第101話 化け物
その姿は、まさに鬼と言った感じだった。
オーガのように3m近い巨体で、肉体は赤黒く頭に角が数本生えている。
しかし、オーガとは比べ物にならない程の禍々しいオーラを放っていた。
“ウワーー!!”“キャーー!!”
会場は観客たちの悲鳴で、騒然となった。
非常事態により、学校の教師達は観客の避難を誘導し始めていた。
「マルコ!!」
観客達が避難をする中、ロメオがマルコの近くまで走ってきた。
「ロメオ! 校長先生を連れて行ってくれ!」
丁度良く現れたロメオに、マルコは校長を任せる事にした。
「何で!? 回復魔法は?」
マルコの言葉を聞いたロメオは、当然思い付く質問をした。
「僕は被害を抑えるためにあれを止める! その為に魔力を使いたい!」
突如現れた化け物は、観客がいなくなった客席を破壊して大暴れしていた。
「止めるって……、あんな化け物そのうち来る兵士達に任せれば良いだろ!? お前が危ない目に会う必要無いだろ!?」
ロメオは、マルコが強い事はよく知っている。
しかしロメオが見る限り、あの化け物から溢れるオーラは、いくらマルコでも対応出来るレベルではない。
町には、領主によって問題が起きた時に動く防衛兵が組織されている。
その為、化け物の相手は彼等に任せるべきだと、ロメオはマルコを止めた。
「観客はまだここから離れきれていない。あの化け物の意識が観客に向かったら被害が及ぶ。防衛兵が来るまで誰かが気を引かないと……」
マルコは闇魔法を発動し、影から剣を取り出し化け物に向けて構えた。
「……分かった。マルコに任せる」
そう言ってロメオは、身体強化し校長を背中に背負った。
「ぐっ!? 駄目じゃ! 危険すぎる! 逃げるのじゃ!」
折れた両手が痛むのを我慢しつつ、校長はマルコの行動を制止した。
「しょうがないでしょ!! 行きますよ校長!」
背中で暴れる校長を宥めつつ、ロメオは避難口の方向に体を向けた。
「マルコ!! 死ぬんじゃねえぞ!!」
背中を向けつつマルコに言葉をかけて、ロメオはマルコにやめろと言い続ける校長を背負って走り出した。
「……もちろんそのつもりだよ!!」
遠ざかるロメオに向けて、マルコは大きく言葉を返した。
「グルルルル……!!」
観客の避難も残り僅かとなった今、化け物が避難口に急いで向かう観客に目を向けた。
「ガアァ……!!」
そして、笑ったように口を開き、声を出した。
“バッ!!”
明らかに観客に襲いかかろうと意識が向いた化け物の前に、マルコは立ち塞がった。
「僕が相手だ!!」
マルコは剣を構え、化け物に向かって声を出した。
「!!? ガアァーー!!」
化け物の意識はマルコに向き、直ぐ様マルコに向かって拳を振り下ろしてきた。
「くっ!?」
感覚的にどす黒い感じの魔力を纏った化け物の拳は、マルコが全力で身体強化した状態で辛うじて回避出来る程素早い動きだった。
「ハッ!」
化け物の拳を躱して距離を取ったマルコは、氷魔法で化け物の足を凍らせ固定した。
「今だ!! パルトネル!!」
「ガアァーー!!」
マルコが叫ぶと、白い狼が牙で化け物に襲いかかった。
“ブチッ!”
「グガアァーー!!」
牙を左手に受けた化け物は、深く傷付き痛みで叫び、皮1枚で繋がった状態になった。
〔ぐえっ!? ペッ!!〕
パルトネルは、食いちぎった化け物の肉が不味かったらしく吐き出した。
パルトネルは普段、白狼達が住むモーホク大陸のある森で暮らしているのだが、マルコが強い魔物と戦う時は闇魔法で呼び寄せて共闘するようにしている。
「ガアァーー!!」
化け物は自分を傷付けたパルトネルと、動けなくしたマルコを、完全に標的にしたように睨み付けた。
「!!? 傷が……!!?」
すると、化け物からどす黒い感じの魔力が溢れ出し、抉れた左手の傷が塞がって行った。
〔マルコ! さっきよりヤバくなったぞ!〕
パルトネルも気付いたらしく、念話でマルコに語りかけた。
傷が塞がっただけでなく、先程以上の魔力を纏った化け物は、マルコ達が相手になるようなレベルを越えていた。
「……くっ!? パルトネル何とか逃げ回って時間を稼ぐぞ!」
仕方がないとは言え、マルコはパルトネルに消極的な指示を出した。
「ガアァーー!!」
“フッ!”
