第107話 偶然
魔人族が統治するセイケ大陸、長期休暇の間の訓練の為に、ティノはこの大陸にマルコを連れてきた。
この大陸を選んだ理由として、この大陸は他の大陸と比べて魔素が強いせいか、魔物の強さもワンランク上な為である。
これまで他の大陸には連れて行った事はあるが、今回初めてマルコを連れてきた。
「……何か変な感じです」
初めて来たセイケ大陸の空気に、マルコは正直に呟いた。
「……そうだな」
隣にいるロメオも同意の言葉を呟いた。
「2人とも、俺からあまり離れるなよ。ここら辺は少し危険だからな」
「「はーい!」」
前を歩くティノの忠告に、2人は声を揃えて返事をしたのだった。
ロメオも一緒にいるのは昨日の事である…………
◆◆◆◆◆
終業式を終えて、ティノの元に駆け寄ってきたマルコの後ろに、ロメオも付いてきていた。
「ティノ様! 彼は学校の友達のロメオです!」
どうやらマルコがティノに紹介するために、連れてきたようだ。
「初めまして、マルコ君の友人のロメオです!」
ロメオは、少し緊張したようにティノに挨拶した。
「初めまして、マルコの保護者のティノだ。マルコが世話になっているようでありがとう」
そう言って、ティノはロメオに軽く頭を下げた。
「いいえ! どっちかと言うと俺が世話になっている方で……、マルコに鍛えられたお陰で随分強くなれたので……」
頭を下げられたロメオは、恐縮したように言葉を返した。
ティノは内心、あの小さかったマルコが人に指導できるほどになった事に、感慨深い気持ちになった。
「君はこの町の出身かい?」
「はい! 海岸近くに実家があります」
「じゃあここでお別れだね。我々は他の大陸に向かう予定だからね。」
ティノは、いつまた先日のような化け物が現れるか分からないので、長期休暇中はマルコを鍛える予定でいた。
その為、ロメオとはここで別れることになる。
「……あの」
「ん? 何だい?」
ロメオが何か言いたそうだったので、ティノは疑問に思った。
「俺を鍛えてくれませんか!?」
「…………えっ? 何で?」
ロメオが意を決して言った言葉に、ティノは疑問しか湧いてこなかった。
「俺強くなって有名な冒険者になりたいんだ! だからお願いします!」
ロメオは、ティノに対して深く頭を下げた。
「僕からもお願いします。ロメオはかなり才能があると思うんです」
入学当初からマルコと一緒に鍛えてきたロメオは、1年生でありながら校内戦で上級生を2人も倒すほどの実力に成長した。
校内戦に参加するような生徒は、成績も然る事ながら、魔法や武術に長けたエリートである。
その上級生に、数ヶ月の訓練で勝てるようになったロメオは、確かにかなりの才能の持ち主である。
「……取りあえず、君のご家族の方に確認してからにしよう」
恐らくロメオの両親が止めてくれるだろうと思い、そう言ってティノはその場をごまかした。
「どうかロメオの事をお願いします」
ロメオの家で挨拶を済ました後、ロメオがティノ達に付いて行く事をロメオの両親に話したら、反対すると思われたロメオの両親は、反対どころか逆にお願いされてしまった。
「……いや、今日会ったばかりの私に任せて、ご両親はよろしいのですか?」
意表を突かれたティノは、慌ててロメオの両親に再確認した。
「いやぁ、ロメオの奴が校内戦に参加するって聞いたときは、相変わらず馬鹿なことを……、と思ったけれど、まさか2勝するなんて思ってもみなかったぜ! 話を聞いたらお宅のマルコ君のお陰だとか? こいつは兄と違って、漁師にならずに冒険者になりてえって昔から言ってやがった。漁師も冒険者も危険が伴う職業だ。頂上目指せとは言わないが、食っていける程度の実力があった方が、こっちとしても安心できるってもんだよ」
両親は、どうやらロメオが冒険者になる事には反対しないようで、それでも息子の事を思うと、実力がないよりあった方が良いという考えから、1年生で学校代表になったマルコを育てたティノに任せる事にしたらしい。
「……本当によろしいので?」
ティノは最終確認のつもりで問いかけた。
「はい、お願いします。ロメオを鍛えてやって下さい」
「……分かりました。しばらくお預かり致します」
ここまで来たら断る訳には行かず、ティノはロメオを預り、鍛える事になってしまったのだった。
◆◆◆◆◆
「もうすぐ町に着くからな」
「「はーい」」
ティノの言葉にマルコとロメオは合わせたように返事を返した。
「…………」
ティノは2人の前を歩き、町へ向かいながらあることを考えていた。
『あの家族に頼まれたら断れないだろ……』
その考え事とはロメオの両親にロメオの強化を頼まれたことである。
『それにしてもまさかな……』
そしてロメオの実家に行ったときの事であった。
『まさかロメオがヴィットリオさんの子孫だとはな……』
そう、ティノが大昔に命を助けてもらった漁師のヴィットリオの家が、ロメオの実家だったのである。
命を助けてもらった為、これまでヴィットリオの子孫たちの様子も時折り見て来たのだが、ロメオに連れられて向かった先がそこだったので、着いたときティノは内心驚いていた。
命を救ってもらった恩をいまだに返していないので、両親の願いを受けたティノは断ることが出来なかった。
『マルコ共々やったりますか……』
軽く決心したティノは考えを止め、町へ向かって歩いて行ったのだった。
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