第113話 助太刀
「揉め事か!?」
「向こうだ!!」
マルコとロメオは、顔を見合わせた後、声が聞こえてきた方へ向かって走り出した。
◆◆◆◆◆
「ぐあっ!?」
裏通りで、1人の少年が痛め付けられていた。
キョク学校の代表のモデストと言う名の少年である。
3人の男に囲まれており、その内の1人に殴られたモデストは吹き飛び、地面に背中を打ち付けた。
他の2人にも殴られており、右頬は腫れ、口から血を流し、腹を右手で押さえながらモデストは上半身を起こした。
「ううっ……、あんたら何なんだよ! ちょっと肩がぶつかっただけだろ!」
モデストは王都を観光し、明日に備えて暗くなる前に帰ろうとしていたところ、この路地近くで男達が幅を取りながら前から歩いてきた。
モデストはそれを横に避けたが、男は態とのようにぶつかって来た。
それに男達はいちゃもんを付けてきて、殴りかかって来たのだった。
「ヘヘっ……、餓鬼がぶつかっておいて何も言わねえから痛い目に遭うんだよ!」
「そっちがぶつかって来たんだろうが!」
「……なんだと!?」
モデストが当然の事を言うと、男達は腹を立てたらしくゆっくりと少年に近付いていった。
「待ちなさい!!」
「「「!?」」」
男達が背後からの声に反応すると、1人の少女が立っていた。
パメラである。
パメラは木剣を手に持ち、男達に向けて構えていた。
「全くこの町は害虫が多いわね!」
「あぁっ!? 何だこの餓鬼!?」
「ぐっ!? ……君は、確か……」
害虫扱いされた男達は、モデストを後回しにしてパメラに近付いていった。
「君! 今の内に行きなさい!」
「……スマン!」
男達が離れたのを見て、パメラはモデストに逃げるように指示を出した。
モデストは1人で逃げることに一瞬躊躇したが、怪我を負った今の状態では邪魔になると判断して、踵を返して路地から離れようとした。
「チッ! 逃がすか!!」
「待ちなさい!!」
少しふらつきながら路地から出ていくモデストを追いかけようとした男を、パメラは魔法の水の弾丸を飛ばして牽制した。
「あんた達は警備隊に連れていく!」
「……出来ると思ってんのか?」
そう言うと男達は身体強化し、パメラに対して構えをとった。
「!!」
男達が構えた後、パメラは一番近い男に向かって地を蹴り距離を詰めようとした。
「何をしている?」
「!!?」
高速で距離を詰めるパメラの背後に、何処からともなくローブを被った男が現れた。
その瞬間寒気がしたパメラは、横に飛び退いた。
「ここは任せてお前達は奴を追いかけろ……」
「!!?」
パメラが突如気配を感じさせずに現れた男に集中したすぐ後、同じくローブを被った男がもう1人パメラを挟むように現れた。
『あの3人と違って、この2人は危険だわ……』
後から現れた男達に、パメラは気付くことが遅れた。
もう少し遅ければ、場合によっては攻撃を受けていた可能性がある。
その事に冷や汗をかきながら、パメラは左右の男達に集中した。
「頼みます!」
一言残すと、最初にいた男達はモデストを追いかけようと走り出した。
「ハイ! 待った!」
「ぐあっ!?」「ぐはっ!?」「どあっ!?」
「「「!!?」」」
モデストを追いかけて路地から出ようとした3人の男達を、一瞬で蹴散らしてマルコが到着した。
マルコの登場に、ローブの男2人とパメラは意識がそちらに向いた。
「!!?」
しかしパメラと違い、ローブの男達はすぐに意識を戻して、マルコに意識が向いているパメラに対して、懐から短刀を取りだして向かって行った。
その事に気付いたパメラは、交互に連携の取れた2人の短刀による攻撃を木剣で弾いて防いだ。
「ぐっ!?」
短刀の攻撃は防いだが、片方の男の蹴りは防げず、腹を蹴られたパメラは少しの距離後方に飛ばされた。
『こいつら強い!!』
少しの攻防で、相手が強敵だと判断したパメラは焦っていた。
折角1人逃がしたのに、また1人少年が現れ、この2人を相手にしながらあの少年を守るのは、難しいと思った為である。
「!!?」
蹴りの痛みで顔をしかめているパメラに、追撃をするようにローブの男達は左右から挟み撃ちに向かっていった。
「だから待ったって!!」
「「!!?」」
パメラに左右から短刀を突き刺そうとしたローブの男達を、マルコは背後からローブを掴んで引っ張り倒した。
「…………」
突如倒された男達は焦り、パメラはあまりの出来事に驚きで目が点になっていた。
「大丈夫? もう平気だよ」
マルコはパメラにそう言って、ローブの男達と対峙した。
「「シッ!!」」
マルコに警戒心を持ったローブの男達は、これまで以上の速度で撹乱するように動き回り、マルコに襲いかかった。
「速い……」
男達の動きに目が追い付かないパメラは、思わず声が漏れた。
「ヨッ!」「ハッ!」
マルコは先に右から短刀で攻撃してきた男を左拳で、次に左から攻撃してきた男を右拳でカウンターを喰らわせて吹き飛ばした。
飛ばされた男達は呻き声もあげず、すぐに体勢を整えてマルコを見据えた。
ローブで隠れているが、男達は僅かに動揺の様子を醸し出していた。
「…………」
一方あの速度の男達の攻撃を、躱すだけでなくカウンターを喰らわせたマルコに、パメラは驚きで開いた口が塞がらなかった。
今の攻防だけで、自分とこの少年の実力差を感じ取った為である。
「速~よマルコ!」
「「!!?」」
その時ロメオが遅れて到着し、今度はマルコの攻撃で気を失っている3人と、ローブを被ったの2人の男達が挟み込まれた状態になった。
「!!?」
ローブの男達は目を会わせると、打ち合わせをしたかのように行動に移った。
煙幕をはり、気配を消し、ロメオが簡単な風魔法で煙を飛ばすと、あっという間に5人の男達がこの場から消え去っていた。
「……逃げられた」
「……みたいだね」
マルコとロメオは辺りを警戒したが、5人の男達の気配は感じなかった。
「…………」
「!? はい、これ!」
今だ無言になり、蹴られたお腹を押さえているパメラに振り返ると、マルコは魔法の指輪から回復薬を取りだして渡した。
「奴らが何を考えているのか分からないから、明日の為に宿屋に帰った方がいいよ。送っていこうか?」
「……ありがとう。でも大丈夫すぐ近くだから……」
「そう? じゃ、僕らはこれで……」
パメラに注意を促しつつ、マルコはその場を離れようとした。
「待って!」
「?」
路地から出ようとするマルコに、パメラは突然呼び止めた。
「助かったわ。ありがとう」
「どう致しまして」
少し照れくさそうな表情で言ったパメラのお礼の言葉に、マルコは笑顔で言葉を返して、ロメオと共に宿屋に向かって歩き出した。