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出向業務

前回を引きずる形に続きます。

 一人を振り、恩人に冷たい言葉を浴びせた二日後の土曜日。五月になる前の最後の休みでも俺は仕事でずっと働いてる……はずだった。


 その前日に本部から手紙が送られるまでは。


 内容はその前日に遭った出来事についてだろうと想像しながら、現在本部の前にいる。


 本部というのは首都東京にある日本総本部の事である。世界各国にある中の一つなのだが、日本という国に住むヒーローたちを管轄するにはいかせん数が足りない。なので各地方で支部を作り、その分家を各県に配置するやり方で賄っている。


 わざわざ郊外からここまで来るのに交通費出さないのはさすがに酷いだろと来る度に思うのだが(経費でも落ちない)、まぁ有給消化の一環に(強制的に)なるので文句を言うなという事なのだろう。


 他の奴らはどうか知らんが。


 ああ、基本的に職員も能力を持っている。うちの社員も八割ほど能力持ちがいる。これだけ見ると多いと思うが、全人口の四割の中の日本に住む能力者のうちの更に首都東京に住んでいる能力者なので、本当に少ないのだ。


 とまぁ相も変わらない国会議事堂みたいな建物の前で立ち止まって、本当すげぇよなと感心してから俺は建物の中に入ることにした。



 建物に入ると、いつも通り白衣来た人たちがあちらこちらに慌てて移動していたり、普通にスーツ姿の人が歩いていたり。

 いっつもみんな忙しそうだよなと思いながら、覚えてしまった手順通り受付へ向かった。


「おはようございます。本日は……ああ、あなたですか」


 こんなあいさつをされるぐらいには本当に顔なじみになってしまったんだなと内心で落胆しながら「はい。本日はこの手紙をいただいたので」と言ってスーツの内ポケットから届いた手紙を受け付けの人に渡す。

 その人は中身を確認せずにすぐに俺に返し、内線をつないでから少し会話をして、電話を切ってから「もう大丈夫です。案内はいりませんよね?」と訊いてきたので「はい」と言って俺が決まって呼び出される場所――地下四階までの隠し通路がある場所まで向かった。


 この建物に地下が存在する理由。それは、各国の総本部の連中が秘密裏に会合する時などに使われる。正規の会議じゃ決定できない諸々をそこで決めたり、俺みたいな狂ったやつの処分をどうするか決めたり等々……。

 世間一般でいう暗い背景を持つ会議のために作られた。そいつら専用という訳ではないが、地下一階から三階までは収監所みたいになってる。一時期俺も入っていた。


 こうして出られてるのも結構な幸運なんだろうなと自らの立ち位置を確認しながらしみじみとかみしめつつ長い階段を下り切ると、目の前に扉とそれを守るように門番が二人。

 もはや顔なじみに近いので、俺は片手を挙げて「よぉ」と挨拶しながら近寄った。


「おお。勤だな……また呼び出しなんて、折角(・・)出れたというのに滅茶苦茶だな」

「そう言わないであげてください《ダイス》。彼の事情はそれほど複雑で、繊細なのですから」


 隣にいたもう一人がそう諌めると、俺の呼びかけに反応したダイスと呼ばれた男は「そりゃ知ってるけどよ、過保護すぎじゃないかって話だよ」と言い返した。

 それに対し俺は説明した。


「お偉方からすれば俺という因子が起こしたことによる影響を抑えたいんだよ。変なこじらせ方して不味いことに発展しかねないと判断してる様だし」

「あー」

「神はあなたに何という試練を……」


 悲痛な面持ちのシスター(もう一人の門番)に俺は「と、いう訳だ。俺は入るぞ」と言って二人の間を通って扉を開けた。




 入った先はいつも通りモニターばかり。各国の偉い人達(総本部長クラス)が顔を見せずに映っている。

 いつも通りのその風景に足を踏み入れた俺は緊張することも気圧される事もなく中心ぐらいまで進むと、『さて、用件については想像できているな?』と訊かれたので、「まぁ……」と髪を掻き揚げながら答えた。


