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夏休み業務10

 ホテルの人から渡された鍵のルームナンバーは『503』。

 大人一人で高校生四人とはまた警察に連れて行かれそうな絵面だが、そこまで神経質な客がいないのが幸いしてるなんて思いながらエレベーターに固まっていると、自己紹介を受けた一人――彩夏達のグループのリーダーである冷静な口調の神宮(かなみや)由梨が「そういえば勤さん」と話しかけてきたので「ん?」と反応する。


「どうして避難しなかったのですか?」

「それか……そんな放送とかあったか? 俺そう言う指示聞いてないんだが」

「速報のメールが届いたはずですが……確認の方は?」

「それが着信音はしなかったし、確認をしたら届いた様子もなかった。呼びに来たみたいだがその時にはすでに目に見える範囲に来てたからな」

「そうですか。意図的な情報の閉鎖ですかね」


 そんな話をして、不意にあいつの存在を思い出した俺はまさか辻褄合わせに送ったんじゃないだろうな……と勘繰りながら普通に「まぁ色々あるだろうからな」と誤魔化しておく。


「そうですね。漏れがあっても仕方がなかった状況かと」

「……って勤さん? どうして由梨とばかり話してるの?」

「話題に乗っからないのが悪いんじゃね?」

「……」


 無言で足を踏まれた。それと同時にエレベーターのドアが開いたので、俺はさっさと出て部屋へ向かう事にした。



「うわすっごい! ここから海が見渡せるよ!!」

「……本当、だね」

「はしゃぎ過ぎ明美。少しは落ち着きなさい」

「でも海だよ! テンション上がらないはずないじゃん!!」


 部屋の鍵を開けたら一番乗りした明美の発言に入りながら反応する由梨と人形を抱えている少女――中条有香。

 その後に彩夏が入り最後に俺という、また普通の展開になりながらも入る。


 部屋の中はそれなりに広かった。さすがに四人一部屋でとった場所。和室が二部屋あるので寝る場所には困らない。

 さてどこに荷物を置こうかと思案しながら入口の方で立っていると、彩夏が「突っ立てないで勤さんも来たら?」と呼びかけてきたので素直に応じる。


 和室なので靴を脱ぎ、靴下のまま荷物を抱えて畳の居間へ向かう。


 居間へ入ると彼女達が窓の外をのぞきながらはしゃいでいるようだったので、俺はひっそりと荷物を置いてから静かに腰を下ろし、スマホを弄る。


 理由は調べもの……という名の暇潰し。ゲーム等入れていないので正直検索するぐらいしか暇をつぶす方法がない。

 今回の件をさらっと調べてみたが、どうやら沈静化が早かったせいか特に盛り上がりはないらしい。おかげで暇潰しにもならなかった。

 こりゃ勉強した方が素直に良さそうだなと天井を見て思った俺は、素直に自分の荷物の中から勉強道具(ここまでに結構やっている)を引っ張り出そうとした時、「勤さん、私たちちょっと外に出てくるけどどうする?」と彩夏が聞いてきたので少し考えてから「俺はいいや」と答える。


「そうなの?」

「ああ。正直眠い」


 嘘は言っていない。正直、勉強中に能力を発動していたので滅茶苦茶眠気が襲ってきている。襲ってきているだけでそれほど眠いわけではない。

 ぶっちゃけ俺は保護者としてきているが、メインは四人の旅のはずである。そこに混ざる必要性が皆無なので一緒に行くことはできない。


 ……さっきのようにまた襲われたくないというのもある。


 そこら辺は誤魔化しておこうと欠伸をすると、俺の言葉を信じた彩夏は「そう。ならちゃんと部屋に居てね」と言ったので「いってらっしゃい」と手を振って見送ることにした。


「あれ、勤さん来ないんだ?」

「疲れたから少し寝るって」

「私達のために色々と手配してくれたんだからそっとしておきましょう」

「そう、だね……」


 ――さて。勉強するか。



 さらさらとシャーペンを動かす音だけが空間を支配する。

 四人が部屋を出てからまだ三十分と経っていない。そして俺の眠気はとうの昔に霧散している。

 現在勘も戻ってきたようで、仕事するうえで支障のないところまで戻ってきた。


「…………」


 俺以外に存在しない空間。ゆえに邪魔されずにただやりたいことを延々とこなしている。

 やりたいというか、やらないと戻ってからが大変なのだ。主に俺の労働が。

 大して変わらないだろうと思われるだろうが、一か月も仕事から離れれば誰だって対応力がなくなる。ほぼそんな事態になっているので、現在は頑張っているわけである。

 まぁ外に出たらまたあの変態たちに襲われると思うと出る気が失せるのでいいか。


 静寂。閑静。そんな空間を作り出し、ただただ取り戻さんと必死にやり続ける。続けながら、必死になれなかったあの頃を思いだし――筆が止まる。


 一気に切れる集中力。頭をガシガシと掻きながらシャーペンを置いた俺は、盛大に息を吐いて天井を見上げる。


「あーくっそ。駄目だ」


 その意味を知るは俺独り。事情を知っている人はいるが、誰にも知りえない実情。

 これからもう一度集中しようにも無理なのは経験上悟っているので俺は黙って立ち上がり、財布とカギとスマホを持って部屋を出ることにした。

……まったく進まんですいません

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