第105話 校長室
翌日、ティノはマルコの学校の校長室に来ていた。
ティノが闘技場から出て領主邸に向かう時、治療を終えた校長に会ったので挨拶をしたら、明日話があるので来てくれと言われた為である。
“コンッ!”“コンッ!”
「失礼します」
ティノがノックをして入ると、そこには髭を蓄えた老人が椅子に座っていた。
「よく来てくださいました。改めまして、ワシは校長のマカーリオと申します」
ティノの入室に、校長は立ち上がり簡単な自己紹介をした。
「マルコの親代わりをしているティノです」
ティノもそれに返した。
「もうすぐマルコ君も来ますので、取りあえずお座りになってお待ち下さい」
校長はティノを応接用のソファーに招いた。
座って少し待っているとマルコも現れたので、ティノは学校に呼ばれた理由を尋ねた。
「貴方をお招きしたのは、昨日の事でお話しがありましての……」
この言葉は、ティノからしたら予想の範囲内だった。
と言うよりも、昨日の事以外で呼ばれる理由が思い浮かばなかった。
「先ず、魔物にされてしまった少年の名前はカルミネと言って、校内戦の決勝でマルコ君と戦う相手でした」
「そうでしたか……」
校長の言葉に反応したのはマルコだった。
あの時化け物は西口から現れたので、チリアーコがマルコを殺す為に丁度良かったのだろうと判断した。
少年が対戦相手だとは、前日の準決勝の試合を観戦して顔を覚えていたので、すぐにそうだと分かった。
「そんな訳で、校内戦の代表は不戦勝でマルコ君に決定しました」
「……そうですか」
この言葉を聞いて、ティノは少々驚いた。
今日呼び出されたのは、マルコを退学にする事を告げる為に呼び出されたと思っていた為である。
あのような化け物を造り出すことが出来る犯罪者に命を狙われている人間を置いておくのは、学校にとっても危険だと判断されると想像していたからである。
「情けない事ですが、ジョセンはハンソー王国内でも外れの町でして、更にここ数年戦争続きで資金の不足が著しいのが現状ですじゃ」
町はそれなりに活気はあるが、それは町の人々が懸命に頑張っているからに過ぎないらしい。
昨日行った領主邸もそれほど大きくなく、邸内も飾りらしい飾りは全くと言って良いほど無かった。
どうやら領主は兵士を養うのに一杯一杯らしい。
その為、学校発展の為の資金はあまり与えられず、教師の確保が精一杯といった状況なのだとか。
「なので、マルコ君にはやめてもらう訳にはいかないのじゃ……」
「そうですか……、しかし学校にとっても危険では?」
マルコが退学にならないのは良かったが、その分学校は危険が付きまとう事になる。
ティノは、その事をどうするのかという意味も込めて問いかけた。
「そこでじゃ……」
そう言った後、校長は一旦間を空けた後にこう言った。
「ティノ殿! この学校の教師になってくれないか?」