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丸め込まれる業務

友達に見せたら『何か人気でなそうだな』と言われたものなんですがね……

 出向して数日経ったある日。というより、時期的にはゴールデンウィークに被っている。


 俺はというと、麗夏さんの命令に近い許す条件を呑んだ結果……


「ほら勤君こっちよ、こっち!」

「ちょ、ちょっと姉さん! はしゃぎ過ぎ!!」

「いいじゃない彩夏。ほら早く早く!」

「荷物すべて持たせてよくはしゃげるな全く……」


 こうして首都東京を出て近県へ旅行しに来ている。運転は麗夏さんがしてくれた。俺は免許を持ってないため運転できない。免許を取る時間がないというのが原因の一つであるが。

 で。そうなったら彩夏も来るということで三人でこうして本日泊る宿に着いた。


 移動でだいぶ使ったため眠いはずなのにテンションが高い麗夏さんを見てすごいなぁと感心しながら三人分の荷物を持って後を追う形で歩きつつ宿を見上げる。


 確かここ結構人気の宿で予約待ちがあるのが当たり前だったような気がするんだが。貴臣さんの話だと。


 良く取れたものだな……と本気で感心していると、「早く早く!!」と催促されたので見上げるのをやめて入口へ向かった。


 旅館に入ってまず思ったのは、人気があると納得できるホールの雰囲気。どこもおそらくそうなのだろうが、入ってすぐの雰囲気が煌びやかである。これは高揚感をもたらすだろう。

 そういや貴臣さん頑張って仕事してるかなと会社の事を考えながら後をついていき、受付で話しているのを聞きながら待っていると、不意に『混浴』というワードが聞こえた。


 その発生源はどこからだろうとあたりを見回してみたが、特にそういう話をしている男女がいる訳ではない。

 じゃぁ受付の方からかと結論付けた俺は面倒なのでこの場で追及せず、見回した際に感じたこちらを見る視線が気になりもう一度見渡したが、その視線はもうなくなっていたので考えることをやめて部屋を案内する仲居さんの後を追う二人を追うことにした。




 なぜか俺達三人が一緒の部屋というおかしな現状に口を挿むことも出来ずに流れのまま一緒の部屋に荷物を下ろし、二人がのんびりしているところで質問した。


「なんで俺も一緒の部屋なんだ?」

「だって一部屋しか取れなかったのよ」

「……ああそう」


 思ったほか切実な理由だったので納得。そして部屋が広く、洋風のベッドと畳の部屋に分かれているというのも頷けた。

 まぁソファでも寝れるから別に困らないな。そう思った俺は肩を回してから「これからどうするんですか」と麗夏さんに聞いたところ……彼女は畳の部屋で寝転がっていた。


「あの……麗夏さん?」

「なぁ~~にぃ勤く~ん?」

「……いえ。どうぞごゆっくり」


 もう完全にオフ状態になっていた。

 こりゃもうよほどの事がない限り動く気ないぞ……そんなことを考えた俺は次に彩夏の方を見る。


 彼女は彼女で案内の冊子を読んでいた。


 ここから先は別行動でいいのかと結論付けた俺は夕飯の時間までに戻らないとダメだろうなと思った俺は、彩夏に「夕飯何時だ?」と質問した。

 六時と答が返ってきたので、二時間は暇かと思った俺は黙って部屋を出て館内を散策することにした。


「……403号室、だな」


 自分が戻るべき部屋を確認し、とりあえずエレベーターのところへ行く。そこに案内板があるので、上へ行くか下へ行くかはそれを見て考えることにする。

 現在の格好は私服であるが、流行には乗れていないものである。この時期になると薄着で過ごせるので七分袖のTシャツにジャージのズボン。結構動きやすい。

 なので、麗夏さんたち姉妹と一緒に行動する際の周囲の視線を集めたのは重々承知である。何せオシャレに着飾る二人と一緒に適当な服装の俺がいるのだから。悪い意味で目立つ。


 もうちょいまともな服でも探そうかなと今後訪れることなんてない機会のための服を検討しながらエレベータの近くまで来てから案内板を見て構造を把握する。

 仕事に関するものは一切持ってきておらず、管轄外なので詳しいことは知らない。

 久し振りの他県だから少し新鮮だなと考えながら一階がエントランスなのかと理解して、下に向かうボタンを押して待つことにした。




 エレベーターに乗り込んで一階まで降りた俺は、そのままの足で外に出る。

 外に出た理由は、館内に留まっているのも退屈だったからだ。ぐるりと見渡してどこに何があるのか大体把握できた今、時間つぶしになるものは外にしかない。

 幸い観光マップは館内に置かれていたのでそれを頼りに歩いて行けば大丈夫だろうと考えた俺は、一先ず近い場所へ向かおうと体をその方向へ向けたところ、「あの!」と後ろから声をかけられた気がしたので動きを止める。


 が、それも一瞬。人がそれなりにいたので俺じゃないだろうと高をくくり、そのまま歩き始める。

 そしたら後ろから誰かがついてくる音が聞こえ、ついに俺の手を握って「待って」と呼び止めてしまった。

 記憶にないのでゆっくり後ろを振り返ると、着物を着て下駄を履いている女が俺の事を見上げていた。


 俺の身長は百八十ないがそれなりに高い。相手の方は百六十あるぐらい。

 だったら必然的に見上げる形になるよなとどうでもいいことを考えながらその女を見て、不意にあの頃の記憶がよみがえってきた。

 反射的に振りほどきたくなったが、彼女がそれを許してくれない。


 そのままの状態で、彼女は続けた。


「勤君、だよね?」


 やめろ……


「久し振りだね、なんて私が気安く言えたわけじゃないのは分かってる」


 ……頼む。


「だけど、言っておきたい言葉があったの」


 ……もう、これ以上…………


「言うな……」

「ご……え?」


 思わず声に出していたのか彼女が反応し中断する。

 それに俺は気付かず、そのまま続けた。


「そんな気休めにもならない反吐が出る言葉……続けるな……俺はもう、思い出したくない」


 そういうと彼女は自然と離れ、視線を俯かせて「……うん。そうだよね。やっぱり……許してくれないよね……」と呟いた。

 許す許さないなんてことはもう頭の中から消えているんだがと普段の俺なら言える。でも、この時ばかりは自分の嫌な記憶を抑え込むことに必死で聞いておらず、このままだとヤバいと思ったので俺は向かおうとしていた方向と逆方向に足を向け、全速力でそちらに駆け出すことにした。



「……ごめんなさいなんて、どの口が言いやがる!」


 脇目もふらず、激情に任せながら。

これからもどうぞお楽しみに

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