第126話 就職
大会を優勝してから12日経ち、船でようやくジョセンにたどり着いたティノ達は、そのまま学校の校長室に向かった。
昔は王都からジョセンまではもっと長い時間がかかっていたのだが、船の進化によって半分以下の日数で着けるようになっていた。
「マルコ君、優勝おめでとう! そしてありがとう!」
校長室に入ると、校長は嬉しそうにマルコに祝福の言葉と感謝の言葉をのべた。
「……ところで、そちらはどなたですかな?」
そして、マルコとティノの後ろに立つブルーノとパメラを見て、疑問の声をあげた。
「その事なんですが……」
ティノはブルーノとパメラの事を説明し始めた。
◆◆◆◆◆
「行く宛が無いならジョセンに来ませんか?」
優勝後にブルーノと酒場で飲んでいた時、ティノはジョセンに来ることを勧めていたのである。
「……えっ?」
「パメラ嬢はマルコを気に入っているし、恨みに生きるより良いんじゃないですか?」
ティノからしたら、パメラとブルーノをこのまま放置するのはもったいないと考えている。
隠し子とは言え歴とした王族の血をひく王女と、強力な戦闘力を持つ元護衛団長、いずれトウダイに向かうマルコにとって、この2人はきっと役に立つと考えている。
このまま2人をトウダイに連れていってもいいけれど、ティノもそれほどトウダイの連中に信用を得ていないので、あまり良い選択には思えない。
ならばマルコの側に置いておいた方が良いと思い、ブルーノをジョセンに誘ったのだった。
パメラの育ての親であるブルーノにとって、復讐に生きるパメラを見ているのは若干心苦しい部分があるだろう。
それを思ったティノは復讐より恋に生きろとさせることで、2人をこちら側に引きずり込もうと考えた。
「まぁ、それは確かにそうだが……」
ブルーノはティノが思っている通り、パメラが復讐に執着しているのを良く思っていなかった。
だからと言って、それだけの理由でジョセンで暮らすのはメリットが少ないように思い、ブルーノは躊躇していた。
「俺もいますし……」
ティノは、もしもパメラが危険な状況に陥った際、自分が協力するといった言葉を暗に言っている。
ブルーノが手も足も出ない実力の持ち主である自分が味方にいることは、多少の問題なんて簡単に蹴散らして、逆にメリット満載であろうと提案してみた。
「…………」
まだ悩みがあるのか、ブルーノは少し無言になって固まっていた。
「それであんたのメリットは?」
ティノが自分達を何故誘うのかという疑問が浮かんで来たブルーノは、率直に尋ねて来た。
「…………」
今度はティノが無言になった。
別にパメラとブルーノをこちら側に引き入れなくても構わないのだから適当に返せば良いのだが、酒が少し入っているせいか、何となくこの2人を手放すのが躊躇われた。
「マルコはそのうち巨大な困難にぶつかります。その時あなた達はマルコの役に立つ、と考えたもので……」
色々誤魔化してはいるが、ティノは2人を誘うメリットを端的にぶっちゃけた。
「……ははっ、俺達を利用しようって考えか?」
「えぇ、まぁ……」
ティノにしては最近では珍しく、本心をぶつけてみることにした。
「……まぁ、こっちからしたらあんた達を利用しようってんだ。お互い様か?」
最初険しい表情をしたブルーノだったが、苦笑しつつ納得の声をあげた。
「あんたの言う通りあんたは俺達に役に立つ、だからジョセンに向かうとするよ。」
そうしてブルーノは笑顔でティノの提案を受け入れたのだった。
◆◆◆◆◆
「……と言う訳で、2人の事を何とか出来ませんかね?」
ティノはパメラとブルーノが、危険なボウシカの町に帰るより、他国へ亡命しようとしている事を説明した。
勿論パメラ達の素性は隠して話した。
「戦闘力の高いブルーノさんを教師として欲しいと思いませんか?」
残り半年くらいで卒業のパメラの編入と、ブルーノの就職を校長に頼む為に一緒に校長室に連れてきたのである。
「ん~……、そうじゃのう……」
校長からしたら急な話に、戸惑いを隠せずにいた。
現在はハンソー王国の領土の市民とは言え、元は敵国の人間を招き入れるのは、どうしても躊躇われるところである。
「……そうだ! マルコの優勝賞金は学校に寄付しようと思っているのですが?」
「何ですと!?」
学校の経営に苦労している校長は、王国からの少ない援助金では赤字にならないようにするので手一杯で、施設を充実させようにも全く資金不足で困っていた。
マルコの優勝で、王国からの援助金の額は上がるだろうが1年限りの話であり、少しでも資金は欲しいところである。
その為、ティノの発言は嬉しい話である。
「ですので……」
金が欲しければ2人を受け入れろと暗に言っているように、ティノは校長に促した。
「……ブルーノ先生の給料は安いけれど良いですかの?」
渋々といった感じの表情をしながらも、校長は2人の受け入れを許可する言葉を吐き出した。
「大丈夫です。足りない部分は休日にでも冒険者仕事で稼ぎますので!」
給料の事を言われたブルーノは、そう返して校長に軽く頭を下げた。
「良かったですね! これでしばらく一緒ですね?」
「えっ!? う、うん!」
その脇でマルコが嬉しそうに満面の笑みで話しかけたので、パメラは顔を赤くしつつ返事を返していた。