夏休み業務11
さすがに長引いたのでそろそろ動かそうと思います。
しばらく適当に時間を外でつぶしていたところ、不意にスマホが鳴ったので出る。
「もしもし」
『あ、勤さん? 今どこにいるの?』
「あー……コンビニ」
『大丈夫なの?』
「今のところはまぁ……で?」
もしかして部屋にいないから心配でかけてきたんだろうかと思いながら確認すると、案の定その通りだった。
『それならよかった』
「切るぞ」
『って、ちょっと待ってよ!』
何か言いたいことでもあるのだろうか。他に。
そんなことを思いながら棚に置かれている菓子類を眺めていると、『勤さん! お願いがあるの!』と言ってきた。
「お願い? 俺ができる範囲ならいいが」
『あのね。今フロントにいるんだけど、部屋の番号を忘れて鍵返してもらえないのよ! 部屋ってどこだっけ?』
「うん? 部屋は503だろ」
『503ね? 分かったありがとう!』
そう元気よく返事があったと同時に電話が切れたのでそろそろコンビニ出ようと思い立ちながら適当に間食用のお菓子を見繕った。
「ありがとうございましたー」
店員の声を聞きながら店を出た俺は、どこで食べようかとレジ袋を持って歩きながら考えていると、「あ」と声が聞こえたので顔を上げる。
そこにいたのは綿貫。日傘をさしているかと思ったがそうでもなく、麦わら帽子をかぶっているだけだった。
日焼け止めでも塗ってるのかねと思いながら「よう」と空いてる手を上げると、「お散歩していたら偶然お会いできましたね」と柔らかい笑みを浮かべながら返してきた。
確かに偶然だろうが、何か引っかかるのは俺の精神が猜疑心の塊だからなのだろうか。
そんなことを思いながら「これからどっかいくのか?」と質問する。
「はい。これからお茶にしようかと思いまして。よろしければご一緒にどうですか?」
「あー……」
今手に持っているのは大量のお菓子と清涼飲料水が二本入ったレジ袋。なんでお菓子かというと……単純にごはんとかだと片手間で食べれないからだ。
サンドウィッチ? 飽きた。
というわけで夕食までの間腹も減ったし食べようと思っていたところ。これを持ったままどこかの店へ行くというのはためらわれたので、「いや、これからこれ食べるから」とレジ袋を見せる。
それを見た彼女は「ならどこかの公園へ行きません?」とどうしても一緒にいたいのか食い下がってくるので少し考えてから「別にいいぞ」と答える。
「本当ですか!?」
驚きを隠せない様子の彼女を見て「とはいっても俺は公園の場所知らないんだが」と言うと「ちょっと待っててもらえませんか!?」と言ってコンビニへ入ってしまったので、少しは話聞いてくれねぇかなと思いながら青空を見て待つことにした。
待つこと五分。
少しのお菓子と飲み物が入ったレジ袋を持って出た綿貫は「ではこちらです!」と言って先導してくれたので俺は普通についていくことにした。
「ここです」
「ふぅん……結構静かそうだな」
つられて歩いてみたところ、人の気配がしない公園についたのでそう感想を漏らす。
そこにポツンと設置されているテーブルとイスがあったのでそこに座ると、反対側に彼女が座る。
俺はさっそくポテトチップスの袋を開けて食べながら「……で? あんたは一体何者なんだよ?」と少し揺さぶってみる。
「へ? 何言ってるんですか? 私ですよ。綿貫真里菜ですよ」
「……ふぅん」
コンビニに売っていたクッキーを上品に食べながら「おかしな勤さんですね」とクスリと笑う。
しかし違和感しかない俺にとっては早々に正体と用件を切り出してもらいたいので、電話をかけてみる。
すると目の前にいる彼女が携帯電話を取り出して「どうしました?」と聞いてきたので素直に電話を切る。
「?」
なんでこんな気持ち悪い違和感があるんだろうか。そんなことを考えながら食べていると、「あの、勤さん」と声をかけてきたので「ん?」と返す。
「先程から普通に肩を動かしていらっしゃいますが、大丈夫なんですか?」
「まぁ」
「……そういえばシスターの格好をした人とお知り合いだったんですか?」
「まぁ」
「……」
何やら不機嫌になった。どうしたというんだろうか。
「どうした?」
「勤さん、生返事でかわそうとしてますね?」
「いや。機密扱いでおいそれと言えないから」
「あ、そうなんですか……え?」
ついうっかり漏らした言葉に目ざとく反応した綿貫。
が、そのことについて深く掘り下げる気はないので「まぁそういった存在なんだ、俺は」と言葉を濁して終わらせる。
「すいません」
ようやく思い至ったのかそう謝って口を閉ざす。
その沈黙のまま食べ続ける俺たち。
ポテトチップスを食べ終えた俺はクッキーの箱を取り出し、食べながら今日の夕食なんだろうかと考える。目の前に綿貫がいることを気にせずに。
と、その空気に耐えきれなかったのか再び綿貫が口を開いた。
「……えっと、今日は災難でしたね」
「ん? まぁ」
「いつもそんなに大量のお菓子を食べるんですか?」
「いや。疲れたから食べる時ぐらいだな」
「そういえば今日はどうしてこちらに?」
「付き添い……って、あの時の状況で分かっただろ」
「そうでしたね……」
会話終了。俺のコミュニケーション能力の低さが露呈した結果である。
のどが渇いたのでペットボトルを取り出して飲んでいると、クッキーのかすが彼女の口元についているのを発見した。
「……」
「え、どうしたんですか?」
じっと見ていたら恥ずかしさからなのか視線をそらし頬を赤く染める。
感慨も何もわかない俺は、そのまま彼女の口元に指をもっていき、カスを払う。
「ひゃっ!」
触れられたのが予想外だったのか彼女は声を上げたが、俺は気にせずに開けていたお菓子を食べ進めた。
食べながら、意外と初めてなんだなと思っていると彼女は頬を赤く染め、もじもじとしながら細々とクッキーを食べつつ視線を下に向けていた。
そういや彩夏や麗夏さんも似たような行動をとったら似たような反応が返ってきて首を傾げたが……そこは理解しないといけないことだろうか。どうでもいい、のではだめなのだろうか。
どうにも分からんなぁと首を内心で傾げつつ表情を変えずに食べ進めていると、違和感の正体に気が付いた。
雰囲気が、違う。
一気に警戒心がレッドゾーンへ。それを表情に出さずに俺は腕時計を見て時間を確認し、「それじゃ、おれはこれで」と席を立ったところ、「どうかなさいました、勤さん?」と聞いてきたので「そろそろ戻ろうと思ってな」と答える。
「そうですか。お付き合いくださりありがとうございます」
「ただ食べてるだけし、むしろお前が付き合ったんだろうが」
そう言いながらレジ袋を手に歩き出した俺はある程度離れてからもう一度質問した。
「お前は誰だ?」
背後の雰囲気が変わる。そしてその雰囲気は、俺が綿貫以上に知っている人間の雰囲気に変わった。
「……ふぅ。最初からばれていたとはね。鈍い貴方だから気づかないと思っていたわ」
「はん。違和感を気づくぐらい覚えてるだろ」
「鈍っていなくて安心したわ」
俺はしょうがなく振り返る。そこにいたのは綿貫ではなく、赤髪のロングヘアを靡かせる一人の女性。
スレンダーなスタイルの彼女は麦わら帽子をとってから「久しぶりね」と笑顔を浮かべて挨拶してきたので「ああそうだな」と区切り、彼女の名前を呼んだ。
「――”変装の魔術師”二町初夏、さん」
今回で動くことではありませんが。




