第115話 2回戦
マルコを呼び止めたパメラは、後ろに引率役のブルーノを引き連れていた。
「あ~、昨日はどうも……」
パメラの事を確認したマルコは、軽く会釈しつつ挨拶した。
「こちらこそ、昨日は危ないところ助けて貰ってありがとう」
それに対して、パメラもお礼と共に笑顔で頭を下げてきた。
「俺はブルーノってんだ。昨日はうちの生徒が世話になったそうで、ありがとさんした」
ブルーノは軽い態度でマルコと側に立つティノに挨拶と礼を言って来た。
「そうだ! 2回戦の勝利おめでとう」
「ありがとう」
マルコが言ったように、パメラは今日初戦の2回戦の第1試合で勝利を収め、準決勝へ駒を進めており、次はイラーリオとの戦いになる。
「……ところで、うちのが世話になった礼に飲みに行かないかい?」
ブルーノは子供達が話す横で、ティノに対して飲みの誘いをし出した。
「……良いですよ。今晩でも行きますか?」
「オッ! 話が分かるね! じゃあ終わったら会場入り口前でまた会おうぜ!」
「分かりました」
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いから、そろそろ俺達は客席に戻らせてもらうぜ!」
「……えっ? ちょっとまだ話が……」
ティノとの飲み約束を取り付けたブルーノは、用は済んだとばかりにパメラを連れて去っていった。
まだマルコと話し途中であったパメラは、服を掴まれ引きずられるような格好でその場から離れていった。
「…………行くか? マルコ」
「……はい」
慌ただしい出来事に呆気にとられた感じになったティノとマルコは、1つ間を空けた後予定通り控え室に向かって行った。
◆◆◆◆◆
「ちょっと! 何なの? ブルーノ!」
先程マルコと別れたパメラは、話し途中で無理矢理切り上げたブルーノに腹を立てていた。
「すまんなお嬢、お気に入りの坊主との話の途中で……」
「お気に入りって……! …………ブルーノ?」
ブルーノの茶化したような言葉に、顔を赤くしつつ反論しようとしたパメラは、そのブルーノがいつもは見せないような真剣な顔をしている事に訝しげな表情をした。
「マルコって坊主もすげえ感じだが、あのティノって奴はおかしい……」
「……おかしいって? 何が?」
珍しく真剣な顔で語るブルーノにつられて、パメラも真面目な表情で質問した。
「ありゃ、俺より強いって言うより相手にならない。それほど実力差がある」
「…………あんたより? ……でも、飲みに誘っていたじゃない!?」
ブルーノが自分以上とあっさりと認めた事に、パメラは驚いていた。
昔から自分の指導係りであり、やる気が無さそうでも実力は本物であるブルーノ以上の人間など見た事がなかったからである。
「あぁ、奴が何者なのか調べておこうと思ってな……」
マルコの試合が始まるまで、ブルーノとパメラはティノについて色々と話していた。
◆◆◆◆◆
『警戒されたかな?』
マルコの控え室に入ったティノは、先程のブルーノとのやり取りを思い出していた。
パメラの素性を知っているティノ、なのでパメラに付いていたブルーノの事も知っている。
ティノから見てもかなりの実力のあるブルーノが、ティノを見た瞬間僅かに顔が歪んだ事を見逃さなかった。
にも関わらず、自分を飲みに誘って来た事から、恐らく何かしらの警戒心を持たれたのだろうと判断していた。
『……まぁ、よく考えたら良い方向かな?』
警戒しているのは恐らくパメラの為、そしてパメラはマルコに若干の好意があるように見えた。
それが恋とはまだ言い難いが、嫌われるよりは都合が良い。
『上手くこちらに引き込めれば良いんだけれど……』
ティノが色々と考えていると、マルコの試合の時間がやって来た。
◆◆◆◆◆
司会の紹介の後に登場したマルコと対戦選手が、向かい合い武器を構え合う。
【始め!】
そして合図がありマルコの2回戦が始まった。
「ハッ!」
マルコの相手は、セーシンの学校の代表選手で魔法が得意な女子選手であった。
その為、開始から電撃の魔法をマルコに向かって放って攻撃してきた。
「雷系が特化しているみたいだな……」
魔法攻撃を躱して距離を取った状態で、マルコは独り言を呟いた。
水の魔法が得意のマルコにとって、電撃使いは相性が悪い。
だが、ティノもその事は分かっているので、電撃使いを相手にする時の為に光と闇の魔法を、マルコに指導してきた。
「ハッ!」
1回戦を近接戦闘で勝利したマルコを、近付かせないようにジワジワと追い込む相手が、更に電撃魔法の威力を上げてマルコに放って来た。
「……」
電撃が迫り来るなか、マルコは無言で魔法を放った。
「!!?」
その魔法を見た相手は、自分の電撃が消え去った事に驚きで目を見開いた。
マルコが放った魔法は闇魔法、攻撃には使えないが、防御に使ったときは万能な魔法だとティノから教わっている。
闇魔法を発動して、電撃の攻撃を掌サイズの異空間ボールに消し去ったのである。
「……!」
左手に異空間ボールを発動した状態で、マルコは固まっている相手選手との距離を詰めた。
「くっ!?」
それを見た相手は全力で魔法を連発し、マルコを近付けまいと懸命に動き回った。
しかし、放たれる電撃魔法は、異空間ボールに吸いとられるように消えていき、次第にマルコに距離を詰められる。
「…………参った!」
そしてとうとうマルコに捕まり、木刀を目の前に突き付けられた状態になり、降参を宣言したのだった。