ご奉仕タイム!
「んぅ……」
意識が覚醒すると、そこは一般寮にある自室だった。
カーテン越しに、茜色の夕陽がわずかに簡素な部屋を照らしている。
耀はふかふかのツインベッドの誘惑に何とか勝利し、身体を起こして軽く伸びをした。
次いで胸の辺りをゆっくりと擦る。
僅かだが、突き刺されたような痛みが未だに残っていた。
戦用複体で受けたダメージは、少なからず本体である生身の肉体にも返ってくるのだ。
そしてその痛みと戦用複体に変身したことによる精神的な疲労が、今朝の決闘は現実だと突き付けてくる。
(そっかあたし負けたん――)
「お前、寝るときは静かなんだな」
「だ、きゃぁあああああ!?」
突然横合いから声を掛けられ、びくっと跳ね上がる。
見れば、室内にある浴室から剛羽が出てきた。しかも。
(は、裸ぁあああああ!?)
部屋に闖入してきていた少年は、パンツ一丁で上半身裸だった。
同い年の異性の裸を前に、耀の顔が真っ赤になる。しかし。
(……す、すごい)
両手で顔を覆いつつ、指の隙間から少年の逞しい肉体をチラ見する。細身だが、隆起した筋肉の陰影が確かに刻まれている。
(ま、まぁあ? 人に見せびらかすだけのことはあるわね)
恥かしいが、興味がないわけではない。
「ちょ、ちょっと、あ、あなた、なにをするつもり!? そこで止まりなさい!」
しかし、観賞タイムはほんの数秒で終わった。剛羽がずけずけと近付いてきたのだ。
こういうことをよく知らないが、これから何が起こるかくらいは容易に想像が付く。
(嘘、こいつ、こんなやつだったの!?)
クールそうな見た目とはいえ、相手は年頃の男だ。外見だけで判断してはいけなかった。
思い返してみればサーヤとかいう美少女訓練用人形を持っているようなやつだ。
男には気を付けろと、とある友人が言っていたが正にそれ。注意して然るべきだった。
「大丈夫、すぐ終わる」
「だ、ダメ! それ以上近付いたら許さないわよ!」
「落ち着けって。痛くしないから」
耀は枕やら置時計やら手当たり次第に物を投げまくるが、相手の進撃を止めるには至らない。
そして遂に、ギィと半裸の剛羽がベッドにのし上がる。
「止まりなさい! と、と、と、止まれと言ってるのが聞こえないの!? あたしの言うことが――もう止まってってばぁ!」
「勝ったのは……まあ、俺だ」
剛羽は顔を逸らしてぼそぼそと答えた。
耀は勘違いしているようだが、実際のところ、二人の決闘はフィールド損壊のため無効となっていたのだ。
剛羽が小刀を耀の胸に突き刺しもう一押しというところで、先に耀の大剣が《闘技場》を壊してしまったのである。
それでもあの勝負は俺が勝っていたと、剛羽は主張しているようだ。大人げない。
「俺が勝ったんだから、何でも好きなようにさせてもらうぜ」「ひっ」
剛羽は耀の肩に手を置き、びくっと強張った彼女をベッドに押し倒した。
「パジャマ、バッグから出させてもらったからな。制服のまま寝たら皺になるし」
「っ~~~~~~もう最ッ低! 馬鹿! 阿呆! 変態!」
これでもかと罵ってみるが詮無いことだ。
これから、もっとすごいことが起こるのだから。
相手はつい先程までシャワーを浴び、パンツしか穿いてない。自分に何をするつもりかは嫌でも分かった。
「や、やるなら、は、早くしなさい。な、なによ、もしかしてビビってるのかしら? 情けないわね」
せめて最後まで気丈に振る舞おうとするが、先程から声がどうしようもなく震える。
(れ、冷静になりなさい、耀。これはチャンスよ)
自分の身体の発育は順調だ。胸は豊かに実っているし、きゅっとくびれた腰や二―ソックスから覗く太腿なども見られても恥かしくないスタイルを備えている。
(逆に攻めて骨抜きにしてあげる!)
