第124話 おんぶ
「ブルーノ!!?」
試合も終わったのでティノとブルーノは、パメラとロメオと合流する為に客席内を移動していった。
そして、一昨日からいなくなっていたブルーノを視界に入れたパメラは、驚きの表情の後に安堵の表情を浮かべた。
「ブルーノさんを探しに行ってたんですね? 先生!」
ティノを見たロメオは、笑顔で問いかけて来た。
「まあな……」
その問いに、ティノは簡単に答えた。
「悪かったなお嬢、迷惑かけちまって……」
「…………全くよ! この馬鹿!」
言葉では文句を言いつつも、パメラはブルーノが戻って来たことが嬉しそうに見えた。
それが分かっているのか、ブルーノも黙って叱られていた。
「2人共、そろそろ表彰式が始まりますよ」
周りから注目されるほど騒がしくなっていた為、ティノはパメラとブルーノのやり取りを止めさせる為に話しかけた。
ティノが言ったように、闘技場の舞台上ではマルコに対して優勝者の証しとして、トロフィーが授与されるセレモニーが行われようとしていた。
「決勝は兎も角、他の試合では凄かったよな?」
「あぁ、どうせならあの糞王子ぶちのめして貰いたかったな……」
ティノ達がいる近くの観客達は、決勝での出来事は理解出来ていないが、マルコの実力があることは理解しているらしく、笑顔でマルコがトロフィーを受け取る所を見つめていた。
本来なら、準優勝者にも記念のバッジが授与されるのだが、イラーリオは会場からいなくなってしまった為に、表彰式は大幅に時間が短縮された。
◆◆◆◆◆
「ティノ様!!」
大会が閉幕して、会場入り口にロメオとパメラとブルーノの3人を待たせたティノは、控え室にいるマルコを迎えに向かっていった。
扉を開けて控え室に入ってきたティノを見て、椅子に腰かけたマルコは嬉しそうな顔で声をあげた。
「…………あの魔法は使うなと言っておいただろ?」
「…………すいません」
堪忍袋の緒が切れたとは言え、ティノとの約束を破った事をマルコはションボリしながら素直に謝った。
「……だが、それはさて置き……」
ティノはそう言ってマルコに近付いていき、
「優勝おめでとう!」
いつものように優しく頭を撫でてマルコを褒めた。
「……はい! ありがとうございます!」
ティノに褒められ、マルコは一気に嬉しそうな笑顔に変わった。
「会場入り口に皆を待たせている。この後打ち上げで、食事会をするから行くとするか?」
「はい!」
そう言ってマルコは椅子から立ち上がろうとするが、脚がフラついて立ち上がれずにまた腰かけてしまった。
魔力を幻術でゴッソリ持っていかれた今、マルコは魔力がスカスカな状態だからである。
決勝戦終了した直後に比べれば少しは回復したのだけれど、緊張感が無くなったのか疲れで上手く動けない状態らしい。
「仕方ないな。ほれ!」
一言呟いて、ティノはマルコに背を向けてしゃがみこんだ。
おんぶをする体勢である。
「いや、でも……」
「遠慮するな。昔からよくしてやっただろ?」
躊躇するマルコに、ティノは促すように話しかけた。
「いや、そうではなく……」
マルコが躊躇しているのは、ティノに悪いからという理由ではなく、初等部に入ったのにおんぶして貰うことが恥ずかしかったからである。
「……じゃあ」
その事に気付かないティノが、ずっとしゃがんで待っていることの方が悪いと思ったマルコは、内心渋々といった感じでティノの背中におぶさった。
「よし! 行くか……」
マルコをおんぶし、ティノは控え室から会場の入り口に向かって歩き出した。
「………………」
「………………」
会場入り口に向かう廊下で、2人はただ黙った状態だった。
マルコは、おんぶされている姿を誰かに見られるのが恥ずかしいと思って、顔を赤くして黙っていた。
『重くなったな…………』
ティノは久々背負ったマルコが、昔に比べて重くなった事に感慨深い気持ちになって、黙っていたのだった。
その後、ティノ達は待たせていた3人と合流して、打ち上げを兼ねた食事会をしに向かい、楽しくその日を終えたのだった。
◆◆◆◆◆
「それで、ブルーノさんとパメラ嬢はどうするんですか?」
食事会を終えて子供達を宿に送り届けた後、ティノはブルーノと2人で約束通り酒を飲みに酒場に来ていた。
酒が少し進んだあと、ティノはブルーノ達の今後の話を切り出した。
リンカン王国元王都は、治安が悪化し始めている。
そこで出生を秘密にされている王女パメラが暮らすのは、とても色々な意味で環境的に相応しくない。
戻っても、何時また町から出られるか分からない状態である。
町から出られた今、他国へ行くなり、他大陸へ行くなり、多少の選択肢がある。
因みに2人には監視役が密かに付いていたのだが、昨日の誘拐犯の一味だったらしく、ティノが壊滅したアジトに転がして置いた。
「……どこかに逃げるつもりだ。まだ何処とは決まってないが……」
やはり町に戻るつもりは無いのだろう。
ブルーノは悩んでいるようで、顔を曇らせて呟いた。
「お嬢の出生の事は知ってるか?」
「ああ……」
パメラの今後を考え、ブルーノはパメラの秘密を何故か知っているティノに、相談するため少し時間を遡った話をし始めるのであった。




