新社会人 2
「なぁ倅よ、」 「なんだ親父、」 「狩に出ない?」 「出ない。」 「なぁ、」 「出ない。」
この不毛な会話が繰り返されてそろそろ10日になる。
全ての原因は国軍の馬鹿がアロサウルスを殺り損なった事から始まった。
せめて手負いがどちらの方角に逃げたかだけでも分かれば・・・ 「なぁ虎二郎よ、」 「なんだい親父、」 「そろそろ飯にするか、」 「分かった、」
「今日の献立は?」
「ラプトルの串焼きとラプトルのスープ」
「倅よ、父はたまにはすき焼きとか食べたい」
面倒くさいな〜も〜
「ふ〜、じゃあラプトルのすき焼きな。」
「すき焼きは牛肉で作るもので恐竜肉で作ったら竜すき焼きになっちゃうだろ。やだろそんなの?」
「金がない。」
"えっ、"
まともに貯金1つしない奴が、えっ、じゃねぇよ
「この10日狩に出れなくて漏れ無く我が家は金欠です。」
「この前、生け捕りにした奴は?」
「支払いは来月だ。それに狩に出た人数で割ればたいした金額にはならない。」
「なぁやっぱりアロサウルス・・・」
「行かない。大体何処に居るかも判らない相手どうやって狩るの。」
"ウゥゥゥ〜ウガ〜"
おっ!とうとう壊れたか馬鹿親父
"これも全部虎太郎が悪い!"
「はぁ?何で兄ちゃんが悪いのよ?」
「馬鹿かお前は、アイツは国軍の士官学校に行ったんだぞ!」
「行ったから何?」
「だから虎太郎の馬鹿が悪い!」
あぁコイツ本当にダメだ
「馬鹿はお前だ。バーカ。」
「テメエ親に向かって馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
「それ以外の言い方があるか!」
「ヨシ!上等だ今日と云う今日はキッチリ親の怖さ教えてやる。」
「コワイ位馬鹿なのは知ってるわ!」
「殺んのか?」
「行ったら!」
こんな不毛な親子喧嘩をしている時にサイレンが鳴り響いた。
"ウゥゥゥ〜ウゥゥゥ〜お知らせします。ハンターの皆さんは武装してハンター組合まで至急御出下さい!"
うわっ〜嫌な予感しかしない。
"親子"
"虎二郎支度しろ"
"オウ!"
こうして俺にとって最悪の狩りが始まりを告げた。
俺と親父がハンター組合の会議室に着いた頃には部屋の中は人々のの熱気で蒸し暑いぼどに温まっていた。
「風間さん虎二郎君おはようございます。」
「これは遠山さん流石にお早い。」
「遠山の叔父さんおはようございます。」
「で呼ばれた理由の説明は在りましたか?」
「それが全く無いんです。お蔭で皆イラついてます。」
此は予想以上に悪い方かな、呼び出し掛けときながら未だに方針が定まって無い、それだけヤバイ事になってるって事だ。俺がそんな事を考えて居ると会議室のドアを開けて組合長と知らない姉ちゃんが入ってきた。
う〜ん、何て〜の、パリッとしたスーツ着て俗に言うクールビューティーって感じ?
「さっさと席に座らんか!」
皆が席に着くと組合長の話が始まった
「待たせてすまんな。今回の呼び出しについて説明をする。今朝方、街より東へ10キロ足らずの所で隊列を組んだトレーラーが、アロサウルスの群に襲われた。逃げ切れ無かったトレーラーは円陣を組み街に救援を要請してきた。」
クソッ軍の馬鹿共、絶対何か可笑しいと思ったんだ!
アロサウルスは本来群れで行動する恐竜だ、手負いのアロサウルスが一頭のはずが無かったんだ!
「組合長、一寸待ってくれそれが俺達と何の関係が在るんだ?」
そう言ったハンターに向かって組合長の横に突っ立っていた女が金切り声をあげた。
「何の関係が有るかですって!貴方はハンターでしょう!こういった際に役にたたなくて何の価値が在ると云うのです。」
うわ〜なんだこの姉ちゃん、横からしゃしゃり出て苛ついてる皆に喧嘩売っちゃってるよ。
"なんだテメェは" "寝惚けた事言ってんじゃ・・・"
"落ち着かんか〜馬鹿者!"
