第112話 裏
「ティノ様、どうでしたか?」
「合格点だ。良かったぞ」
試合が終わり、東口の前の廊下から観戦していたティノの元に戻ると、マルコはすぐに感想を求めてきた。
観客の反応が物語るように、上手いこと手加減が出来ていたように見えた為、ティノは笑顔のマルコの頭を撫でて誉めてあげた。
「客席に行って後の試合の観戦するか? ロメオも待ってるだろうし……」
「はい! 行きましょう!」
ティノに誉められ、上機嫌のマルコは足早に客席に向かって歩いていった。
◆◆◆◆◆
「お疲れ! 上手くやったなマルコ!」
「ヘヘ……、まあね!」
マルコの戦いを観戦していたロメオを見つけ、マルコが隣にやって来ると2人はハイタッチで喜びあった。
「2人とも、俺は少し出かける用があるから、試合を見終わったらまっすぐ宿に帰ってろよ!」
「「はい!」」
そう言って2人を置いて、ティノは会場から去っていった。
◆◆◆◆◆
2人と別れたティノは、試合の観戦に行っている為王がいない状態の城の中に潜入した。
元々ティノがマルコの引率で付いてきたのには、ハンソーの他国に対する動向を探る狙いもあった為である。
『兵士が集められている様子はないな……』
気配を消してすんなり潜入したティノは、城内は静かで戦争を考えているようには感じられずにいた。
『お祭りの意味もある対抗戦が終わるまでは、何も起きる事はないか?』
ティノ自身もその可能性があったので、この城内の静けさに納得していた。
対抗戦が終わるまではハンソーは動かないだろうと思い、城から出ようとした。
『ん!? あいつは……』
帰ろうと思っていたティノの視界に、1人の男が目に映った。
『確か宰相のイヴァーノとか言った奴だったような……?』
この国の宰相を務める男である。
その宰相が、数人の男達が集まる部屋に入っていった。
『何やってんだ?』
てっきり王と共に試合を観戦していると思っていた宰相がいたので、ティノはクワガタを使って部屋の中の様子を探ってみた。
すると部屋の中には、宰相の他に5人の男達が集まっていて、何やらこそこそと話し合っていた。
男達はローブを被っていて顔は見えないが、ティノが思うに裏稼業の感じが伝わって来ていた。
「昨日は良くやってくれた」
「いいえ、それほど難しい事ではありませんでした」
「そうか……、では次の相手の事だが……」
短いやり取りをした後、宰相は本題に入っていった。
「確かキョクの町のモデストとか言った奴だったな……」
「はい……、すでに見張りは付けております。様子を見て動く予定です」
「仕事が早いな……」
「これで食べてますので……」
「フッ、そうだな。では頼んだぞ。」
「畏まりました」
「……最後にいつも言うが命までは取るなよ!」
「心得ております」
このようなやり取りが行われて、宰相は部屋から出ていった。
『宰相が直々に動いていたのか……』
ティノは少し意外に思いながら、城から出て宿に向かった。
宰相達が話していた、モデストと言う名前で理解したのは、王子の対戦相手の事である。
王子のイラーリオは、ティノから見ても確かに武や魔法にセンスはある方だ。
しかし、この大会で優勝するにはやや無理があるように思える。
イラーリオが1年の時に参戦した時にティノも少し観戦したが、その時からそれほど成長していない気がする。
観戦した時ティノは、そのまま成長したらかなりの戦士になれるのではないかと思った程である。
しかし、2年の時からある噂を耳にした。
王子の対戦相手が棄権したり、体調不良で万全ではない状態であった等の事が聞こえて来たのである。
1回戦で戦ったムツィオと言った少年は、ハンマー系の武器が得意だったとティノは調べてある。
しかし、彼は武器を持たずに現れ、敗退した。
ティノは恐らく先程の男達によって武器を奪われ、仕方なく素手で戦うことになったのだろうという結論に達した。
『王子が成長しないからやっているのか? それとも王子自ら指示した事なのか?』
そんな事を考えながらティノは宿にたどり着いたのだった。
◆◆◆◆◆
一方ティノと別れたマルコ達はと言うと……
「やっぱ初戦の女位しか凄そうなのいなかったな?」
「そうだね。初戦が一番ハイレベルだったね」
「……まぁ、マルコの相手じゃ無いけどな……」
「うーん……、まぁね」
マルコの試合が終わった後の試合を観戦して、感想を言い合いながら宿に向かい歩いていた。
ロメオが言ったように、マルコの相手にはならなそうな選手ばかりだった。
ティノの英才教育によって培われたマルコは、冒険者ランクでいったらS、いやもしかしたらこの若さでSSランクまで行っているのではないかと言う程の実力になっている。
他の参加選手が、それでも充分凄いBランクの実力ではあっても、相手にならないのは当然の事である。
只パメラの実力はAランク、負けないとは思うが油断は出来ないとマルコは思っていた。
その時、
「「!?」」
2人が宿に向かう途中、遠くから争うような声が聞こえてきた。