再会業務
久し振りのドタバタ回になります。新キャラ出たらお気に入りが増えことに驚きを隠せません。
と、いう訳で。
「お前のせいで免許取るの先延ばしになっただろうが……!!」
「ちょ、待って流石にMじゃないからこの苦痛は快感にならない……!!」
「まだ仮免だったんだぞボケ!」
建物全壊ということで、ぶっ壊した張本人に怒りをぶつけながら協会に電話して怒られてもらっている。
現在位置は首都郊外に戻って来ており、免許は次回にお預けである。
苛立ちのままアイアンクローをし続けたが、そろそろ空しくなったので解放する。
手をプラプラさせながら窓の外をため息をつきながら見ていると、彩夏が「ねぇ勤さん」と遠慮しがちに声をかけてきたので「どうした?」と返す。
「えっとね……なんで国民的ヒーローの『MIRAI』さんと、伝説的ヒーローの『サイ』さんがいるの、うちに」
「……」
「どうかしましたか?」
「ごめんなさいごめんなさい……え?」
ぶっちゃけ答えたくないので沈黙していると、呼ばれた綿貫と電話越しに謝っているサイが反応する。
そう。戻って来て普通に家に帰ってきたのはいいのだが、何故か知らないが綿貫とサイ――片桐祥子までついてきた。
正確に言うなら片桐を本部に連れて行かなければならないのでその途中に立ち寄って荷物を置いて行くところに綿貫がついてきたのである。
本格的に不幸が付きまとってきたなと久し振りに実感していると、「そもそもどうして勤さん知り合いなの?」と理由を聞いてきたのでどう答えたものかと考える。
…………。
「ああ、私はこいつを助けたからだな」
「私は助けてもらいました」
「って、おい。あっさりばらしていいのかよ」
「そんなこと言ったって、彼女は事情を知ってるんだろ?」
「概要だけザックリとな」
「……まぁ、それが妥当だな」
「?」
俺達の会話に綿貫は首を傾げたようだが、生憎すべてを語るほど折り合いがついていないので無視することにし。
「さっさと本部行って怒られて来いテメェ」
「ヒドイな!? 仮にも功労者に向かって!!」
「逃げられたお前にも原因があるんじゃないか、おい。そんでホテル巻き込んだんだろ」
「巻き込んだなんて人聞きの悪い。逃げられたのは確かだけどな」
「さっさと怒られて来い!!」
さっきから電話で怒られてたじゃないか……と呟いた彼女はゆっくりと立ち上がって「まぁ行ってくるさ」と渋々言った。
「おう行って来い。そしてしばらく姿見せんな」
「命の恩人に向かって相変わらず口が悪いな。ま、それでこそ君だ」
そういうと彼女は普通に玄関から出て行った。
そういやまだ彼女、俺と同じ年齢なんだよな……伝説と言われてるのに。
とんでもない奴だと思いながら、一人残った綿貫を見る。
すると、彩夏と何やら意気投合して盛り上がっていた。
「絶対に譲りませんからね!」
「私こそ諦めておりません!」
……やはり女子同士は仲良くなるのが早いな。
そんな光景を目の当たりにした俺はフッと笑ってからスマホをどこに置いたかと探し――そして気付いた。
「ああ!」
「どうしたの勤さん!」
「どうしたんですか!?」
「スマホ持ってかれた……!!」
そう。片桐が使っていた電話は俺の。協会本部の偉い奴らの連絡先が入っているので行くまでに怒りを先に発散させるために貸したのだが――。
「まさかそのまま持っていかれるとは思いもしなかった! くそっ!」
「えっと、それってサイさんに?」
「ああ。仕方ねぇ。どうせ一緒に怒られて欲しい腹積もりで持っていったんだろう……本部に行くしかないな」
「どうしてですか?」
「あれ返ってこなかったらスマホ自体を破棄してから買い換えないといけないからだ! そんなことに金を回す気なんてサラサラない!!」
って、勤さん働きづめだったからお金結構あるわよね? そうなんですか? などという言葉を無視し、俺は後を追うように家を出ることになった。
「……なんだって関係ないのに来なくちゃいけないんだ」
照りつける日差しを防ぐ手段を持たないまま来た俺は、額に汗を浮かべながらいつぞやに来た国会議事堂に似た建築物の前でつぶやく。
おそらく正規に怒られるだろうから地下室を使わない。となると、面倒な手続きを踏まなくてはならなくなる。
一瞬スマホの破棄を本気で考えたが、頭を振って建物の中に入ることにした。
「あー涼しい」
入ってすぐに感じる冷房の涼しさに思わず声が出る。
人工的な涼しさであるが、外気温より低く、また湿気のないものは心地よい。
しかしいつまでも入口にいる訳でもないので、受付へ向かうことにした。
「お暑い中ようこそ。本日は……あらあなたですか。呼び出しは受けてない筈ですが?」
「サイにスマホ持ってかれた。取り戻すために来たんだ」
「ああ……そういえば同じことで二度も怒られる仕返しに……とかおっしゃっていましたね。あなたでしたか」
「ああ。だから手続きの準備してくれ」
「そういう事でしたら手続きは結構です。話は通しておきますので」
「ああ。ありがとう」
そういうと受付の彼女は内線で電話をかけ、一言二言話してから「ではどうぞ」と言ってくれたので「ありがと」と言って最上階へ向かうためにエレベーターのある方へ歩き出した。
最上階へ行くには普通エレベーターを使う。来客はな。
そこの主である本部長は別な道があるとのことだが興味はないので普通にエレベーターに乗り込み、到着してから用がある部屋へ直行する。
とはいっても部屋数はそれほどなく、目当ての本部長室は一番奥なので分かりやすいが。
部屋の前に着いた俺はノックしてから返事を待ち「入りたまえ」と声がしたところでドアを開けて入る。
「失礼します」
そう言って入ると、案の定片桐がホッとした表情を浮かべたので「スマホ返してほしくて来ました」と用件を述べる。
「そうか。受付嬢からの連絡を受けて身体検査をしたところ持っていたので私が持っている。ほれ、君のスマホだ」
「あざっす」
そんなやり取りを見ている片桐はなぜか涙目になっていた。
スマホを受け取った俺は片桐に視線を向けてから言った。
「自業自得だ」
「ひどくないか!?」
「当たり前だ片桐君。君の伝説的な功績は認めるが、やり過ぎを許容しているわけではない」
「やり過ぎたわけじゃありませんよ! ただちょっと……被害が大きくなっただけです!」
「私達が運営しているホテルの崩壊が『ちょっと』の範囲なわけないだろ」
「それじゃ、失礼します」
「待って!」
「君はまだ話の続きだ」
いやぁぁ! と悲鳴が聞こえたが、完全に無視することにした。




