第106話 終業式
校長室での話の翌日の午前、ティノはトウダイに戻って来ていた。
「オッス! アドリアーノ」
ティノは話があったので、クランエローエリーダーのアドリアーノを見つけて声をかけた。
「!? 何か用か? と言うかお前どこ行ってた?」
これまでの行動から、アドリアーノはティノを完全には信用していないが、敵ではないと思いつつある。
特に情報収集力の高い事は、内心高評価している。
ティノはちょくちょく居なくなると情報を持って来るので、アドリアーノは今回もそうなのかと思い尋ねた。
「ちょっと色々あってね……」
どこから話すべきか考えていたティノは、返事が中途半端になった。
「ったく、ほっつき歩いてないで、たまには町の再建に手を貸せよ!」
その態度に、今回は単純に出歩いていたのかと思い、アドリアーノは少し声が荒くなった。
「リンカンは体制整えるまで時間がかかるだろうし、ハンソーも動きがないみたいだから自分達で頑張りな」
トウダイの町の再建は少しずつだが確実に進んでいる。
アドリアーノ達、エローエの幹部達の努力もあるのだろうが、町の人々も楽しそうに毎日頑張っている。
そこを魔法でパパッと作って行ってしまうのは情緒がないだろうと思い、ティノは手伝わないでいた。
「………ハンソーに行ってたのか?」
アドリアーノは、ティノの言葉の一部に引っ掛かり、問いかけた。
「鋭いな。その通りだ。その事であんたに話しておきたい事がある」
そう言って、ティノはリューキ王国の研究の事と昨日起きた事を、マルコの事を隠してアドリアーノに話した。
マルコの事はまだアドリアーノ達に教えるつもりはない。
サプライズはもっと期が熟してからだと考えているためである。
「…………そんな馬鹿な!? 人を魔物に変えるだと………」
アドリアーノはティノの話しに驚愕の表情をした。
「犯人の特徴を描いた絵がある。これをなるべく多くの人間に知らせて置いてくれ」
「……あぁ、分かった」
ティノは魔法の指輪からジョセンの領主の画家に描かせたチリアーコの似顔絵の紙を取り出し、アドリアーノに渡した。
「あぁ、そうだ! これから数ヶ月留守にするからそのつもりで……」
ティノはアドリアーノに話すもうひとつの事を思い出した。
「何だと!? どこに行く気だ!」
アドリアーノは、またどこかに潜入するのかと思い尋ねた。
「え~と……、ある子供の所に……」
マルコの事をまだ隠して置きたいティノは、どう言ったら良いか考えながら話したら、歯切れが悪い感じになってしまった。
「子供? そう言えばヤコボに聞いたがお前子供がいるんだったな?」
ティノの歯切れの悪い様子に、アドリアーノはティノが子供の事を話すのが苦手なタイプなのかと勘違いした。
「……いや、まあ……」
子供は子供でも息子ではないし、かといって子孫ですとも言えないし、ルディチの人間だとも言えないので、またしても歯切れが悪い感じになってしまった。
「フッ、お前でも照れる事があるんだな?」
これまで、まともにティノが感情を出した所を見たこと無かったアドリアーノは、初めてティノが照れてると勘違いして、少しからかったように話しかけた。
「…………、時おり帰るよ。それじゃ……」
ティノからしたらマルコの事を突っ込まれたくないので、足早に去ることにした。
アドリアーノはそれをまた勘違いして、照れてるのを隠すように去って行ったと思っていた。
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――話しは戻って昨日の事――
「ティノ殿! この学校の教師になってくれないか?」
校長によって発せられたこの言葉に、ティノとマルコは一瞬時が止まったように固まった。
「……、唐突ですね……」
しかし、ティノはすぐ我に返ったように言葉を返した。
「それは申し訳ない。しかし、昨日のような化け物相手に、無傷でいるような人物を見逃すわけにはいかなくての……、ワシは全く役に立たなかったしの……」
油断から両手を負傷した事を思い出した校長は、苦い顔をしながら話した。
「……怪我をしなかったらあなたでも倒せたでしょ?」
校長が怪我を負った事は聞いていたが、ティノは怪我をしなかった時の事を言った。
「…………いやいや、この老いぼれには無理じゃよ」
変な間が空いた後、このように校長は言った。
「またまた、元宮廷魔導師の方が何を仰る」
どこかはぐらかそうとする校長に、ティノは意味深な言葉を発した。
「…………、何故それを知っとるのじゃ?」
今までと違い、校長は声のトーンを落として話しかけてきた。
「昔話が好きな年寄りがいたもので……」
これは嘘である。
校長が元宮廷魔導師だと言うことは、昨日少し話したとき思い出した為である。
ティノは昔に、マカーリオと言う名の宮廷魔導師の事を何度か見たことがあったので覚えていた。
「……そうなのですか?」
いままで黙って聞いていたマルコも思わず校長に聞いてしまった。
「昔の話じゃ……、忘れてくれ……」
校長は少し俯き、暗い表情で言葉を返した。
「大丈夫です。その事を他言するつもりはありません」
その校長に、全て知っていると言わんばかりのセリフをティノは発した。
「……そうしてくれ。……話を戻すが教師の件はどうかの?」
ティノの言葉に校長は更に硬い表情になりつつ話し、話の流れを元に戻そうとした。
「……構いませんよ。何時まで続けるかは分かりませんけど、それでよければ」
ティノは少し考えた後、教師の件を受ける事にした。
「本当かの!? てっきり断られると思ったが……」
言葉の通り、校長はティノが提案を受け入れたことに驚いた。
「チリアーコがまたマルコを狙う可能性があります。その為には近くにいた方が良いと思いまして……」
ティノとしては人造魔獣は対して驚異ではないが、マルコの実力ではまだ対応出来ない。
教師として近くにいられるなら安心できる。
そういう考えからティノは受け入れる事にしたのだ。
「なるほど……、では長期休暇後からお願いしますじゃ」
「分かりました」
そう言ってティノは、校長と握手を交わした。
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昨日の校長室での会話を思い出しつつ、トウダイから闇魔法転移したティノはジョセンの宿屋でマルコが来るのを待った。
今日の午後から学校は長期休暇に入る。
入学時の約束通り、マルコは長期休暇をティノと過ごす事にしているので、終業式が終わったマルコは、昨日のうちにまとめておいた荷物を魔法の指輪に入れ、急ぐように寮から出て行った。
「ティノ様!」
そろそろだと思い宿屋の前に立っていたティノに、マルコは小走りでかけ寄ってきた。
「……来たか」
昨日も会ったというのに、嬉しそうにかけ寄るマルコを見てティノは苦笑した。
皆様からのご指摘により、いつもより長めに書いてみました。
これを毎日はキツイですが、取り敢えず2000字を目安に書いて行きたいと思います。