「!!?」〔!!?〕
雄叫びを上げた後、化け物が消えたような速度でマルコの背後に回り込んだ。
“ドカッ!!”
“ドンッ!”
「グハッ!?」
マルコが背後の化け物に振り向いた瞬間、化け物の拳が飛んできた。
辛うじて剣を盾にし防いだマルコだったが、強力な威力によって吹き飛ばされ、高速で壁にぶち当たった。
背中をまともに打ち付けて、マルコはうめき声を上げた。
〔!!? マルコ!!〕
“ザッ!”
“ドンッ!”
〔ぐえっ!?〕
そのすぐ後、マルコがやられたことに意識が向いたパルトネルに、化け物が蹴りを放った。
その蹴りをまともに受けたパルトネルは、飛ばされ地面に数度弾んだ後、数ヶ所の骨が折れたらしく動けなくなってしまった。
「ぐっ!? パルトネル……!?」
パルトネルがやられてしまい、マルコが動揺しつつ懸命に立ち上がると、化け物はゆっくりとマルコに向かって歩き出した。
「くっ!?」
“バッ!!”
近寄る化け物に対して、マルコはふらつく体を気力で抑え込み、右手を向けて氷魔法で無数の氷の弾丸を放った。
“フッ!”
しかし化け物は高速で回避し、マルコの目の前まで近寄ってきた。
「ガアァーー!!」
「くっ!?」
化け物が拳を振り上げ、今の体では避けきれないと判断したマルコは、全魔力を使って防御に回した。
“ドカッ!”
“ガンッ!”“ドンッ!”“ゴロゴロゴロ……ドサッ!”
殴り飛ばされたマルコは、まるでピンボールのように地面を弾み、何度も転がってようやく止まった。
「グルルルル……」
化け物は、倒れているマルコに止めを刺す為、マルコに向かって歩き出した。
「…………ぐっ!? ……まだ、……まだ」
マルコはボロボロの状態になりながらも闘志は衰えず、剣を支えにヨロヨロと立ち上がった。
「ガアァー……」
化け物はその姿を見て、笑うように口の端を上げてマルコに近付いて行った。
そしてマルコ前まで来ると立ち止まり、マルコを捕まえようとゆっくりと右手を伸ばしていった。
「……僕は、……まだ」
意識がしっかりしないのか、マルコは近付く手に反応出来ず、言葉を呟く事しか出来ないでいた。
“バゴンッ!!!!!”
化け物の手が残り僅かでマルコに届くといった瞬間、化け物に強力な衝撃が加わり、3m近い巨体が吹き飛んだ。
「…………!!?」
マルコは何事が起きたのか分からず、唯目を見開いた。
“スッ!”
「…………間に合ったな?」
「……!!? ……あっ、あっ……」
化け物に衝撃を与えた人間が、マルコの前に姿を表した。
「ティノ様!!」
その姿を見たマルコは、体の痛みと疲労を忘れたように大きな声を上げた。
――ステータス――
〈名前〉ティノ
〈種族〉人族
〈性別〉男
〈年齢〉?
〈能力〉Lv 577
HP 2255/2255
MP 6310/6410
攻撃力 693
守備力 636
力 563
素早さ 832
賢さ 1525
耐久 536
〈スキル〉
農業 (Lv 10/10)
火魔法 (Lv 10/10)
水魔法 (Lv 10/10)
風魔法 (Lv 10/10)
土魔法 (Lv 10/10)
雷魔法 (Lv 10/10)
闇魔法 (Lv 10/10)
光魔法 (Lv 10/10)
無詠唱 (Lv 10/10)
剣術 (Lv 10/10)
武術 (Lv 10/10)
錬金術 (Lv 10/10)
〈特殊スキル〉 不老
〈称号〉 浮浪者
――ステータス――
〈名前〉マルコ・ディ・ルディチ
〈種族〉人族
〈性別〉男
〈年齢〉9
〈能力〉Lv 49
HP 8/197
MP 2/380
攻撃力 132
守備力 134
力 95
素早さ 192
賢さ 287
耐久 98
〈スキル〉
剣術 (Lv 6/10)
水魔法 (Lv 6/10)
闇魔法 (Lv 3/10)
光魔法 (Lv 3/10)
無詠唱 (Lv 6/10)
武術 (Lv 4/10)
〈従魔〉
パルトネル(白狼)
――ステータス――
〈名前〉パルトネル
〈種族〉白狼
〈性別〉雄
〈年齢〉6
〈能力〉Lv 67
HP 7/347
MP 11/128
攻撃力 178
守備力 135
力 178
素早さ 170
賢さ 89
耐久 135
〈スキル〉
武術 (Lv 7/10)
〈主人〉
マルコ・ディ・ルディチ