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四章

 本土で生活することになってから、吉見愛は自分というものを見失っていた。

 きっかけは中学のときだったと思う。地元の歴史文化をグループで調べて提出する課題が出たのだ。適当にやろうと笑い合う周りの女子たちとは対照的に、張り切った吉見は、図書館で資料を漁り、高齢者の自宅をも訪問して、詳しい話を聴きに行った。

 その結果、教師からは高い評価を貰うことが出来たが、グループの女子たちからは距離を置かれるようになってしまった。

 また、体育祭や文化祭などでは、新しい試みを提案し、積極的に盛り上げようとしたこともあったが、今思えば、ひどく空回りしていたのだろう。



「あの子、島育ちだから常識知らずなのよ――」



 女子トイレで偶然、そんな愚痴を聞いてしまったこともあった。

 自分がこうしたいという主張も、他のクラスメイトにしたら、重いものに感じているのかもしれない。

 そうして吉見は、高校に上がった頃から、個性を出すことを控えるようになった。

 周りの女子たちと輪を作り、愛想笑いを並べ、大学進学も、流されるようになんとなく決めた。

 気持ちを押し殺しての生活は、リズムが取れず、生きている心地がしなかったが、レッテルを貼られるのも嫌だった。

 そのうち、吉見は本当の自分がどんなだったのかを、思い出せなくなっていた。

 同窓会に参加しようと決めたのは、島に行くことで、本来の自分を取り戻せるような気がしたからかもしれない。

 当初の日程は日帰り。学校に集まって昔を懐かしむ予定だったが、浮き足立ってしまい、一足早く現地入りした。

 人口が少ないとはいえど、七年も経てば町並みは変わる。歩いてみると、いくつかの店はシャッターを下ろしていて、吉見に哀愁を感じさせた。それでも、四方を海と森に囲まれた地形は健在で、天然のミストシャワーとグリーンカーテンが、疲れた気持ちを包んでくれるようだった。

 そして、その日は伯父の民宿に泊まらせてもらい、翌日、フェリー乗り場まで皆を迎えに行ったのだ。

 小さな定期便から降りてきた四人を見つけたときの、湧き上がってくるような高揚感は、久しいものだった。根拠は無かったが、この五人で学校へ行けば、何かが見つかるような、そんな予感がした。

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