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夏休み業務その4

恋愛ごとにはめっぽう疎い上にネガティブが強い主人公です。

「――ってな感じでしばらく戻れないんだが、俺はあれか? これを機に一人暮らしの物件探した方が良いのか?」

「そんなこと相談されても困るんですが社長」


 現在うちの会社の相談室でその件について訊いてみたところ、当たり前のように困惑した。


 現在時刻は午後四時半。あまりにも暇で、彩夏から早口での拒絶反応に対するこれからの行動について助言が欲しくて会社に来てしまった。


 住むところがないというのはさすがに社会人としてどうかと思うのでこうして相談してみたが、やっぱり専門外か。


「大体ですね、どうして麗夏さんの妹さんに嫌われてると直結できるんですか?」

「は? じゃなかったらなんだっていうんだ?」

「……社長って、人の好意ガン無視しますよね。この間も社長令嬢の告白バッサリ切って問題になったじゃないですか。どうして悪意に変換するんですか?」


 そう問われ、俺は少し考えてから答えた。


「歩んできた人生の所為かもな。もう人の好意を受け付けにくい思考になっているのかも」

「……まぁ10代でここで働いていたんですから想像に難くありませんが、少しずつ軟化させていきませんと」

「…そうか、それもそうだな」


 人生の先輩としてのありがたい言葉を聞いて頷いた俺は「んじゃ、それはそれとして。俺これからどうすればいい?」と質問する。


「いや、普通に戻ったらどうです? 今頃彩夏ちゃん自分で言った言葉にショック受けてますよ」

「なんでショックを受けるんだ?」

「……とりあえず戻りましょ。そこからは成り行きで頑張ってください」

「――ああ」


 有無も言わさない口調に気圧された俺は頷き、立ち上がってから「相談乗ってくれてありがとよ」と言って相談室を出ることにした。




 という訳で現在部屋の前に来て立ち止まっている。

 インターホンを押すか鍵を開けて普通に入ればいいのだろうが、どこか躊躇われる。

 一体どうしたというのだろうかと思ったが、ひょっとして俺がここに暮らしているという事実が間借りしているという事実に置き換わっているからか他人の家と認識しているのかもしれない。


 ハァとため息をついた俺は意を決して鍵を開けて普通に入ることにした。


「ただいま」


 言って反応を見てみたが、なし。靴を見た限り居るんだろうが、やはり言葉を交わしたくないのだろうか。


 だから戻ったところでダメじゃねぇかと思っていると、バフン! と盛大な音が聞こえたので俺は慌ててその音がした方へ靴を脱いでかける。


「どうした! ……って、なんで煙が出てるんだ?」

「つ、勤さん!? か、帰ってこないでって言ったじゃない!」


 キッチンのコンロ辺りから煙が出ていたのをみて冷静に首を傾げたところ、恥ずかしさからか涙目になって彩夏が怒った。どうやら料理の練習中だったらしい。


「一体何を造ろうとしたんだ?」

「………」


 何故か答えてくれない。それほど恥ずかしいものではないだろうに。

 答えを待っていると、観念したのか小声で料理名を呟いた。


「……卵焼き」

「そうか。まぁ怪我がなくてよかった」


 そう言って彼女の頭に手を乗せて、撫でる。

 一瞬気持ちよさそうに目を細めた彼女だったがすぐさま顔を赤くして「子ども扱いしないで!」と言って離れていった。


 まぁそうなるよなと思いながら「でも努力するのはいいことだぞ」と言っておく。


「俺や麗夏さんもいるわけないからな。出来ていればこれから苦労もなくなる」

「そんなこと言わないで!」


 あまりの声量に俺は驚いて彼女の方を向く。すると彼女は今にも泣きそうな顔を我慢していた。

 その顔のまま、彼女は叫んだ。


「どうしていつも勤さんは居なくなる前提で話をするの!? そりゃ、確かにいずれ私や姉さん、それに勤さんもバラバラになるわよ! けれど、それでも今は、こうして一緒にいるのよ! だから、だから……!!」


 言われた俺は、彼女の気持ちを理解した。

 なので、俯き、涙を流す彼女に対し優しい声で答えた。


「そうか。悪かったな彩夏」

「………………え?」


 顔を上げる彩夏。それに対し笑顔を浮かべ「そんなに想ってくれてありがとよ。そして、悪かった」ともう一度言う。


「浅慮だった。確かにいつか別れの時は来る。その時がいつ来ても良い様に今を楽しみたい気持ちに気付いてやれなくて。大人として最悪だな、まったく」

「そ、そこまで言わなくていいわよ!」

「そうか。だけど悪かったな。足蹴にして」

「……」


 黙り込んでしまった彼女に対し、俺は「まぁともかく悪かった。だから今日は――と言ってももう時間はないが――一緒に居よう」と提案する。

 そう言った瞬間彼女の顔が爆発したかのように赤くなり、壊れたラジオの様に「な」としか言わなくなり、何を思ったのかダッシュで家を出ていってしまった。


 そのあっという間の出来事に、俺はこれでよかったのか……? と思いながら台所の方へ向かった。



 しばらくして。

 そろそろ夕飯作りたいから買い物行こうと思い立った俺は、冷蔵庫を確認して財布を持って部屋を出ることにした。



 なんて駅前のスーパーへ向かっている途中。


 なんという偶然か、彩夏がガラの悪い奴らに絡まれていた。

 滅茶苦茶嫌がってる彼女の姿に苛立ったのかその一人が殴ろうと拳を振り上げたのを見て、俺は瞬時にその振り上げた手首をつかむ。そして、ドスの利いた声で言った。


「何人の知り合いに手を出してるんだ、お前ら」

「勤さん!」

「!!」


 一斉にこちらに顔を向ける。その視線を受けながら、掴んでいる手首の力を強めつつもう一度同じことを訊ねた。


「答えろよ。嫌がってる人の知り合いをどうしようとしたんだ、おい」

「いだだだだだっ!」


 パッと手を離すと掴まれた手首を押さえるのに蹲ってしまい答える気配がない。

 仕方がないので他の奴らに話を聞こうと視線を向けた途端、明らかに怯えて蜘蛛の子のように逃げてしまった。

 なんだよ畜生と思いながら彩夏に「大丈夫か」と訊くと、彼女は黙って俺にしがみついてきた。

 つかんでくる箇所から震えているのが分かる。よっぽど怖かったのだろう。


 まぁ世の中こういうこともあるだろうな。彩夏美人だし。

 そんなことを思いながら頭を撫でていた俺は、蹲っていた男がいないことに気付いた。

 あいつも逃げたかと思っていると、後ろから殺気を感じたので彩夏を突き飛ばして振り返る。


 その瞬間、そいつが振りかぶった鉄パイプが俺の頭を直撃した。


 ――なんて、あるわけもなく。


「なっ!」


 頭蓋とギリギリの距離で止まっているのに驚いていたのでそのパイプを奪って自力で折り曲げてからそこら辺に放り投げて背を向けることにした。


「悪いな彩夏」


 尻餅をついたまま動いて無かったらしい彩夏に手を差しのべながら謝ると、その手をとって立ち上がってから「大丈夫!?」と慌てて訊いてきたので「問題ねぇよ。ほら、買い物行こうぜ」と言って俺は歩きだした。



 そんでまぁ、一緒に夕飯の買い物をして一緒に夕飯を作り、一緒に食べて大体一緒にいた。


 ……まぁ、少しは前向きに考えてもいいかな。

さてさてこれで何とかなりますかね……

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