第114話 同情
「…………おっ! いた! ったく、お嬢はすぐ揉め事に首を突っ込む……」
マルコとロメオがいなくなった少し後、40代の髭も髪もボサボサのおっさんが、パメラの前に現れた。
しかし、高身長の体は服の上からでも分かるほど筋肉が盛り上がっている。
「……ブルーノ、今更現れたの……?」
「ひでえ言いぐさだな……、折角来てやったのに……」
呆れたように、パメラはブルーノに責める言葉を投げかけた。
それに対してブルーノは、態とらしい困り顔で反論した。
「……まぁ、いいわ。宿に帰りましょ!」
「ヘイ、ヘイ……、一応護衛の立場から言わせてもらうと、出来れば大人しくしていてもらいたいものだな」
スタスタと先を歩いていくパメラに向かって、ブルーノは愚痴をこぼしながら付いていった。
◆◆◆◆◆
「……と言うことがあったんですよ!」
宿屋でティノと合流したマルコ達は、闘技場から帰る途中であった揉め事の事を話していた。
「…………」
「どうしました? ティノ様……」
話を聞いて無言でいるティノを、マルコは訝しげな表情で見つめた。
「いや、何でもない……」
『宰相の指示で動いていた奴等か……』
ティノは言葉ではそう言いつつも、内心では場内に潜入して見た事を思い出していた。
「今のお前ならばそれほど心配していないが、揉め事に首を突っ込むのは極力控えろよ」
「……はい、分かりました」
人助けをしたので少しは誉めて貰えると思っていたマルコだったが、真面目な顔で注意をされてしまった事に若干へこんだ。
「……でも、あいつら何者なんだろうな? ゴロツキにしては動きの質が全然違ったんだけど……」
ロメオは、マルコとも話し合っていた疑問を、ティノの前で口にした。
最初にいた3人はともかく、後の2人はとても只のゴロツキで済ませられるレベルの実力ではなかった。
現在のマルコなら平気ではあるが、かなりの実力者であることは間違いない。
「…………それは置いといて、そろそろ夕食に行こう」
「はい!」
「そうですね! スゲー腹減ったっす!」
マルコとロメオの気を自然と逸らすように、ティノは夕食に誘い、育ち盛りの2人は嬉しそうに宿の1階にある食堂に向かっていった。
『……随分簡単な2人だな?』
気を逸らす為に言ったとはいえ、それまでの事を忘れたかのように食事の話をし合う2人に、ティノは内心拍子抜けした感じになりつつ後を付いていったのだった。
◆◆◆◆◆
【只今より2回戦第2試合を開始します!】
翌日になり、大会の方は進み、昨日暴行を受けたモデストとハンソー王国王子のイラーリオの戦いの番になった。
因みに、この試合の前のパメラの試合は、パメラがあっさりと倒し、勝利を収めて準決勝へ上がっていた。
「ん~……、顔色が優れないな……」
「緊張って訳でも無さそうだし、結構お腹の方は深手だったのかな?」
客席のマルコとロメオが登場したモデストの顔を見ると、あまり優れない様子に疑問の声をあげた。
あの時路地から逃げたモデストの顔は、殴られたことにより腫れていたが、回復薬でも飲んだのか今は治っている。
マルコは逃げていくモデストとすれ違っており、その時お腹を押さえていたのを思い出していた。
「あばらか? 骨イッてたらそりゃキツいわ……」
ロメオが言うように、市販の回復薬はある程度の傷は治すが、折れた骨を付けるような事までは出来ない。
骨が折れていた場合安静にしてくっつくのを待つか、すぐに治したいならお金を払って回復魔法をかけて貰うしかない。
昨日やられて折れていたなら、治っているとは思い難い。
【始め!】
2人が話していた間に、開始の合図がされる時間になっていた。
開始の合図があった直後、イラーリオが飛び出しモデストに襲いかかった。
「くっ!」
モデスト得物はイラーリオと同じ木剣、イラーリオが繰り出す剣撃を防ぎつつ、モデストの顔が僅かに歪む。
「……やっぱり、あばらイッてるな?」
「うん……」
その表情の変化を読み取ったマルコとロメオは、自分達の予想が当たった事を確信していた。
「タリャッ!」
モデストの負傷を知ってか知らずか、イラーリオは容赦なく攻撃を繰り出し、じわじわとモデストを追い込んで行っていた。
「つっ!」
モデストは、ズキズキと痛む腹を我慢しつつ攻撃の機会を伺った。
「ハッ!」
「!!? 参りました!」
しかし、その機会は訪れる事はなく、痛みで緩んだ木剣をイラーリオの攻撃で飛ばされ、降参を宣言した。
王子のまた勝ったことで会場が盛り上がるなか、モデストは1回戦のイラーリオの相手選手と同じように悔しそうな表情で闘技場を降りて行った。
「昨日の事がなかったらな……」
「うん、全然実力が出せなかったようだ……」
他の観客とは違い、事情を知っているマルコとロメオはモデストの事を同情していた。
「……次はマルコの試合だ。そろそろ控え室に向かうぞ」
「はい!」
そう、次は少しの昼休憩を取った後にマルコの試合が開始される。
控え室に入って、軽く食事とウォーミングアップをする為に、ティノとマルコは客席から控え室に向かって歩き出した。
「ちょっと良いかしら?」
「?」
マルコが自分にかけられた言葉に振り返ると、そこにはパメラが立っていた。