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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第5章
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第121話 醜態

 決勝戦の開始の合図を期に、イラーリオは一気にマルコに向かって行った。

 そして得物の木剣を、マルコの脳天目掛けて思いっきり降り下ろした。


「……………」


 開始線から一歩も動かないでいたマルコは、ただ黙って得物の木刀で受け止めた。


「くっ!?」


 そのまま鍔迫り合いのようになったが、身長差を活かして上からのし掛かるようにするイラーリオに対して、マルコはビクともしなかった。

 マルコとイラーリオでは身長差が頭1つ分以上あるのにも関わらず、マルコを押しつぶせないイラーリオは苛立ちの声をあげた。

 そして鍔迫り合いを止め、イラーリオはバックステップして距離を取った。


「…………どうした? そんな攻撃じゃ負けてやる訳には行かないぞ?」


「!!? この餓鬼が……」


 マルコの挑発のような呟きに、イラーリオは腹を立て怒りの表情に変わった。

 一方マルコの、開始のうつ向いた状態から上げた顔は、いつものように冷静のように見えた。


()はお前のような奴が大嫌いだ。王や貴族は市民の上に立つ存在……、その力は民を導くために与えられた物であり、決して自分の満足の為に使うものではない!」


 確かに表情自体はいつも通りのマルコではあるが、内心は(はらわた)が煮えくり返るような気分だった。

 小さい頃から他国とは言え、自分は貴族の血を受け継いでいると言われ、その為の心の持ちようをティノからしっかり学んで来たマルコは、目の前の男のこれまでの言動と行動に完全にキレて、言葉使いが変わっている状態だった。


「……くっ!? 平民風情のゴミ虫が!! 次期王たる俺様になめた口をきくんじゃねえ!!」


 マルコの発言にやや気押されたイラーリオは、焦ったように水魔法による掌大の水弾を連射してマルコに放った。


「…………」


 次から次に迫り来る水弾の攻撃を、マルコは表情を変えずただ無言で、持っている木刀で弾き飛ばしていた。


「……何だと!?」


 自分の中では自信があるこの連射攻撃を、全く苦にせずにいるマルコに対して、イラーリオは更に焦っていた。


「……この程度で俺は倒せないぞ! もっと真面目にかかってこいよ!」


「…………おのれ、くそ餓鬼が!!!」


 余裕で水弾を弾きながら嘲笑の笑みを向けるマルコに、イラーリオは魔法を止め、目を血走らせた憤怒の表情で向かって行った。


「死ねーーー!!!」


 今までの爽やか王子の仮面を脱ぎ捨てたように、イラーリオは強力な殺意を持ってマルコに木剣を振り回してきた。


「…………フッ!」


「!!? 貴様ーーー!!!」


 ありとあらゆる方角からマルコに向かって懸命に木剣を振るイラーリオに対して、マルコは攻撃を防ぎつつ馬鹿にしたよな笑みを浮かべた。

 それを見たイラーリオの攻撃は、剣撃の型を忘れたようにどんどんメチャクチャになっていった。

 そして全ての攻撃を防がれ、息切れから距離を取り、


「貴様ーー!! 人質がどうなってもいいのか!!?」


 イラーリオは、完全に我を忘れて大きな声で叫んでいた。

 その為、気付いていなかった。


「……人質?」


「……何だよ人質って?」


「……王子は何を言っているんだ?」


 イラーリオの発言に、会場はざわつきが起きていた。

 開始線から動かずにイラーリオの攻撃を防ぎ続けるマルコに、会場が驚きと称賛の表情で静まっていた所に、王子のイラーリオが人質発言をしたからである。


「………………」


 イラーリオはようやく自分の犯した愚の骨頂に気付いて、ざわめく会場を滝のような冷汗を流しつつ見渡した。


「どういう事だ!?」


「対戦相手の人質を取っているのか!?」


「だから少年は反撃出来ないのか!?」


 イラーリオの発言から、会場は次第に怒りの熱が広がりつつあった。

 そして歴史ある大会に泥を塗るイラーリオに、いくら王子とは言え、怒り混じった問いが会場全体から降り注いだ。


「…………………………まれ!」


 自分に向けられた怒りに、イラーリオは言葉を呟くが会場の声にかき消される。


「だまれーーーーー!!!!!」


 イラーリオは会場全体に向かって、腹のそこから出したような言葉を吐き出した。

 その声に会場の観客は静まり、イラーリオに視線が集中した。


「平民風情が王族のした事に文句をつけるな!!!」


「俺は王子だ!!!」


「俺は常に頂点でなければならない!!!」


「勝つために何をしようがどうでもいいだろうがーーー!!!」


 一言一言会場の方角を変えながら、汚ない言葉を吐き出したイラーリオに、会場は水を打ったような静けさが広がった。

 そして……、


「ふざけるな!!!」


「何が王子だ!!!」


「テメエなんか王子じゃねえ!!!」


 静けさから一気に爆発したかのように、会場からイラーリオに向けて怒号が放たれた。


「愚民共が!!! 貴様ら全員斬首の刑だ!!!」


 向けられる怒号に対して、イラーリオは見苦しくわめき散らしていた。


「…………おいっ!」


「!!? 何だ餓鬼!!?」


 いつの間にか忘れられたマルコが、イラーリオに対して声をかけた。

 マルコの相手などしている状態ではなくなったイラーリオは、ぞんざいに返事を返した。


「お前はこれで終わりだ! ざまあないな!」


「!!? ……そうだった。貴様のせいだったな。貴様ーーーーー!!!!!」


 イラーリオは、この状況に陥れた張本人はマルコだと思い、マルコに向かって突っ込んで行った。



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