなる事はあったけど、今回は何となくいつもと違う気がする」
自分が王になると言った時、ティノは嬉しそうな顔をしていたと同時に、何か考え込んでいた気がした。
その時の表情は、今まで見たことがなかったように思えた。
「まぁ、マルコ王はやること沢山あるようだし、俺もそろそろ行くかな?」
ロメオはわざとらしく、王をつけてからかったように言った。
「!!? ロメオも出ていくの?」
マルコはからかった前半の部分ではなく、後半の言葉に反応した。
「んな訳ないだろ! 冒険者なんだしこの町を拠点に動くつもりだよ!」
「……そうか、良かった……」
王国が誕生したことにより、新しく冒険者ギルドの支店が出来た。
その支店のギルドマスターに、ブルーノがなることになった。
パメラもギルドの職員をしながら、時おり冒険者として活動している。
「ブルーノのオッサンも忙しそうにしてるだろうな……?」
「……そうだね」
2人が話しているところに、扉をノックする音がした。
「失礼します。マルコ様、グリマンディ家のダニオ様、カセターニ家のチリーノ様が謁見したいといらっしゃいました」
アドリアーノが入ってきて、そう言ってきた。
「じゃあ、俺はまた来るよ!」
「うん。またね!」
王としての仕事が出来たようなので、ロメオは退室していった。
「……それで? お二方は何の話ですか?」
「……失礼ながらマルコ様、下の者に敬語を使うのはお止めください。王としての示しがつきませんので……」
「すいま、すまなかった」
「では、向かいましょう!」
マルコは、まだ王としての言葉遣いになれていない為、どうしても敬語が出てしまう。
アドリアーノはその事を優しく注意して、応接間に案内していった。
国が出来てもまだ王宮は造られていない為、マルコはクランの元集会場だった家をそのまま使用している状態だ。
「!?」
応接室に入ると、アドリアーノが言っていた2貴族の他に、パメラとブルーノも後ろに控えていた。
即位式が終わってから3日経ったが、中々会いたくても会えなかった2人の顔を見て、マルコは若干笑顔になった。
「謁見のお許し頂きありがとうございます。我々が今回お邪魔致しましたのは、マルコ様の女性関係についてお話しさせて頂きたく参上しました」
上座にマルコがソファーに腰掛け他の者を座らせた後、チリーノは単刀直入に用件に入った。
ちなみにパメラとブルーノは立ったままである。
「女性関係?」
何の事だか理解出来ないマルコは、チリーノの発言に首を傾げた。
「マルコ様はこのパメラという女と親しかったとお聞きしました。ですが現在のマルコ様は王になられました。このような市民の女にウロつかれては、マルコ様の評判に傷がつきます!」
「…………」
チリーノの言葉によってパメラは黙ってうつ向いてしまった。
「この度伺ったのは、我がカセターニ家の娘、そしてダニオ殿のグリマンディ家の娘の誰かを王の妃にして頂きたくお話しに伺いました」
「左様! そこの市民の女とは違い我々の娘は貴族の生まれ、マルコ様の相手には相応しい身分だと思われます!」
打ち合わせでもしていたのか、チリーノの発言に合わせてダニオが話し出した。
「…………!」
話を後ろで聞いていたブルーノは、パメラの身分を蔑む言葉に腹が立ち、本当の事をぶちまけようと一歩踏み出そうとした。
「黙れ!!」
「!!?」
ブルーノが動くより前に、マルコが立ち上がって大きな声をダニオ達に向かって放った。
「パメラさんは15才の女性でありながら、現在SSランクに近い実力の持ち主だ! 男でもここまで登りつめるのは難しいのに、ここまで来るのにどれ程の努力と苦労を重ねたか分かるまい!」
自分もティノによって鍛えられたから分かるが、女性の身でSから上はまともな努力ではなることは出来ない。
その事を無視してパメラを侮辱するような発言に、マルコは2人を睨み付けた。
「私は……、僕はパメラさんを尊敬している!」
パメラの顔を見て、マルコは言葉遣いをいつも接していたように話しかけた。
「だからパメラさん!」
「はい!」
急に話しかけられ、パメラは焦りつつ返事を返した。
マルコはパメラに近寄り、左手を胸に当て、右手をパメラに差し出した。
「僕と結婚して貰えませんか?」
突然のマルコのプロポーズに、室内の全ての人間は、声を出すことが出来なく固まってしまった。
言われたパメラも顔を赤くし、違う意味で声が出せないでいた。
「なりません! マルコ様は王になったのです! 先程も申したように市民の身分の娘など……」
「待ちな!!」
尚も食い下がるチリーノの言葉を遮り、ブルーノが声を上げた。
「何だ!? ギルマスが話に入ってくるな!」
「マルコ様には言っていませんでしたが、こちらのパメラ様は……」
いつもと違う言葉遣いでパメラの名を呼び、ブルーノは魔法の指輪からペンダントを取り出した。
「前リンカン国王の落とし種です!」
ペンダントには、前国王の王家の紋章が刻まれていた。
現在のリンカン王国は、前王が亡くなった後に全て破壊していたので、この紋章は存在しているはずがない。
「その紋章は……!!?」
「そんな……!!?」
その事を知っていた2貴族は、驚愕の表情でパメラを見つめた。
「父君である前王が現王に殺害され名乗ることが無かったが、パメラ様のフルネームは……」
ブルーノは2貴族を睨み付けていい放った。
「パメラ・ディ・リンカンだ!!」
前王はマルコの母方のサヴァイア家と親しく、特にマルコの祖父と仲が良かったことはこの2貴族も知っている。
その娘を前に、自分達がいちゃもんをつけていたことに2人は顔を青くした。
亡くなったとは言え、前王は偉大な存在だったことは忘れていない2人は自分達の発言を恥じた。
「「し、失礼しました!」」
立場的には完全に下になる2人は声を揃え、慌ててパメラに跪いた。
「…………」
突然の事で理解できなくなり、今度はマルコが固まってしまった。
「マルコ様!」
「は、はい!」
「私で良ければ……」
そう言ってパメラは、差し出しされていたマルコの右手を優しく握ったのだった。
こうして、2人が婚約したことが瞬く間にルディチ王国の市民に知れ渡り、建国に沸く国民は更に活気に溢れたのであった。
何とかここに持ち込めました。新章に入る前にどうしても入れて置きたかった話です。