「俺が社長の娘さんに告白されたからですね?」

『まぁそれもある。フラれて社長がどうしたものかと頭を抱えているそうだ。今もな』

『経営自体に支障はないようだから問題はない……と一応報告しておく』

『だがそんなこと言ったところで告白されたという事実に変わりはあるまい。これは予想したものではない』

『しかしそれは仕方のない事ではないのか? 普通に暮らしていれば口は悪いが好青年であるし』

『ちゃんと仕事の方も手ぬかりなくしている。ここから出たものの中で唯一真っ当な人生を送れている。別に問題ないと思うが?』

『だがそれはこの者の精神状態が問題ないと判断されたからだろう。彼の人柄はここに入った当初から変わってないと聞く』


 こうして俺を蚊帳の外として始まる長い話し合い。別に俺が戻されるということはないと思うが、どうにも不安でならない。


 何せ特殊な自分に告白してきた女性がいるのだ。もちろん断ったが、こんな事例過去に一つもないだろう。でなければ俺がこうやって呼ばれることはない。


 まったく難儀なものだと思いながら立っているが、特に結論が出てる訳ではないらしい。まだ白熱している。

 この間何もすることがない俺はどうしたものかとぼんやりしつつ今日の具合(・・・・・)を確認する。


 ……。

 掌に四角い板を出すイメージで能力を発動させようとしたが靄がかかったようにイメージできず、発動することができなかった。


 俺が持っている能力は超能力の類で、『シールドを創る』という防御的なモノ……である。

 本当は自分のトラウマを呼び起こしてしまうので言いたくはないのだが、現在その能力は発動したりしなかったりしてしまう。

 そのせいで学校でいろいろあって退学し、荒れていた俺は拾われてこの本部に連れてこられ今に至った。

 生まれてこの方生きている以外に良い事なんてなかったため、もうどうでもいいというのは今も昔も変わらない。が、どうすることも出来ないというのもある。


 すべての決定に少ししか関われないのだから。自分の事だというのに。


 どうでもいいけどさっさと終わらねぇかなと話を聞いていると、『さて。そろそろ話をまとめよう』と切り出したのでようやくかと時計を見る。


 ……二時間ぐらいか。意外と時間経ってたな。


『とは言ったもののどうするつもりだ? まさかもう一度こちらに戻すというのか?』

『それはもう難しいだろ。反したことをやってる訳ではないのだから』

『しかし彼の事情を知らない者が惹かれる可能性も今後ある…』

『本人に聞いてみてはどうだ?』

『それもそうだな……では希望坂勤。君は今後どのように過ごしたい?』

「俺ですか……そうっすね、あの仕事をずっと続けたいと思います。あそこにいれば人と関わること殆どありませんからね」

『そうか……』


 そう言って黙り込む一同。ぶっちゃけずっと働きづめだと社員の人達に怒られて有給取ってまたこうなりそうな気がしなくもないということは黙っておく。

 ということで全員が黙っていると、不意に映像の奴が一人呟いた。


『……まぁ、世間で報道されるほど重大なことを起こしていないのなら大丈夫ではないか? また様子見ということで』

『まぁ確かに。特に問題を起こしたわけでもあるまい』

『これからもこのようなことが起こってまた呼び出すというのも面倒だしな』


 とまぁそういう結論に達したようなので。


『希望坂勤』

「うっす」

『君が問題を起こさない限り呼び出すことはない。そう結論付けた』

「……あざっす」


 まぁそうなるよな。そう思った俺はため息をついて礼を言う。それを聞いた一人の奴が『ため息をつくな全く』と苦笑した。


 んなこと言われてもな。としか返事が出来ないので俺はそこを無視して「もういいですか」と質問した。


『ああ。問題が起こったらすぐさま出向する様に』

『別にわしらは貴様の教師ではないがな』


 なんてことを言ってからモニターが切れていったので、全部切れたのを確認してから髪を掻きながら部屋を出ることにした。

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