第129話 新国王
パメラを現王の子から前王の子に修正しました。その為第125話の話を少し書き替えました。
卒業式が終わった翌日、ティノはマルコとロメオを連れて、パメラとブルーノが待つ冒険者ギルドに向かった。
「お待たせしました」
「オッス、こっちも今来たとこだ」
短い挨拶を交わした後、5人はジョセンの町を西に向かって歩き出した。
「トウダイか……、あそこの市民も大変だったな……」
歩きながらブルーノは、当時起こった事を思い出していた。
あの時には自分はパメラのお守りをしていたので、討伐に関わることは無かったが、前王の死をサヴァイア家が行ったとは思っていなかったブルーノは、トウダイの町の事を心苦しく思っていたのだった。
「確か、もしかしたら立国するって噂が流れていたけれど、どうなのかね?」
ティノ程の実力者が、何の調査もなしにトウダイに向かう訳ないだろうと思い、ブルーノは探りを入れてみることにした。
「あぁ、グリマンディ家とカセターニ家のどちらかが君主になるのではないかと、市民の間では噂されている。」
「その2貴族じゃ、色んな意味で少し物足りないな……」
元貴族とは言え、その2貴族とも男爵位でしかなかった。
血筋的にも周囲の国から認められ、相手にされるにはとてもではないが弱い気がしてならない。
「……そうだな。あの2貴族だったなら他国への影響力は低いだろうな……」
そうしてティノは、意味深な言葉を放って話を切り上げたのだった。
◆◆◆◆◆
ティノ達がトウダイに到着したその日に公開会議が開催され、今まさに2貴族が君主に決定するところにティノは間に合った。
「ちょっと待った!」
そう言ってティノは観衆をかき分けて、舞台の上にゆっくりと上がっていった。
「ティノ!? もう遅いんだ……」
アドリアーノは、内心自分を押す為にティノが来たのだと思ったので、今となっては覆ることのない2貴族の君主に諦めの言葉を呟いた。
「……誰だ?」
初対面のダニオとチリーノは、舞台に突如上がってきた男に訝しげな表情をして尋ねた。
「……お初にお目にかかります。グリマンディ様、カセターニ様、私ティノと申しまして、アドリアーノの友人にあたります」
ティノは礼儀正しく2貴族に対して話始めた。
アドリアーノからしたら、いつの間に友人になったのだと言いたくなるところだったが、取りあえずティノの話を聞くことにしたのだった。
「失礼ながら、御2方よりも君主に相応しい御方を連れて参りましたので、市民の前であるここで紹介をしたいと思い登場致しました」
「何だと!?」
「我々より相応しいだと?」
一国の王になることが確定したような空気になっている今、自分達より相応しい人間がいると言うティノに対して、2人は眉をしかめて問いかけた。
「…………!」
問いかけられたティノは、黙って人を招くような合図を送った。
そして市民で溢れかえる人混みの中から、1人の少年がその合図を受けて舞台の上に上がってきた。
「……おい! ティノ!?」
アドリアーノは、ティノには息子がいると部下のヤコボから聞いていたので、この少年がティノの息子だと思ったので、何故今その少年をここに立たせるのかと、制止の声を上げた。
「……さぁ、自己紹介を皆の前でするんだ。フルネームで……」
アドリアーノの言葉を目で止め、ティノはそう言って少年から離れた。
「……初めまして、トウダイ市民の皆さん」
沢山の視線が集まるせいか、若干の緊張をはらんだ声で少年は話始めた。
「僕の名前はマルコです……」
「マルコ・ディ…………」
「ルディチです!」
少しの間をおき、自分の名前を言ったとたん、ティノを除いた会場にいる全ての人間が、その家名によって言葉を発する事なく固まった状態になった。
溢れるほどの市民達はその人数にも関わらず、黙りこみ、辺り一面音が消え去ったような状態になった。
「僕は前領主フランコ、その妻アイーダの1人息子マルコです。執事のセバスティアーノが息を引き取った直後、こちらのティノに救われました」
ティノからこの場に立つかどうかは、マルコに委ねられていた。
君主を決定する会場に行き、その舞台に立つには王になるという覚悟が必要である。
その事を道中真剣に話し合った結果、マルコは自分が両親の思いを引き継ぎたいとティノに話していた。
「…………」
アドリアーノ達、クランエローエ幹部はティノの顔をゆっくりと覗きこんだ。
そしてティノのどや顔を見た瞬間、無言で涙を流しながらマルコに膝をついて頭を下げた。
その姿を見た市民達も、涙を流しつつその場に跪いてマルコに頭を下げた状態になっていった。
これによって、マルコが新立国の君主になることが決定したのだった。
最初マルコがルディチの血を引く人間だと信じないでいたダニオとチリーノの2人は、証拠の提示を求めて来たが、それもすぐに解決することになる。
「アドリアーノ! 骨壺を持ってきてくれ!」
「!!? あぁ、分かった!」
ティノのこの言葉ですぐに理解したアドリアーノは、すぐにクランの待合所に向かい、フランコとアイーダの骨壺を持って、ルディチ家歴代の当主が埋葬されたお墓に持ってきた。
マルコを筆頭に2貴族とエローエメンバーが続き、沢山の市民もその場についていった。
「このルディチ家の墓は、どういう訳か血を引く人間以外を近付けない結界が張られている。本当にルディチの者と言うのであればこの結界の中に入れるはずだ!」
チリーノは、集まった市民にも分かるように説明するかのように話し出した。
「マルコ様!」
「!?」
そこに骨壺を持ったアドリアーノが現れ、マルコにしっかりと渡したのだった。
「この骨壺は……?」
「マルコ様のご両親です! 我々では埋葬出来ません。どうかその手で埋葬して差し上げてください。」
アドリアーノはこの日が来るとは思いもしていなかったので、マルコの両親を歴代のお墓に埋葬出来ることに嬉し涙を流しながら頭を下げた。
「……父上、……母上」
骨壺とは言え、ようやく会えた両親に目頭を熱くしつつ、マルコはルディチ家の墓に向かって歩いて行った。
「おおっ!!!」
集まる全ての人間が、思わず声をあげたのだった。
マルコは結界に弾かれる事なく墓の前にたどり着き、両親の骨壺を埋葬することに成功した。
これには2貴族も文句が言えなくなり、マルコがルディチ家の人間だと言う証明がなされた事になった。
その後、新国ルディチの立国は大陸全土に瞬く間に知れ渡って行ったのだった。
そしてその国王マルコの名も同時に広がって行った。
マルコの国王の即位式が終わると、その場からティノは姿を消したのだった。