第128話 卒業後
「トウダイに行けるのですか?」
卒業後の話をマルコとしていたティノは、選択の1つにトウダイに行くことを話した。
「お前が行くつもりなら構わないぞ」
これまで幾度か、マルコがトウダイの現状を知りたがっていたのは分かっていたが、ティノが行くことを許さないでいたので我慢させていた。
両親の元領地に向かい、少しでも記憶のない両親を身近に感じたかったのかもしれない。
「行きます! トウダイに行って現状を見てみたいです!」
「そうか……」
最初から分かっていたことだが、ティノはとても嬉しそうな笑顔で話すマルコに苦笑した。
「先生! 俺もついて行っていいすか?」
マルコの寮室で2人で話していたのだが、隣の部屋のロメオは盗み聞きしていたらしく急に部屋に入ってきた。
「……ロメオ、盗み聞きは止めろ!」
「……そうだよ!」
入ってきたロメオに若干呆れた顔をしつつ、2人はそろって批判の声をあげた。
「いや~、すんません! 卒業後冒険者稼業で食って行こうかと思ってたんですけど、マルコを誘いに来たら面白そうな話をしていたんで……」
あまり反省の色の見えない態度でロメオは話した。
漁師の息子のロメオだが、そちらは兄が継ぐので自分は冒険者として生きる事にしていた。
取りあえず国内を回ってみようと思っていたのだが、山1つ越えた所にあるトウダイにはいつか行ってみたいと思っていたところである。
「……まぁ、いっか……」
別に断る理由もないし、これから色々あるだろうマルコの側に、信頼できる友人がいることは望ましい事だと考えたティノは、ロメオを連れていく事にした。
「後はブルーノさんとパメラ嬢だな……」
初等部を卒業したパメラは、現在ブルーノと一緒に冒険者として、この町を中心に働いている。
どうやらパメラが、この町から離れるのを嫌がったらしい。
「ティノ様! パメラさん達も連れて行くのですか?」
何故パメラ達を連れていくのか疑問に思ったマルコは、すぐに反応を示した。
ティノは、未だにパメラの出生の事はマルコには話していない。
話したところで、あまり意味がない事だと思っているからである。
「……あぁ、声はかけてみるつもりだ」
誘えば恐らくパメラ達もついてくると思うが、未だにパメラの気持ちに気付いていない感じのマルコに、ティノは何となく不安な気持ちになりながら答えた。
『こいつは色恋に興味がないのか?』
パメラは、ハッキリ言ってかなりの美人である。
そのパメラに、休日に度々誘われて一緒に買い物に行ったりしているのに、相変わらずの反応しかしないマルコにはティノは疑問に思うことが何度かあった。
「マルコ、お前パメラ嬢の事をどう思っているんだ?」
何故か今日はその事が気になったので、ティノは思わず聞いてしまった。
「えっ? 好きですよ!」
「…………あっ、そう?」
恥ずかしげもなくすんなりと答えるマルコに、ティノは逆に言葉がすんなりでなかった。
「じゃあ、お前がパメラ嬢を誘ってこい! その方が喜んで付いてくるだろうから……」
「はい! 分かりました!」
少しからかい半分で言ったのだが、マルコは簡単に受け入れ、パメラを探しに町に向かっていった。
「赤子の頃からずっと一緒だが、これに関しては全く理解できないな……」
マルコの事は大体分かるつもりでいたのだが、理解できないことが見つかり、ティノは何となく手が離れたような気分がして、嬉しくもあり哀しくもあるような気分になった。
「……いや、俺もマルコのあの部分は理解できないっすよ!」
一部始終見ていたロメオも、マルコのこう言ったところが理解できない事に同意していた。
その後、マルコの誘いにあっさり乗ったパメラと、その護衛の為にブルーノもトウダイに付いていく事になった。
◆◆◆◆◆
トウダイではその日、ヤタ、ツカチの市民にも知れ渡らせる為に、2つの町に一番近い場所で建国する為に君主を決める公開会議を開くことになった。
グリマンディ家、カセターニ家の2貴族とクランリーダーであるアドリアーノの3人が君主候補にはなっているが、市民の大半は2貴族のどちらかが君主になるのであろうと思っていた。
後は、どちらを君主にするのかが問題になっていた。
どちらがなっても遺恨が残り、折角の平和になりつつある町に争いが起こるのではないかと、アドリアーノは考えている。
この会議の開催までの間、両方の貴族から市民の信頼のあるアドリアーノに、密かに自分を推薦するようにと、軽い圧力がかけられていた。
両家とも確かにルディチ家と仲は良かったが、結局は難を逃れて逃げた一族、最後の一線を越えて信頼することがアドリアーノは出来ないでいる。
「今回建国にあたり、君主を決める事になった! そしてグリマンディ家とカセターニ家の両家で話し合った結果……」
会議が始まってすぐに、グリマンディ家当主のダニオが市民に向けて話始めた。
「どちらの家が君主になるのか話し合った結果、我がグリマンディ家が当主になることに決定した!」
「!!?」
アドリアーノからしたら寝耳に水の話だった。
どちらがなるにしても問題が起こると思っていたが、アドリアーノが知らないところで、両家による密約が交わされていたようである。
『くそ!!? こいつらいつの間に?』
アドリアーノは内心焦っていた。
この会議で両家が揉めてくれれば、自分を押す市民が出てくることを僅かに期待していたのだが、これでは手が出せない状態になってしまった。
「更に我が家の長女ブリジッタと、カセターニ家長男のクリスピーノの婚約を発表したいと思う!」
続けられたダニオの言葉に、アドリアーノは完全に敗北を喫した。
これなら揉めることなく両家の支配が完成する。
自分達の意見など通ることなどないだろう。
会場の市民も反対の考えはないようで、拍手が次第に大きくなっていっていた。
「ちょっと待った!」
そこで1人の男が制止の声を上げたのだった。