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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第5章
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第123話 クッキング

「ぎゃーーーーー!!!!!」


 マルコとイラーリオの2人だけが動く世界で、両手両足の至るところをへし折られたイラーリオは、至る所から大量の液体を垂れ流し、再度折られた腕を殴られて、大声を上げて泣き叫んだ。


「ごべんなざい! もうじわげありまぜん! ずいまぜん! ずいまぜん!」


 苦痛につぐ苦痛で、完全に人格が崩壊したようなイラーリオは、涙を流し頭を地面に擦り付けながら、何度もマルコに謝罪の言葉を吐き出した。


「……そろそろ時間だな。続きは会場の観客の前で行おう!」


「ひえっ!!?」


 何度も何度も謝っても、マルコは全く許す素振りを見せず、更に自分を苦しめようとする言葉に、恐怖で小便を漏らし出した。






「…………何だ!? あいつ急に漏らし出したぞ!」


「……うわっ!? 汚ね!」


「……あれが王子と呼ばれる人間のすることか!?」


 イラーリオの視界には観客が停止から動きだし、自分を蔑む言葉が全体から聞こえてきた。


「…………!? ……??」


 しかし、イラーリオは涙を流し、鼻水を垂らし、涎まみれの顔で小便を漏らしている自分が、さっきまでマルコに執拗なほど受けた手足の痛みを感じていないことに疑問を感じて、パニックに陥っていた。

 手足を動かしてみても全く痛みなどなく、ただ立ち尽くしている状態だった。


「……どうでした? 地獄の苦しみは……」


 いまだに涙を流しながら呆然とするイラーリオに、マルコは楽しそうに話しかけた。


「……?????」


 先程までの苦しみが何故か無くなったことに、全く思考が回復しないイラーリオは、ただマルコを見つめて動かないでいた。


「先程までの痛みは嘘です。()は時を止めるなんて神がかった事は出来ませんよ」


 言葉遣いが元に戻ったマルコは、現在の状況の種明かしをし始めた。


「先程までの出来事は、全部幻です! 時を止めるなんてティノ様なら兎も角、まともな人間がいくら練習しようと出来るわけがない」


「……………」


 マルコの説明を、色々な液体でグシャグシャの顔のままイラーリオは黙って聞いていた。


「………嘘? ……嘘なのか?」


 ようやく少し意識が戻ったイラーリオは、小さな声でマルコに何度も問いかけた。

 良く考えれば、僅かな可能性だが嘘だと気付けたかも知れない。

 あれだけ痛め付けられて気を失わずに何故いられたのか?

 時を止めるという非常識を、本当に自分より年下の少年が行ったのか?

 その事を言われて初めて、理解出来てきた。


「えぇ、嘘です。幻術です。ですから…………」


「…………?」


 イラーリオは棒立ちで、途中で止まったマルコの言葉の続きを待った。


「……今度は現実に先程の事を行いましょう!」


 この言葉を放った後、マルコは口の両端を吊り上げ、幻術中にイラーリオが見た、骨をへし折っている時の笑顔に変わった。


「*&#%%₩……!?」


 その笑顔を、現実の今見たイラーリオは、身体中から震えが起き、声にならない声をあげた。


「うっ……、うわーーーーー!!!!!」


 そして、恐怖から出なかった声が出た次の瞬間、イラーリオは大声を上げて泣き叫びながら舞台から降り、出入口に向かって全速力で逃げていった。


「「「「「………………」」」」」


 そのイラーリオの行動に、何が起きたか分からない会場中の空気は、完全に冷えきったように凍りつき、ただ唖然とイラーリオがいなくなった舞台上を眺めていた。


「…………あのー……?」


 自分でもちょっとやり過ぎたかなと思いながらも、マルコは特別席に座る司会者に目を向けて声をかけた。


【あっ!? …………えー、王子が場外の為、今年度優勝者はマルコ選手に決まりした!】


 ようやく気付いた司会の言葉に、パチパチと拍手が起こり出すが、突然のイラーリオの逃走という出来事から回復していない会場からは、まばらな音しか聞こえてこなかった。

 マルコは苦笑いしつつ、結局開始線から1歩も動かないで勝利を収めた。



◆◆◆◆◆


「…………」


「……あの坊主は何をしたんだ?」


 会場の一角で観戦していたティノとブルーノだったが、会場の観客とは違いイラーリオの逃走がマルコによるものだと察知したブルーノは、ティノに少し詰め寄った。


「……幻術だ」


「幻術?」


 むさいおっさんが寄ってきたことに、若干顔を引きながらティノは簡単に答えた。


「ああ、幻を見せて精神を崩壊させる魔法だ」


「精神崩壊って……、どんな物を見せられたんだ?」


 かなりの実力者のブルーノも、それほどの幻術を受けたことが無いので、好奇心からティノに内容を聞いて見た。


「……知りたいかい?」


「…………いや、止めとく……」


 ティノの笑顔の目が笑ってないのを察知し、変な汗をかきながらブルーノは断りの返事を返した。


「……まあ、俺もたまーにやるけど、あれはあんまり使わない方がいい」


 元の表情に戻ったティノは、舞台上のマルコを心配そうな目で眺めながら話し出した。


「何でだ?」


「魔力をゴッソリ持っていかれるから……」


 この魔法はリスクが大きい。

 大量の魔力を使う上に、相手が幻術に強ければただの魔力の無駄遣いに終わる可能性がある。

 マルコに使用禁止したのは、魔力が無駄遣いに終わった場合、戦闘を続けることが出来ないからである。

 ティノがマルコを心配そうな目で見ているのは、マルコは魔力枯渇で立っているのがやっとの状態であるというのが分かるからである。

 もしもイラーリオが逃走しなければ、恐らくマルコは何も出来なかったはずである。

 開始線から動かなかったのではなくて、動けなかったのである。


「魔法の名称は3分クッキ〇グ! 名前の通り、3分間地獄を見せて敵を料理する魔法だ!」


「………………、へぇ~……」


 魔法のネーミングのクセの強さに若干引きながら、ブルーノは頷きを返したのだった。


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