「ぅ……ぁ……いぁん」
無理だった。
軽く触れられただけで、未知の感覚に身体がビクンっと弛緩する。
「ぁ、すごい……」
悔しいが快感を覚えた。
手で口を抑えようとするが、ダメだとすぐにどけられる。
相手は徹底的にいじめてくるつもりらしい。頭がぼーっとしてきた耀は、とろんとした瞳で明後日の方向を見上げる。
(ダメ、こんなのダメなのに……あたし、どうしちゃったんだろう?)
頭がぼーっとしてきて、不思議と抵抗する気になれなかった。寧ろ、剛羽のアクションを心のどこかで楽しみに待っている自分がいた。
室内には、ギィギィというベッドの軋む音の他に、お互いの呼吸音が響き続ける。
自分のだらしない呼吸音に混じって、少年の吐息が聞こえてくる。
その艶のある声にドキドキしてしまう自分が恥かしい。
「お前、可愛い声出すんだな」
少年は時折そんな言葉を耳元で囁きながら、慣れた手付きで全身を攻めてきた。これが初めての自分とは違い、多分彼には数えきれないほどの経験があるのだろう。
クールそうな見た目だし、女子には苦労してなさそうだ。そして自分も、今まさにそのうちの一人に加えられるのだ。
自分でも知らなかった敏感なところに触れられ「あんっ」と思わず嬌声をもらした。
身体が火照る、意識にモヤが掛かり始める。じわーっと、得に言えぬ感覚に満たされる。
(そっか、お母様もお父様もこういうことしてたんだ……)
それを最後に、耀は考えることをやめた。相手に好きなようにさせる。
しかし、不思議なことに中々肝心なところに手を出してこない。
最低限の気を使って優しくしてくれていると思いたいが、そういうことではないのだろう。焦らして焦らして焦らして、乱れる自分を見るのを楽しんでいるのだ。
と はいえ、もう我慢の限界である。耀は薄く目を開き、懇願するように囁いた。
「お願――あん……お願、い……ぁん……早く…………いじわるしないで」
「もうちょっとだ。すぐ楽になる」
「……うん」
太腿を、次いでうつ伏せにされてから下腿三頭筋、ハムストリング、臀部、腰を丁寧に丁寧に揉み解される。
「ね、ねえ……い、いつまで待たせるつもり?」
「お……おい、そんな顔するな……なんかアレなことしてるみたいだ」
耀のだらしない顔を前に、剛羽は気まずそうにそっぽを向いた。
「つーか、もう終わりだぞ?」
「え?」
「すまん、あんまり効果なかったか、俺のマッサージ?」
「…………うそでしょ」
「ほんとだ……ん?」
「ぅ~~~~~~」
「なんで泣きそうになってるんだよ」
「し、知らにゃいわよ、そんなこと!」
ベッドから跳び起きたお姫様は、ドタドタとシャワールームへ向かって走り出した。
「あ、なるほど……俺のマッサージテクも捨てたもんじゃないな」
素直になれずに逃げ出したんだと推察した少年は、ふふんと得意気にそう呟いた。
汗を掻いたからまた後でお風呂に入ろうと、剛羽はひらひらと手で煽って涼む。
一方、お手洗いに駆け込んだ耀は、真っ赤な顔を両手で覆って首を振っていた。
(あれ、全部あたしの脳内妄想だったのね……なんて、なんて勘違いしてたのよ、あたしは~~~~~~)
結局のところ。
目を瞑っていたこと。そういう経験がなかったこと。普通の人より敏感だったこと。
そして何より、彼女のあっち系の想像力が豊かだったことが、今回の勘違いに繋がったのであった。
~砕球ポジション解説~
④球操手
戦闘民族から狙われ続ける悲運のポジション……の割に女の子が担当することが多い。これは作者の趣味では断じてなく、球を操作するのは女性の方が得意という統計が出ているから(作中設定)。
球操手ができるというのは、野球で例えるなら速い球を投げられること・軽々とホームランを打てることと同義。つまり、一種の才能である。
通称「フラッグ」「主」「獲物」「保護対象」