第108話 王都にて
前回書き忘れてしまいましたが、新章に入ります。
―――ハンソー王国王都チョーヒヤ―――
「ここが王都か……」
沢山の人が行き交い、賑わいを見せている周囲をキョロキョロと眺めながら、ロメオは呟いた。
「ロメオは王都は初めてなの?」
その姿を見て、少し後を歩くマルコがロメオに尋ねた。
「あぁ、隣の港町のセービには何度か行った事があったんだけど、王都は初めてだよ。」
ロメオの家は代々漁師なので、捕った魚を運ぶ為に様々な港町に行くことがある。
それに同行して、子供の頃からハンソー内の港町には行ったことはあるが、内陸にある王都には来たことがなかった。
「これからどうするんですか? 先生!」
「……まずは宿屋を探そう。大会目当てに沢山の人が王都に来ている。泊まる場所を決めてから町を見て回ろう」
現在ティノ達は、ハンソー王国内の初等部学生の全国大会に参加する為に王都に来ていた。
長期休暇の間、セイケ大陸で訓練を重ねてきたマルコが参加するからである。
ティノは保護者の立場ではなく、ジョセン代表のマルコの引率教師として着いてきている。
ロメオには、長期休暇が始まってすぐに、休暇後からジョセンの教師になると教えていた。
その為、ロメオはティノの事を呼ぶ時、先生と言うようになった。
マルコにも先生と呼ぶように言ったが、舌が回らない頃から続けている呼び方を、変えるつもりは無いようである。
物心が付いて少し経ったとき、マルコにルディチ家の歴史本を渡し、自分は親では無いとティノが告げると、その後何故かティノ様と呼ぶようになっていた。
「おい!」
宿屋を探してティノ達が通りを歩いていたら、通りの先で3人の男達が1人の老婆を取り囲んでいた。
男達は見た感じ冒険者のような風貌で、1人は腰に剣を腰に下げていた。
「ババア! ぶつかっといて何も無しかよ?」
「あわわ……、すいません……」
男達は、どうやらぶつかった事に腹を立てているようである。
「でも……、私は横に避けたんだけど……」
「あぁん!? 俺達が悪いって言いてえのかよ!?」
どっちから当たったに関わらず、老婆相手に大の大人が、ぶつかった程度でいちゃもんをつけてる時点で男達が悪いに決まっている。
恐怖で顔を青くして、老婆は縮み上がっていた。
「「あいつら!!」」
その光景を見ていたマルコとロメオは怒りを覚え、飛び掛かろうと膝を曲げた。
「……待て!」
「「ぐえっ!?」」
2人が同時に曲げた膝を伸ばして、飛び出そうとした瞬間ティノが2人の襟を掴んで引き止めた。
それによって2人は服が喉に食い込み、蛙の鳴き声のような声を出した。
「何すんだよ!?」「何故ですか!?」
2人は止められた事が理解出来ず、ティノに対して同時に疑問の声をあげた。
「大会前から目立つような事は控えろ。誰が見てるか分からないぞ……」
「確かに実力は知られ無い方が良いですけど……」
戦いにおいて相手の手の内が分かることは、大きなアドバンテージになる。
得意な戦いかたが分かれば、対応策を練ることが出来るからである。
マルコ自身その事は分かっているが、あの老婆を助けるには仕方ないと思う為、ティノに止められた事に納得行かない表情をしていた。
「マルコはともかく、何で俺まで……」
ハッキリ言って、ロメオは大会には関係がない。
そのロメオが、マルコ以外が授業を受ける中サボってついてきたのは、少しでも長い間ティノに稽古をつけてもらう為である。
マルコと違い、多少実力がばれても関係ない為、ティノに止められた事に疑問の声を発した。
「……ほれ」
抗議の声をあげる2人に対して、ティノは揉め事の起きている方向を指差した。
「貴方達! 何をしているの!?」
老婆を囲む男達に向かって、1人の少女が近寄って行っていた。
「あぁん!? 何だ? 餓鬼!」
「貴方達恥ずかしくないの? お婆さん相手に恫喝するなんて……」
「何だと……!? 餓鬼は引っ込んでやがれ!!」
少女が男達と言い争っていると、男達は痺れを切らしたのか、少女に向かって殴り掛かっていった。
「ハッ!」
「うっ!」「げっ!」「ぶっ!」
攻撃を躱すと同時に、少女は気合いと共に迫り来る男達を沈めた。
腹を殴られ、投げ飛ばされ、顔を蹴られとされた男達は3人とも痛みで踞っている。
「て、てめぇ……、覚えてやがれ!」
ありきたりなみっともない捨て台詞を吐いて、男達は逃げていった。
「へ~、やるな、あいつ」
「うん、そうだね」
それらの一部始終を見ていたロメオは、感心した声をあげた。
その言葉に、マルコも同意した。
『あの娘は確か……』
2人とは違い、男達が去った後、お婆さんや助けに入れずにいた周りの観戦者達から、礼や拍手を受けている少女の事を見て、ティノは見覚えがある様子だった。
「……さてと、揉め事もおさまった事だし宿屋探しを続けるぞ」
少女の事は一先ず置いておく事にして、ティノ達は宿屋探しを続ける事にした。
その少女が、後にティノ達にとって重要な人物になるとは、その時は思いもしないでいたのだった。