第120話 決勝戦
大会の決勝戦を迎えたマルコだったが、前日の夕方から姿を消したティノ事を考えていた。
「先生どこ行ったんだろ?」
「……そうだね」
育ての親としてずっと側で見てきたので、前日のティノの様子から、マルコは何となく想像がついている。
『きっとブルーノさんを探してるんだろうな……』
そもそも昨日宿に帰った時、決勝の為に早く休めと言ってたのも、自分が揉め事に巻き込まれない為だろう。
そうなると、ティノがいないのはちょっと手間取っているだけなのだと、マルコは思っている。
それだけマルコは、ティノの実力を信用しているのである。
「……まぁ、その内来るよ。じゃあ、行ってくる……」
「ん? あぁ……」
なので、結構素っ気ない様子で、マルコは控え室に向かって行った。
◆◆◆◆◆
「…………じゃあ、そろそろ行きますか?」
昨日連れてこられた牢屋の中で普通に睡眠を取ったティノは、寝癖のついた状態でブルーノに話しかけた。
「……あぁ」
ブルーノは自分以上のだらけっぷりに、色々突っ込みたくなったが、そのティノの余裕ぶりにスルーする事にした。
「…………よっ! …………むんっ!」
「「「………………」」」
ティノは立ち上がると、まず魔力封じの手錠を力ずくで壊し外し、恐らく触った感覚から魔力封じの牢屋の縦棒を、自分が通れるようにこれまた力ずくでこじ開けた。
それを見ていた見張り役の2人とブルーノは、あまりに普通に、あまりにあっさりとティノがおこなったので、ただ黙って眺めていた。
「…………!!? きっ、貴様! 何をした!?」
「おいっ! 来てくれ! 1人牢屋から出やがった!」
思考停止から回復した見張り役の1人が、慌てて懐から取り出した短刀を構えた。
もう1人の見張りは、隣の部屋にいるであろう他の仲間達に声をかけていた。
その言葉に反応した仲間達は、隣の部屋からドタバタしながらこの部屋に入ってきた。
「………………」
総勢6人の敵がいたが、ティノは無言で一瞬の内に殴り倒した。
「むんっ! よっ!」
「…………」
ティノはブルーノの牢屋の棒をこじ開け、手錠を取り壊した。
やる事なす事まるで夢でも見ているようなティノの行動に、驚きよりも呆れに近い感情でブルーノは眺めていた。
「さっ、行きましょ!」
「……あぁ」
その後も、この建物らしき場所から外に出る為廊下を動き回り、出てくる敵を虫を払うが如く叩き潰して行くティノに、ブルーノは黙って付いていった。
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【ご来場の皆様、これよりハンソー王国全国初等部対抗武道大会決勝戦を行います!】
超満員の会場の中司会の挨拶が始まり、会場はかなりの盛り上がりを見せていた。
【東口からは現在3連覇中の我らが王国が誇る絶対王者、チョーヒヤ校代表4年生、イラーリオ・ディ・ハンソー王子の入場です!】
会場を熱気を煽るかのように紹介され、イラーリオが大歓声の中登場し、舞台の上に上がった。
【続きまして、西口からは1年生でありながら、素晴らしい実力で勝ち上がって来たまさに王子の再来、ジョセン校代表、マルコ選手の入場です!】
マルコ入場に、小さい体で決勝まで勝ち上がって来たことを称え、会場は拍手をもって答えていた。
【……おっと! 流石王子、試合前に相手選手を称え、握手をしに行きました!】
司会が言ったように、イラーリオはマルコに近寄り握手を求めた。
「……王子自らありがとうございます」
その態度に、これまでの裏の事を王子は知らなかったのではないかと、マルコは内心思いそうになった。
しかし、
「……お前の引率者は預かった。彼を救いたければ黙ってやられろ!」
握手をした別れ際に、大歓声があるとはいえ、舞台袖の審判に聞こえないような大きさの声でイラーリオは、マルコに向かって囁いたのだった。
「………………」
それを聞いたマルコは、ただ黙ってうつむいてしまった。
開始線に戻り、イラーリオは若干の笑顔で武器の木剣を構えた。
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「ここ失礼するわよ」
「ん? あぁ、あんたか……」
会場が静まって行くなか、会場の一角に座っていたロメオの隣の席に、パメラが座って来た。
「一応私は年上よ! 口のきき方の悪い子ね!」
「ヘイヘイ、俺はマルコと違うんでね!」
「ぐっ!?」
ロメオの口調に注意するパメラだったが、ロメオの返した言葉に続きを出すことが出来なかった。
「全く……、それより、あんたの学校の先生は?」
「……さぁ? 昨日から帰ってない。……まっ、会場のどっかにいるんじゃないか?」
ずっとティノと一緒にいるマルコが気にしていなかったので、ロメオも今はティノがいない事を気にしないでいた。
「そう……」
『……まさか、あの人もブルーノの様に……』
ロメオとは違い、ブルーノを任せろと言っていたティノがいない事に、パメラは内心不安が募っていた。
◆◆◆◆◆
「おぉっ! 間に合いましたね……」
丁度その時、ティノとブルーノは客席の端の立ち見場所にたどり着いた。
「あぁ! それよりお嬢の所に……」
「パメラ嬢はあそこです。しかし悪いのですが、試合が終わるまでここにいて貰えますか? 隣のロメオの位置はマルコも知っているでしょうし……」
「え? まぁ、助けて貰ったんだし、構わねえよ……」
ティノの姿を確認したら、マルコは本気で怒らないかも知れないので、この位置から隠れるように観戦することをティノはブルーノに頼み、ブルーノも理由は昨日聞いていたので、ティノの頼みを受け入れた。
◆◆◆◆◆
【……決勝戦、始め!!】
そんな中、マルコの決勝戦の幕が切って落とされたのだった。