第104話 終結
「あ~あ、逃げられちった」
チリアーコに逃げられたティノは、ちょっとだけ面倒くさそうにつぶやいた。
「まぁ、狙いは俺とマルコみたいだし、それほど慌てる事は無いか?」
強力な魔物を人工的に造り出せる技術は確かに恐ろしいが、それを使いこなすにはよほどの闇魔法の才と努力がなければならない。
唯でさえ、この世界では攻撃に使えない事で人気の無い闇魔法を、訓練している人間などかなり少ない。
チリアーコが特殊なだけで、そうそうこの技術を使いこなせる人間など現れないだろう。
基本的には自分とマルコ以外に、この技術を使用されなければいいので、次会った時にでも仕留めればいいかとティノは考えた。
「ガアァーー!!」
「あっ? そう言えばお前まだいたんだっけ?」
少しの間思考を巡らせていたので、チリアーコが残していった化け物の事をすっかり忘れていた。
「可哀想にな、誰だか知らんがあんなのに操られて……」
チリアーコの奴からしたら、手に入れた技術を試す実験の意味があったのだろう。
見知らぬ相手とはいえ、ティノは少しだけ同情の思いが湧いた。
「こんなんになったら、もう助からないだろうな……」
そう思うと化け物の発する鳴き声が、悲鳴のように思えてきた。
「ガアァーー!!」
化け物は、同情の眼差しを向けるティノに向かって襲いかかって来た。
「……だからって手加減する気は無いけどな!」
目の前に化け物の振るった拳が迫るなか、いつの間にか腰に下げていた鞘から剣を抜いたティノは、身体強化をして化け物の拳を躱して懐に飛び込んだ。
「…………ここだ!」
ティノは魔力を纏って強化した剣を、硬質な毛に覆われた化け物の腹目掛けて突き刺した。
「…………」
腹を刺された化け物は、動きが止まり動かなくなった。
「!!?」
そしてそのまま化け物の体が、まるで氷が溶けるように崩れていった。
その様を見ていたマルコは、目を丸くして眺めていた。
「ティノ様! 何をしたのですか!?」
化け物が崩れきったその場には、少年の亡骸が横たわっていた。
ティノは、裸で横たわるその亡骸に魔法の指輪から取り出した布をかけてあげた。
そうしているティノに、マルコは魔物化を解除した方法を尋ねた。
「あぁ、それはな……」
ティノがマルコに種明かしをしようとしていた所に、鎧を装備した防衛兵達がドタドタと入ってきた。
「…………? 確かここに化け物が現れたと聞いて駆けつけたのだが?」
先頭に立つ男が、所々荒らされた闘技場を眺めた後、ティノ達に問いかけてきた。
マルコの側には白狼のパルトネルがいるのだけれど、マルコの側でお座りしているのを見て従魔だと気付いた為、スルーされたようだ。
「もう鎮めた。話すと長くなるけどいいかい?」
「……聞かせてもらおう!」
そのような会話をした後、ティノは事の顛末を兵士に説明した。
チリアーコの事とリューキ王国の研究の事も話し、利用された少年の遺体は兵士達によって丁重に扱われる事になった。
ティノとマルコは兵士達に領主邸に連れられて行き、領主に対しても同様の説明をして、後の対処を丸投げにしてティノは宿屋にマルコは寮に帰っていった。