第125話 回想
言ってみれば簡単な事である。
前リンカン国王が、市民の女性に手を出して生まれたのがパメラである。
王妃とサヴァイア公爵家当主は知っていたが、それ以外の人間には秘密にされていた。
国王は、パメラの母に十分な資金を与え、王都の端に住まわせていた。
一応パメラは王女なので、正妻である王妃との間の子であるノルベルト王子に、もしもの事があった時のために、護衛と言う名の監視役を置いていた。
「それが俺だ……」
ブルーノは当事宮廷護衛団団長まで登り詰めたエリートだったが、仲の良かった公爵家のサヴァイア家の当主に頼み込まれて、自分からその役割に名乗りを上げたのだった。
「確かお嬢が3才になった頃かな……」
パメラが3才の時、父である前王とその一家が、サヴァイア家によって暗殺された事が知れ渡った。
そのショックからか母のエルダが病にかかり、その半年後に亡くなったそうだ。
その事件の裏側を後から知ったのだが、ブルーノは絶対にサヴァイア家の犯行ではないと確信していた。
「お嬢は子供ながらに復讐を誓ったんだろうな……」
それからブルーノの指導によって、パメラは冒険者としてコツコツ稼いで実力をつけて来たらしい。
ブルーノの指導もあったが、パメラの戦闘の才は素晴らしく、着実にランクを上げて行った。
一応とは言え王女のパメラに、魔物との戦闘をさせるのは心苦しかったブルーノだったが、それ以上に成長していくパメラが娘のようで嬉しかった。
そして数ヶ月前、国王や貴族達が市民を放置して王都から去ったことで、パメラはそのあまりの行いに、現王に対して怒りの感情が沸き上がった。
「いつか見捨てた民衆の前で国王を自害させてやるって、よく言ってるよ……」
若干苦笑しつつ、ブルーノは哀しそうな表情をして、酒を飲んでいた。
「ふ~ん……」
ティノはブルーノの話を聞いて、自分とマルコの関係に似たものをブルーノとパメラに感じていた。
「ところで、あんたはどうなんだ?」
自分だけ話していたように思ったブルーノは、漠然とした質問をティノにしてきた。
「俺ですか?」
「あんたの強さは人の領域じゃねえ!」
「……酷い言いぐさだな」
しかし、ティノ自身その自覚はあるので、反論はしなかった。
「今はしがない教師ですよ」
何か感じるものがあるのかもしれないが、ティノが不老であることは誰にも教えるつもりは無いので、ブルーノに対して誤魔化したような答えを返した。
「……まぁ、いいや! 知っても仕方ないだろうし」
他人にスキルを教えないのは、この世界では当たり前のこと、なのでブルーノもそれ以上は追求しては来なかった。
「しかしあのマルコの坊主は何なんだ?」
ティノへの追求は止めたが、ブルーノはマルコの事も気になって仕方がなかった。
「ガキンチョがあそこまで強えのは初めて見たぜ! 気ぃ抜いたら俺でもヤベえかも知れねえな……」
決勝でマルコが使った幻術はティノから簡単に説明を受けたが、そんな魔法は今まで聞いたことが無かったので、ブルーノはまだ自分の知らない攻撃の引き出しがあるのではないかと、マルコの強さに興味を持っていた。
冒険者ランクでいったらSSS並の実力を持つブルーノだが、マルコを相手にしたらてこずりそうな感じがした。
しかし、その強さを得る方法が分かれば、パメラにも活かせるのではないかとどうしても聞いておきたかったのである。
そしてそれがティノによるものなのだと思って、ストレートに問いかけた。
「何をしたんだい?」
「……特に何も、ただ結構な稽古をつけてあげただけですよ」
ティノが言ったように、マルコに特別な事をしたつもりは無い。
「いや、稽古だけであんなんなるか?」
普通に言葉を返したのだが、ブルーノは納得行かない感じで再度聞いてきた。
「俺とマルコもブルーノさんとパメラ嬢と似た境遇でして、赤子のマルコを拾って、世界中周りながら色んな魔物を倒す方法を教えていたらああなったという感じですよ」
そう言ってティノは、少し懐かしく思いつつ簡単に説明を終えた。
「…………似た境遇?」
ブルーノはマルコの稽古の事よりもそちらの方が気になったようで、そっちの話をしてくれと言った目でティノを見つめた。
「…………詳しくはまだ言えませんが、マルコは両親を殺害され、護衛役が死ぬ寸前に俺が拾った子供なんですよ。それから育てて来たので、同じ子育て仲間として似ていると思ったのですよ」
「…………そうかい。あんたも坊主も大変だったんだな……」
話を聞いてブルーノは、確かに似ていると納得の表情を浮かべた。
「しんみりした話は止めて、他の話をしましょう!」
「……そうだな!」
それからは、本領発揮と言わんばかりに、ブルーノの下ネタ話がマシンガンのように繰り出され、深い時間まで飲み食いすることになったのだった。
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「ようやくジョセンに帰ってこれたな!」
「そうだね!」
優勝という華々しい結果を持って帰ってきた久々の地元に、ロメオとマルコは少し懐かしく思いはしゃいでいた。
「へぇ~、ここがマルコの暮らす町なの?」
「程よい田舎で良いんじゃねえか?」
パメラとブルーノも町を見た感想を呟いた。
「それじゃあ、校長に会いに学校に向かいますか?」
ティノの言葉に従って、全員揃って学校に向かって歩き出して行った。