六章
秋中大樹がトイレから客間に戻ると、部屋には、吉見と眠っている遠藤の二人しかいなかった。
「――あれ? 悠美は?」
「ん、ちょっと散歩してくるって」
外を眺めていた吉見が、振り返ってそう答えた。
「ふうん……」
ふと遠藤を見やると、汗も引いていて、表情もだいぶ落ち着いているようだった。
呼吸と共に、彼女の膨らんだ胸が静かに上下する。
その動きに気づいてしまった秋中は、思わず視線を逸らした。心では体調を心配しているはずなのに、どうしても、視線が女性らしい部位へ動いてしまう。
「……どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない」
秋中は自分を戒めるように首を振った。
とはいえ、やはり女子二人の中に男子が一人というのも、少なからず気まずい部分がある。
腕時計を見ると、集合時間までまだ一時間はあった。
「俺も、少し歩いてこようかな……。桃花のこと、頼んでいいか?」
「うん。もちろん」
秋中は、吉見の伯母が昼食として作ってくれたテーブルのおにぎりを一つ頂き、それを持って外へ出た。
セミの声が、目覚まし時計のベルのように、けたたましく耳朶を打つ。
おにぎりを一口食べると、白米の甘みと、仄かな塩分が口に広がった。
飲み物も欲しくなった秋中は、フェリー乗り場に自販機があったことを思い出して坂を下りた。
――ついでに、桃花にもスポーツドリンクを買ってきてやろう。
そんなことを思いながら無人直売所の前を通ると、野菜が置いてあった籠が一つ、空になっていた。
誰かが買ったということなのだろうが、秋中はそれ以上気にすることもなく、その場を通り過ぎていった。




