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浮浪の不老者  作者: ポリ 外丸
第5章
111/260

第111話 1回戦

 宿屋に帰り夕食を取った後、3人は翌日に控えたマルコの試合の事について話し合っていた。


「先生! マルコが本気でやったら相手が大丈夫ですかね?」


 ロメオは開口一番に、ティノにこのような事を話してきた。

 魔人の大陸であるセイケ大陸で、強力な魔物相手に戦って来たマルコからしたら、初等部どころか高等部の生徒でも敵わないであろう程強くなっていた。

 その事は一番近くで見てきたロメオが良く分かっている。

 相手が魔物ならともかく、人間の子供では場合によっては殺してしまうのではないかと心配になっていた。


「……そうだな。あまりもあっさり倒したらイカサマ扱いされるかもな?」


「そんな……」


 ティノもその事は分かっていて、場合によってはそう取られる可能性をあげた。

 真面目にやってイカサマ扱いされるなど、考えてもいなかったマルコは慌てた様子で呟いた。


「……まぁ、可能性の話だ。」


「……どうしましょう?」


 勝って文句をつけられるなんて納得が行かないマルコは、困り顔でティノに尋ねて来た。


「……よし! 苦戦しろ!」


「「え!!?」」


 ティノの思いもかけない指示に、マルコだけでなくロメオまでもが驚きの表情を浮かべた。

 それもそのはず、どこの世界に弟子に苦戦を強いる師がいるだろう。

 ティノの言葉を理解できず、2人共口をポカーンとした状態で固まっていた。


「言葉足らずだったな……、始まって少しの間、苦戦している振りをしろ! そうすれば恐らく大丈夫だ……」


「な~んだ……」


「振り……ですか?」


 ティノの説明にロメオは納得したが、マルコはまだしっくり来ていないようだ。

 相手は真剣に向かって来るはずなのに、自分が手を抜いて良いのかと思っているのだろう。


「マルコ、獅子はネズミを狩るのにも全力を尽くすと言うが、象が蟻を殺すのに全力を尽くすと思うか?」


「え!? 大きすぎて殺したことにも気付かないんじゃ……?」


「だな。だから相手が真剣だからとお前も真面目にやったら、相手はいつの間にかあの世行きだ。殺したら反則負けくらうぞ!」


 ティノは納得してないマルコに対して、少し苦しい例えで説明した。


「……だから手を抜けと?」


「あぁ、実力差がある場合の手加減を学ぶ訓練だと思って戦え!」


「!? これも訓練の一環ですか?」


「……ん、あぁ……、そうだな。」


 途中まで納得しきれていない表情だったマルコだが、訓練の一言で表情が変わった。

 この一言だけで簡単に表情を変えたマルコに、ティノは若干戸惑いつつ返事を返した。


「分かりました! これが訓練なら全力で頑張ります!」


「……いや、全力って……、まぁ、いっか……」


 取り敢えずマルコが理解したようなので、ティノは燃えてるマルコをスルーした。



――――――――――――――――――――


 そして翌日、本日最初の戦いである1回戦第5試合にマルコは登場した。

 もうすでに両者とも司会に紹介されて、登場した闘技場で向かい合った状態である。

 相手は王都のお隣セービの町代表の4年生で、ヌンツィオという名で黒髪碧眼の身長は平均より少し小さめの少年だった。

 ヌンツィオは右手に片手剣型の木剣を持ち、左手に木の盾を持った戦闘スタイルのようだ。

 それに対してマルコは、セイケ大陸での訓練の時気に入った武器を、自分で木を削って作り持っていた。

 その武器とは刀と呼ばれる物で、マルコはそれを木で作った木刀を使う事にした。

 そして2人とも武器を構え、開始の合図を待った。


【始め!】


「…………」


「…………」


 開始の合図があっても2人は睨み合ったまま動かず、互いに様子を伺っているようである。

 しかし、マルコが動かないのは当然で、手加減の仕方が分からないマルコに、ティノが簡単な指示を出していたからである。


「相手の攻撃を防いで、どれ程の威力か理解しろ。理解したら同じくらいの威力に抑えた攻撃をしろ」


 これが試合前にティノから受けた指示なので、マルコは相手の攻撃を防いでからでないと攻撃をする事が出来ない。


「……フッ!」


 膠着状態が続いた後、ヌンツィオがマルコを中心に円を描くようにステップを踏み出した。


「ハッ!」


 少しの間、グルグルとステップを踏んだ後、一気にマルコに攻撃を加える為に距離を詰めた。


「……!?」


 横に薙いだ片手剣をマルコは受け止め、相手の攻撃の威力を理解しようとした。

 しかし、あまりの手応えのなさに若干戸惑ってしまった。


「シャー!」


 マルコの戸惑いを、自分の攻撃によって怯んだのだと勘違いしたヌンツィオは、左右にステップを踏みながら連続で攻撃をしてきた。


「…………」


 最初の攻撃に戸惑いを見せたマルコだったが、すぐに切り替えてヌンツィオの攻撃を防ぐ事に専念する。

 攻撃がなかなか当たらず、大振りになったヌンツィオの攻撃をバックステップで躱してマルコは距離を取った。


『そろそろ良いかな?』


 ティノに言われた通り攻撃を防いで理解したマルコは、自分からも攻撃を開始する事にした。


「ハー!」


 距離を詰めて攻撃しようとしてきたヌンツィオの盾に向かって、マルコは木刀を振ってみた。


「がっ!?」


 マルコからしたらかなり加減し、しかも防ぎやすいよう盾を狙ったにもかかわらず、盾に当たった攻撃でヌンツィオは体を浮かせて強制的に後ろに戻された。


「!!?」


 マルコの攻撃の威力に驚いたヌンツィオは、目を丸くしていた。


「くっ!?」


 しかしすぐに気持ちを立て直して、ヌンツィオは武器を構えた。


「…………」


 何故なら、マルコが無言で距離を詰めて来たからである。

 マルコは先程の攻撃ではまだ強いと、更に威力を抑えた攻撃をヌンツィオに向かって加えて行った。


「ぐっ!? はっ!?」


 ヌンツィオは、マルコの攻撃を懸命に盾と剣で防いでいた。

 それでも次第に受けきれなくなり、手や体にマルコの攻撃が当たり始めた。


「あっ!?」


 とうとう持っていた片手剣が弾かれ、盾だけになってしまった。


「……参った!」


 剣が無くなっては攻撃の手段がないのだろう、ヌンツィオは降参の宣言をした。


【勝者、マルコ!】


 司会が勝者の名乗りをあげると、会場は番狂わせが起こったような大きな歓声をあげた。

 それもそのはず、1年生のマルコが勝利するとは誰も予想していなかったからである。

 前日の王子以来の1年生出場者の勝利に、会場は割れんばかりの歓声で祝福した。

 マルコはそれを恐縮したように何度も頭を下げながら退場して行ったのだった。


 


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