組合長の一喝でその場は鎮まり返った。
「本来ならこういった案件は我々民間のましてや個人事業主に来る依頼では無い。しかし幾つかの事案が重なってしまったのじゃ。まず国軍は首都に飛来した翼竜の対応で手が離せん。次に警察軍は管轄違いを理由に出動を拒否しおった。」
うわっ!マジか〜国軍の方は未だしも警察軍は相変わらずのお役所仕事だ〜、確かに警察軍の管轄は街中と外壁周辺だけど・・・
「それにしたって大手の警備会社が在るだろう。それだけのトレーラーの移動には必ず噛んでいるはずだ。」
そう聞かれるのを待っていたかの様にまたもやさっきのキーキー姉ちゃんがしゃしゃり出て来た。
「それに付いては私から、宜しいですか?」
「結構、コチラはゼーコム警備保障の羽佐間支店長だ皆話を聞け。」
「コホン、今回のトレーラーの運用警備には私共の会社が担当しております。しかしながら我が社は現在労使交渉の縺れからストのまっただ中に在りまして動けるハンターがおりません。その為ハンター組合の方にお願いに参りました。」
なんともまぁ間の悪い・・・うん?
「あの〜質問してもいいですか?」
「虎二郎か、構わんぞ」
「ストでハンターが動けないなら誰が其所までトレーラーを転がして来たんですか?」
「それは生産係の事務職員を臨時のハンターとして・・・」
「はぁアンタ馬鹿か!素人をアロサウルスの危険がある地域に送ったのかよ!」
「・・・・・・」
ダメだコリャ話にならない、そんな空気が部屋中に漂った時に、独りの馬鹿が立ち上がりやがった。
「だとしたら時間との勝負だ、急がなくちゃならないな組合長、アロサウルスの数教えてくれ、あぁそれと其所に行くための足が居るな。」
そう言ってウチのクソ親父はニヤリと笑いやがった。
「行ってくれるか?虎男、」
「あぁその代わり道具も金もたんまり頼むぜ。」
嘘だろ〜あ〜クソックソッ死んじまうだろうがクソッ・・・親父、立派な墓は建てて遣るからな組合の経費で。
「ヨシッんじゃ行くか虎二郎。」
"ハア?"
嫌々何言ってんですかこのアホウは何で俺も行くとか言っちゃってんの?嫌々あり得ないでしょ?あり得ないから?
俺は間違いだとばかりに親父の顔を覗き込むと満面の笑顔で親指を立てている馬鹿が俺の目に飛び込んで来ました。
「全く風間さんには敵いませんな。」
そんな笑顔馬鹿の隣の席に座っていた遠山さんが立ち上がり皆に向かって話始めた。
「まぁ何です、風間さんがこう言ってるんですから、皆さん参りますか?」
"あ〜しゃあ無いか" "1つ貸しだぞ風間さん"
こう言って皆馬鹿に話し掛けながら部屋を出て行った。
「さぁ俺達も遅れちやなるまい、行くぞ倅。」
そうか、うちの親父は馬鹿は馬鹿でも大馬鹿だったか、じゃあしゃあないか、
俺は無言で立ち上がり部屋を出た。
俺達はビルを出た所に置いてあったジープに乗り込むと、警備会社の倉庫に向かった。
「親父何しに倉庫に行くんだ!」
そう言う俺を不思議そうに見ると親父は事もなく言ってのけた。
「そりゃあお前倉庫に飯食いに行く奴はいないだろ。装備だよ、装備をかっぱらいに行くんだよ。」
一刻を争うとか言っておきながら遣ることは倉庫泥棒かよ。 俺が呆れ果てて居ると、
「お前がガキの頃にもこんな事は何回も合ったんだよ。」と親父は話始めた。
「色んな理由で大手が動けない、そんな時は俺ら個人のハンターにお鉢が廻ってくる、
しかし俺らは大型肉食竜の討伐武器は持ってない、其処で大手警備会社や警察軍は俺らが倉庫から大型竜用の装備を持って行く事を観て見ぬ振りするって訳だ。
勿論使い終わったら買い戻しすか払い下げするかは向さんとの話し合いで決まるんだな。」
こんなしょうもない事を偉そうに親父は語ってた。
そしてそれを聞いた俺は、つい
「それなら街の外壁の警備棟から対大型竜用ミサイルもかっぱらおうぜ親父。」
ついですよつい、
しかしその辺は親父の方が心得ていて、
あくまでも持ち運べるサイズ迄と云う暗黙の了解が在ると教えてくれた。
倉庫に着くと既に他のハンターで倉庫内はごった返していた。
「風間さんコッチコッチ。」
そう言って手招きをする遠山の叔父さんの手には高級ブラスターが握られていた。
「虎二郎お前も欲しいもの早く取ってこい!」
そう言って親父は遠山さんの方に歩いて行った。
「ウム。」
確かに講しちゃ居られない。一刻も早く助けに行く為にも急いで掻っ払う ゲフンゲフン もとい装備を整えなくては!
