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文明未開花  作者: aho
2/4

捕捉

タタンは集落の若き長が一人息子である。

タタンが生まれた頃には神は既にその姿を消しており、タタンが物心がついた頃には集落は常に暗い雰囲気を纏っていた。


タタンは親の背中を見続けた影響か、誰よりも神を憎み、そして誰よりも神を渇望していた。

集落の栄華を象ると同時、集落に絶望をもたらす不幸の象徴である神は、彼からすれば酒癖の悪い父とどこか似た存在であり、しかし愛情のやり取りがない唯の他人でしかなかった.

それが始まりである.

いつの頃か父の神に対する執着を憐れむようになり、そして自己への投影と幼さゆえの純粋さから,誰よりも神を追い求めるようになった。

長老が亡くなった頃,タタンは未だ幼く狩りに出る歳まで更に数年を要する状況にあった。

渇望すれど,手を伸ばすことさえもできない.

父とは大きく異なるその状況が父以上の執着心と合わさることで、彼は神についてただただ思考する時間を得た。


神とは何か。

食糧を撒き散らす巨人とのことであるが、彼らはなぜ大きく、そして食べ物を分け与えていたのか。

身の丈は山にも届き,集落全員に分け与えてもまだ余るほどの大層美味な食糧.

その見た目は鳥にも似ており,ただし鳥とは異なり幾本もの腕を持っていた.


山にも届く.そのことに彼は引っかかりを覚える.

それは,神というよりも山そのものではないのか.

自身が食事を要せず,恵みを与える姿はまさに山である.

しかし,山は動くことはなく,また鳥と比喩するにはふさわしくない.


彼は結論付ける.


「それ」は,この世のものではない.

その実態が山であろうが,鳥であろうが,そして神であろうが.

結論は変わりない.

この世界にないのであるから,この世界を探しても見付かる筈がない.

それだけであった.


大人達は,確かにこの世界で「それ」に遭遇したらしい.

山であるのなら,大人たちは山を探すはずである.

草原などへ狩りに行くわけがない.

生き物であれば,父や母や,とにかく同族たる家族がいるはずだ.

だが,「それ」に類するものが他に全くと言って見当たらないのはどういうことか.



外の世界にあるのだ.


そうして,タタンは「それ」を探すのではなく,「こちらの世界」へ呼び寄せることを思い付く.



こっくりさんこっくりさん こっくりさんこっくりさん

こっくりさん

どうぞおいでください

もしおいでになられましたら そのすがたをわたしに おみせください


こっくりさんこっくりさん こっくりさんこっくりさん

こっくりさ...



タタンは,突如として奇声を発し意識を失う.

それを見ていた集落の者は皆,口々に神の怒りであると言い,恐れ慄いた.




それ以来,タタンは気が狂ったように「それ」を呼び寄せ始めるようになった.


こっくりさんこっくりさん こっくりさんこっくりさん

こっくりさん

どうぞおいでください

もしおいでになられましたら そのすがたをわたしに おみせください

こっくりさんこっくりさん...


気を失うタタン.

翌朝に目を覚ますと,心配する父の問いかけを無視し,再び「それ」を呼び寄せる.

村の皆はタタンそのものを恐れ始め,憑き物であると避けるようになった.


タタンは唱える.


こっくりさんこっくりさん...





タタンは夢を見ていた.意識がはっきりしない中,呼び寄せる最中に幻覚を見ていた.



それは,山のように大きな鳥であった.腕を伸ばしながら,それはタタンへと話しかける.


こっくりさんこっくりさん こっくりさんこっくりさん

こっくりさんこっくりさん


感情のない目を向け,腕を伸ばしながらそれは話しかける.


こっくりさんこっくりさん


タタンは驚いた.

あまりの恐怖に大きな声を挙げ,逃げ惑う.

だが,必ずと言って「それ」はタタンを捕まえ,そして握り潰してしまうのだ.

タタンが「それ」に殺される瞬間に夢は終わる.

目が覚める頃には朝となっており,その度に側で心配そうに問いかけてくる父にタタンは助けを求めるのだが,身体は意に反して再び「それ」を呼び寄せてしまう.


こっくりさんこっくりさん


こっくりさんこっくりさん



タタンは,自身が自身でなくなり始めたことに,絶望していた.



こっくりさんこっくりさん


こっくりさんこっくりさん





タタンは,「それ」と邂逅していた.

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