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八章

「なんか……ちょっと後味悪かったな……」

 校舎の外へ出ると、暗い雰囲気に包まれる中で、秋中が呟いた。

「あ、あの……」

 すると意を決したように、珍しく雪村が何かを言おうとした。だが……。

「あっ、そうだ!」

 思い出したように大きな声を上げた吉見が、それをかき消してしまった。

「びっくりしたっ! 急にどうしたのよ、愛」

 困惑する遠藤に、吉見は興奮を隠せない様子で言った。

「タイムカプセルよ!」

「……タイムカプセル?」

「ほら、校門の傍にある桜の木の下に、みんなで埋めたじゃない」

「……ああっ! そう言えば、あったね!」

「ね? 良い機会だからさ、今日開けちゃわない? あの時は、みんなが二十歳過ぎたらって言ってたけど、次、全員が揃うとも限らないし」

 どうする? と、遠藤が西野たちに視線を向ければ、

「いいんじゃないか」

 と、秋中が頷いた。

 西野としても異論は無かった。このまま帰ったのでは、やはり秋中の言うとおり後味が悪すぎる。

「それじゃ、道具が要るな」

「スコップぐらいなら、すぐそこの納屋に残ってるかもな。幸太郎、探すの手伝ってくれ」

「ああ、分かった」

「フェリーの時間もあるし、ちょっと急ぐか」

「だな」

 よろしくー、と、手を振る遠藤と吉見の声を背に受けながら、二人は、その場を離れた。


 当時、畑として使っていた場所には、自然に伸びた朝顔が蔓を無造作に遊ばせていた。納屋はその傍にあり、扉を開けると、僅かにカビくさい臭いが西野の鼻をついた。


「――なあ、幸太郎。……さっきの名前、どう思う?」

 手分けしてスコップを探し始めると、二人きりになったのを見計らったように、秋中が話しかけてきた。

「教室にあったやつ? 単純に考えれば、桃花の言うように、ただのイタズラだろ」

「…………そうだな」

「……煮え切らない返事だな。大ちゃんの考えは違うの? まさか霊の仕業だなんて言わないよな?」

「いや、流石にそこまでは考えてないよ。俺もイタズラの類だと思った。でも……なんか引っ掛かるんだよな」

「なんかって?」

「いや、ハナって名前、どっかで聞いたことがあるような……」

「聞いたこと、か…………そう言われてみると…………」

 西野の頭の片隅にも、何か忘れていることがあった気がした。

「でも、やっぱ勘違いかな。あの時のメンバーが五人だったのは間違いないわけだし。――お、スコップあったぞ」


 結局、その違和感の正体は分からないまま、西野と秋中は数本のスコップを持って、桜の木の下に戻った。

 スコップの先端は、どれも欠けていて丸みを帯びていたが、土がそこまで硬くなかったので、簡単に掘り進めることが出来た。

 セミの声を真上に聞きながら、程なくして金属で出来たお菓子の箱が出てくると、歓声と拍手が、寂れた校庭に木霊した。

 土を払い、目張りしてあったガムテープを剥いで蓋を開けると、中には、当時それぞれが、未来の自分に向けて書いた手紙が入っていた。


 西野は自分の物を手に取ると、その雑な文章に目を通していった。



『未来の自分へ。未来の俺は、プロ野球選手を目指して頑張っていますか? 予定では、すでにどこかの球団のエースとして、旋風を巻き起こしているはずですが、実際は、そう簡単なものではないことも分かっています。もし上手くいかず、何か挫折をしていたとしても、野球は嫌いにならないで下さい。それは、すごくもったいないことだから――――。では、お元気で』



 ――嫌いになるな、か……。

 見透かされたような気がして、思わず苦笑いを浮かべていると、

「幸太郎ー。なんて書いてあった?」

 遠藤が後ろから覗き込んできた。

「ちょっ、見るなよっ」

「え~、いいじゃん!」

 手紙を奪おうと伸ばしてくる遠藤の細い手を避けていると、

「それならさ、みんなで内容を発表し合おうよ」

 吉見がそんなことを口にした。

 すぐさま否定的な声が出るが、結局はいつものように、西野たちは押し切られてしまうのだった。

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