30分後
"さぁ皆支度は終ったみたいだな、それじゃ行くか!"
親父の掛け声と共に皆が一斉にジープと兵員輸送車に乗り込んだ。
ジープが動き出してからは気付いたのか親父が話掛けて来た。
「おっ!虎二郎お前メイン武器替えてこなかったのか?」
「あぁどうしても使いなれてる武器を手放せ無かったよ。」
「クックックッわかってるじゃねぇか。そうだ!それでいい!アッハッハッハッ。」
何が楽しいのか親父は嬉しそうに笑ってやがった。
「虎二郎君装備替えなかったの?」
うん?
一緒に乗り合わせてた天龍君が聞いて来た。
「メインはね。」
「それ以外は?」
「勿論換えたよ。」
ええ替えました!ウチじゃあ買えない装備に上から下までバッチリと!
重火器何て間違ってもウチじゃ買えません!使わなくったって持って行きます。
服装も上から下まで特殊部隊仕様です。Tレックスに噛まれても刺さらない特殊繊維デスヨ!まぁ噛まれて振り回されて叩き付けられれば普通の人は内臓破裂してるからあんまり意味無いけど。
それでも今までの安全靴と整備士のツナギよりは100倍いい!
後は無事に帰れれば言う事無しだね。
ジープに乗って街のゲートを越えればそこはウンザリする様な大草原、小型の恐竜を弾きながら、申し訳程度舗装された道路を走る事20分、やっと見えて来たトラックは横倒し辛うじて生き延びた人々はトレーラーの下に潜り込んで居る状況だった。
うゎ〜めっちゃギリギリじゃんと云うより一寸アウトかな、何ヵ所かに血溜まり出来てるし1頭のアロサウルスが何かモグモグしてるし。
まぁ過去の事は気にしない、取りあえず今生きてる人達を助けましょ!
"全員降りろ!狩りの時間だ!"
親父の一声で車を止めて全員が降りて来た。
"アロサウルスは3頭か、遠距離の武器持ちは適当にバラけて援護、殺れそうなら殺れ、それ以外の奴は突っ込むぞ!"
"ウォォォォ〜"
コッチの雄叫びに気付いたアロサウルスが2頭突っ込んで来たが、今までの我々とは火力が違うのだよ火力が!
まず遠距離武器を持った連中が12.7㎜対大型竜ライフルをぶっぱなした。
しかし健気にも2頭は逃げもせず突っ込んで来たが足元に兵員輸送車に備え付けられていた12.7㎜重機関銃を撃ち込まれ2頭のアロサウルスはコッチにたどり着く前にひっくり返った。
さぁ此処からは接近戦だ!な〜んて事を想いつつ死にかけのアロサウルスちゃんの頭にバトルアックスを叩き込む!ズドンと来る感触に我ながら毎回これぐらい予算気にせず仕事出来たら楽しいだろうなな〜んて思ってました・・・
"虎二郎〜逃げろ!"
"ヘェ?"
"パク"
油断大敵やっちまいました、まさか元気な一匹が突っ込んで来てるとは露知らず呑気にアロの頭蓋骨の感触を楽しんでいた俺はパクリと頭から食べられて仕舞いました終わり。・・・
嫌々嘘です私花も恥じらう15才こんな所で死ねません!ええ死ねませんとも!口の中で噛まれぬ様飲み込まれ無い様に必死で耐えておりました。恐らく時間にすれば数分の出来事だったと思いますが喰われてる方としましてはそれは永く感じました。
ズド〜ンと口の中で落下し倒れる感覚に何とか助かったと辛うじて思った俺は口の中から這い出しました。
やっとの思いで這い出た所、親父から凄まじい拳骨を頂きました。流石に文句も云えずにいたら、遠山さんがやって来て慰めてくれました。
「虎二郎君が喰われた時の風間さんの動きは人間の域を超えていたよ、なんせアロサウルスの体によじ登り目玉にナイフ突き刺しちゃうんだから!あんまり心配掛けちゃダメだよ。」
「はい。」
その後トレーラーの下に隠れていた人達を救出して、アロサウルス討伐の依頼は終了した。
それから1週間後
「なぁ倅よ、」 「なんだ親父、」「怪我も治った事だしそろそろ狩に行かんか?」 「行かない、」「何でよ?」 「狩がチョ〜危ない事がよく分かったから、親に心配掛けちゃダメ。」 「うん、危ない事が分かったのは良かった、それじゃあその気持ちを持ちつつ狩に行こうか!」 「危ない事はしちゃいけないと教わった様な気がする。」「ふざけんな〜働け〜!」「働きたくないでゴザル。」