第109話 大会開始
【本日より、ハンソー王国国内初等部学校対抗戦を開催致します。選手の皆さんにはその学校の代表として恥じない戦いを期待しております】
大会運営会長による開会挨拶が終了し、全16校を代表する選手が、プラカードを持ったそれぞれの学校の引率者の背後に並んでいた。
勿論マルコはティノの背後に立っているが、唯一の1年生の為、他と比べて断トツで背が低かった。
「ティノ様……」
「ん? 何だ?」
「あの子です」
後ろから囁いてきたマルコの言葉にティノが反応すると、マルコは一番左に並んだ少女を指差した。
「……あぁ、そうだな」
昨日街中で、ゴロツキを退治していた少女である。
その少女の前に立つ男性のプラカードには、ボウシカ初等部と書かれていた。
ボウシカ、それは元リンカン王国の王都の名前である。
最近ハンソーが奪取した為、ハンソー国内の学校には違いないが、こんな早々に参加させるとは思っていなかった。
『数合わせの意味もあるんだろうが、随分フットワークが軽いな……』
戦争もあってか毎年のように参加校が減っていき、ここ数年は15校による戦いだった。
そうなると一校がシードになるので、今まで不公平感があった。
しかし、丁度手に入れた領地に学校があった為、数合わせに参加させたのだろう。
ティノからしたら、元敵国領地から招くには、時期尚早ではないかと思っていた。
戦闘による奪取ではなかったとは言え、他国の占領地になった事への反発がまだ残っているだろう土地から、ハンソー国王の側に近付ける機会を自ら与える事は、躊躇われると思っていたからである。
「!?」
会場の王族席に国王が現れると、少女が僅かに一瞬殺気を放ったのをマルコは感じた。
しかし、それに反応してマルコが少女の顔を見ると、殺気は収まり、他の選手同様国王の挨拶を聞く体勢になっていた。
【皆の者、本日より開催される戦いに期待している。全力を出し、優勝を目指す姿を見せてくれ】
短い挨拶を終えた後会場からは、大きな拍手が巻き起こり、観客のボルテージは上がっていった。
【選手退場!】
開会式が終わり、司会の言葉によって選手と引率者は全員一旦退場していった。
この後10分の時間を空けて、今日はこの会場で1回戦の前半の4戦が開始される。
トーナメントによる戦いで、マルコはくじによって第5戦に登場するので、今日は戦う事がない。
「マルコ。観戦していくか?」
「はい!」
ティノは宿屋に戻っても良かったが、念の為に他の選手の強さを見ておくか聞くと、マルコは元気に返事を返したので観戦していくことになった。
「いや~……、マルコ1人だけちっこかったな!」
客席で1人開会式を見ていたロメオは、からかったようにマルコに話しかけた。
「うるさいよ! 1年なんだからしょうがないだろ!」
からかわれたマルコは、不満そうな声を出してロメオに文句を言った。
「……そろそろ始まるぞ」
ティノの言葉で、言い合っていた2人は大人しくなり、闘技場の舞台に目を移した。
【只今より対抗戦1回戦第1試合を開催します】
魔道具によって声を大きくした司会の言葉によって、会場はじわじわと静かになっていった。
【第1試合東口より登場するのは、ボウシカ学校代表4年生パメラ選手です!】
「あっ? 昨日の女だ……」
登場した少女、パメラが入ってくるとロメオは今頃気付いたのか、思わず声をあげた。
初戦からの参戦者に例年なら拍手で迎えられるのだが、ボウシカの名前に会場の観客は戸惑っているようで、パメラはざわつきによって迎えられた。
『そりゃ、そうなるだろ……』
ティノからしたら会場の反応は当然に思えた。
しかし、パメラも同じ思いなのか、ざわつきの中平然と闘技場に登場した。
【続きまして、西口からタガン学校代表4年生エジディオ選手の入場です!】
「デカッ! あれで4年生?」
入ってきた選手を見てロメオは声をあげた。
相手の選手は、初等部の学生にしてはがたいが良く、180cm位の身長がある。
武器は長身を生かし、更に距離を取る為か槍を選択していた。
校内戦同様、武器は木で作られた物を使用するのが義務付けられている。
しかし、大会委員の認可が得られれば、選手による多少の改造も許可されている。
それを利用してか、エジディオの槍はロメオが使っていた六尺棒を長く、太くした感じの言うなら七尺棒と言った感じの武器を持っていた。
対してパメラは普通の木剣を持ち、戦闘体勢になり、開始の合図を待った。
【……始め!!】
司会の合図によって大会の初戦が開始された。
先ず初めに動いたのはエジディオ、身体強化し、長いリーチを生かした速射砲のような突きをパメラに向かって放った。
「!!?」
パメラも開始と同時に身体強化し、その速さに驚きつつも、バックステップする事で初撃を躱した。
「あいつかなりやるな……」
エジディオの初撃を見たロメオは、同じ槍使いとして感心した声をあげた。
「うん。……でもあの娘の方が魔力の使い方が上手そうだ」
ロメオの意見に賛同しつつも、マルコはパメラの魔力操作の方に目が行っていた。
マルコが言ったように、エジディオとパメラの身体強化の魔力の纏い方は、パメラの方が滑らかで淀み無いように感じた。
身体強化は魔力を纏う事で、戦闘時の攻撃力や防御力を上げる事が出来るが、少しずつ魔力を消費していくものである。
それを無駄の無いように纏うか纏わないかで、消費していく魔力の量はかなりの差が生じる。
魔力の枯渇は即敗北の世界で、この差は大きい。
「ハッ!」
闘技場の舞台の外に出たら、場外による即敗北となる。
エジディオはそれを狙っているのか、突きを放ちじわじわとパメラを闘技場の端に追いやって行った。
「セイッ!」
もう後がない状態になったパメラに対して、エジディオはこれまで以上の速度の片手突きを放った。
「!!?」
しかし、パメラもその突きを待っていたと言わんばかりに、頭を低くして躱すと同時に一気にエジディオの懐に飛び込んだ。
「ハッ!」
「!!?」
懐に飛び込まれたエジディオは、パメラに対して空いていた左手で火魔法を放ち迎え撃った。
その魔法も素早くエジディオの左側面に移動し躱した。
「ハーッ!」
エジディオの側面に移動したパメラは、無防備になったエジディオの脇腹目掛けて木剣を振り抜いた。
「ウグッ!?」
攻撃を受けたエジディオは吹き飛び、倒れ、腹を抑えて踞ったまま動けなくなった。
【勝者パメラ!】
その瞬間勝敗は決し、司会によるパメラの勝利が宣言された。
会場からざわめきと共にまばらながら拍手が行われる中、パメラは倒れているエジディオに一礼して静かに闘技場から去っていった。