第110話 王子
第1試合が終了し、第2、第3試合が開催されていった。
第1試合が特別レベルが高かったようで、勿論初等部の学生にしては高いセンスをしているが、特に見るべき所は無いようにマルコは思っていた。
「決勝まで当たらないけれど、あのパメラと言う選手に注意ですね」
マルコは、これまでの観戦からの感想をティノに述べた。
「……次の試合の選手は違う意味で注意した方がいいぞ」
マルコの意見に対して、ティノは第4戦の選手への警戒をマルコに告げた。
【本日最終戦、第4試合を開始します!】
司会のこの言葉に、会場はざわめきが広がって行っていた。
「何だ!?」
会場の雰囲気が変わった事に、ロメオは疑問の声をあげた。
雰囲気が変わったことの答えは、選手の紹介によって分かることになった。
【東口から登場するのはここ王都、これまで1年生の頃から3連覇中の王者、チョーヒヤ学校代表4年生イラーリオ・ディ・ハンソー王子の入場です!】
「!!?」
「王子!!?」
ティノはこの事を知っていたので特に驚きはしなかったが、選手紹介を聞いたマルコとロメオは初耳だったらしく、驚きの表情になった。
王子で王者のイラーリオが入場すると、闘技場に向かって観客は割れんばかりの歓声を送っていた。
イラーリオは金髪碧眼で顔が整っていて、王族らしい雰囲気を醸し出しながら入場してきた。
【西口から登場するのは、センノ学校代表4年生ムツィオ選手の入場です!】
観客の声援が少ししてようやく治まり出した頃、相手選手の紹介がされた。
相手選手は観客の雰囲気に呑まれたのか、ガチガチに固まっているような動きで入場してきた。
「徒手空拳の選手とは珍しいですね……」
ガチガチの選手のムツィオが、武器を持たず入場してきたのを見て、マルコは一言呟いた。
ムツィオはイラーリオと身長は同じくらいの12、3才の平均程度で、茶髪で黒目のどこにでもいる少年と言った感じの見た目だ。
『…………初戦からやられたか?』
ティノはムツィオが武器を持たず入場してきたのを見て、違うことを考えていた。
【……始め!】
イラーリオは木剣を構え、ムツィオが無手のまま戦闘体勢に入った。
戦闘体勢に入ったムツィオは、それまでの緊張が嘘のように消えていた。
そのすぐ後開始の合図があり、戦闘が開始された。
「ハッ!」
「クッ!?」
戦いが始まるとイラーリオが距離を詰めて、ムツィオに木剣を降り下ろした。
その攻撃をギリギリで躱し、距離を取ろうとすらムツィオ。
「逃がさないよ!」
しかし、イラーリオは距離を取らせまいと動き、木剣を降ってムツィオを追い込んで行った。
「…………おかしい」
「うん。ムツィオ選手は徒手空拳、距離を詰められる事は逆に絶好の機会なはずなのに、躱すばかりで攻撃をしないなんて……」
イラーリオとムツィオの戦いを見ながら、ロメオとマルコは何となく違和感を覚えていた。
「ヤッ!」
距離を取ろうと逃げるムツィオが、追いかけるイラーリオに向かって魔法を放った。
掌位の大きさの火の玉を放ったが、イラーリオは魔力を纏わせた木剣を振って火の玉を弾き飛ばした。
ムツィオの魔法攻撃は牽制にもならず、距離を取るに至らず、またイラーリオの木剣を躱して逃げる事を続けた。
「……魔法が得意と言う訳でもないようだね」
「あれじゃあ、その内剣を受けてお仕舞いだろ? 何であれで代表になれたんだ?」
マルコとロメオが話していた通り、ムツィオは次第にイラーリオの攻撃を躱し切れず、身体強化しているとはいえ徐々に痛め付けられて行った。
「…………参った!」
イラーリオの攻撃を太ももにキレイに受けたムツィオは、逃げ回れる事が出来なくなった為か、降参の宣言をした。
【勝者、イラーリオ選手!】
司会のこの言葉によって、会場は本日一番の歓声に包まれた。
勝ったイラーリオは、観客の声援に応えるように手を降りながら闘技場からゆっくりと去っていった。
そして負けたムツィオは、回復薬を飲み、治った足でとても悔しそうに唇を噛み締め退場していった。
「……悔しがっているけど実力が違いすぎるだろ?」
退場して行くムツィオの様子を見ていたロメオは、最もな意見を口にした。
『……そりゃ悔しいだろ。本気で戦えなければ……』
対してティノは、裏で起きた事を薄々気付いていたので、ムツィオに対して同情の感情を覚えていた。
『本気で戦えばいい勝負したと思うんだがな……』
ティノの試合前の見立てでは、イラーリオとムツィオの実力に大きな差がなく、ややイラーリオ有利位の考えだった。
しかし、蓋を開けたらこのような結果になり、やや苛立ちを覚えていた。
ムツィオにではなく、イラーリオに対して……
「……さて、そろそろ宿に帰るか?」
「「はい!」」
明日はいよいよマルコが登場する事になる。
2試合目と3試合目の間に簡単な昼食をとったとはいえ、マルコとロメオは腹を空かせているのか、宿で出る食事を何にするか楽しそうに話し合いながら会場から去っていった。