急変業務
昨日は丸一日小説を書かなかったので今書いたらすすむすすむ。息抜きって大事ですね
講習が始まって一週間が経過した。
MT車の運転にある程度慣れ、座学の方は四日で終わった。
坂道発進で急なエンストなどでまだもたつきがあるものの、それなりに様になってきたと自負できる。
そういえば燃料とかなくなるのにどうするのかという疑問がわくだろうが、ガソリンスタンドから出張してもらっていれるのだそうだ。
まぁそんな訳で一週間が経過した。
初日に起こったとんでもない騒動は既になりを潜め、表向きそんなことがない……と思える位には静かになった。
初日にはなかったが二日目以降寝る前に必ず彩夏が電話を掛けてくる。なんでも、初日の寝る前に嫌な予感がしてから電話を掛けて来たそうだが、何故か棘のある口調で毎日電話を掛けてくるんだよな。どうしてだかは分からんが。
まぁいつもの事なので軽く流してる。
で、八日目。
現在仮免許をとれたので路上という名の山道を走っている。
「大分運転にも慣れてきたようだね。教えてきた方としても嬉しい限りだよ」
「俺一人だから、そりゃな」
「でもいいじゃないか。こうして二人きりでドライブできるんだから」
「つっても山道だし。普通は街道走るんだろ?」
「そりゃぁね。けれどまぁ、視界不良の山道のドライブをやっていれば街道の方は余裕だと思うよ」
「そうか?」
「そりゃね」
山道を走り始めて二時間。他の奴らと全くすれ違わない道を通っていることに退屈を覚えながらアクセルを踏む。
ギアを変えるために身体が覚えた半クラが無意識に行われ、そのままシフトチェンジ。
車体が加速する。登り道だからかエンジンが悲鳴を上げるかのごとく高いエキゾートを鳴り響かせるが、スピードメーターは六十前後。
曲がり道をハンドルを切るだけで減速せず通り、車がものすごく揺れ動いたが、シートベルトのお蔭でドアにぶつかるなんてことはない。
「そこはブレーキを踏みながらシフトチェンジしつつドリフトをかまさないと」
「初心者にドリフトなんて高度な真似できるか」
「さすがにフルブレーキドリフトとかそんな高度なモノじゃなくてさ、サイドブレーキを引いて車体を曲げるパワースライドでもいいんだよ」
「出来るか! 車曲げるのにブレーキ、シフト、ハンドル、アクセル使うのにサイドブレーキもだ!? やってられるか!」
ほぼ無茶ぶりな領域なので叫びながら運転していると、「意外とパワースライドはいけると思うけどね」と言われる。
現在午前十一時。残る一時間で昼になるのでそろそろ戻らないといけないと考えられる。
だがぶっちゃけどこを走ってるのか俺は知らない。円谷が指示を出した道を最初走っていて、そこから道なりだったから。
何時頃戻るんだろうと思った俺は反射的にブレーキを踏みながらシフトチェンジしつつハンドルを切ってアクセルを踏む――タイヤが盛大な音を響かせながら車体が一瞬大きくぶれる。
「これだよ!」
「ハァ? 今咄嗟だよ! 曲がり切れなさそうだったからな!!」
「たまたまでもいいじゃないか! それを繰り返していけばドライビングテクニックが身に着くから!」
「つぅかその前に免許取らせる運転方法させろ!」
叫びながらもコーナーを曲がっていく。
「って、ここどこだよ! 俺達ちゃんと戻れるのか!?」
「心配いらない! もうすぐで目的地に到着するから!!」
「本当だな? 終わったら絶対運転してもらうからな!!」
そう叫びながら勢いに任せてコーナーを曲がる。
そこからどのくらい運転していたのだろうか。
山を延々登っていたんじゃないかと錯覚するぐらい道を曲がりまくったから距離感も時間も気にならなかった。
ともかく登り切れたようで一安心して車を停め、外に出てへたり込む。
「あー無理だ」
「何へたり込んでるのさ。ほらちゃんと立ち上がって」
「ふざけんな。途中対向車とぶつかりそうになったろうが。おかげで寿命が縮まったぞ」
「まぁまぁ。あの時は悪かったけど、事故を回避できたんだから運転は上達してるよ」
そんな風に褒められても嬉しくないのはどうしてだろうか。そう思いながらようやく落ち着いたので立ち上がり、「なんでここまで来たんだ?」と質問する。
「コースの下見」
「あ?」
「なんてね。本当はこの景色を一緒に見たかったのさ」
そういうと駐車場の少し先にある階段へ向かったので、仕方なく俺も後を追う。
階段を上ること数十段。そこから見えた景色は、まさに自然そのものだった。
「……すごいな」
「だよね。私も最初ここまで来た時圧倒されたよ」
「前に来たことあるのかよ」
「まぁね。私も一応ここで免許を取ったからさ」
「……ん?」
聞き捨てならない言葉が聞こえたので俺は彼女に顔を向ける。
そんな反応をすると想定していたのか円谷はこちらに顔を向けており、笑顔で説明した。
「私もヒーロー関係者だというのは分かると思うけど、昔はタクシードライバーじゃなくてヒーローたちを輸送する専門だったんだよ」
「……そういえばあったな、『韋駄天:陸』だっけか」
「よく覚えてるね。そんなに活動してなかったのに」
奥から出てきたためにそう言った事情も詳しいのだが、説明する必要性がないので「まぁな」と短く答える。
「でもあれって確か……壊滅したんじゃなかったか?」
「私はたまたま休みだったからどういった任務だかわからないけどね。輸送していたヒーローたちと共に死体となって見つかり、残った私だけじゃ任務が続行できないから事実上の解散でタクシードライバーに転職した……ってわけ」
悲しそうに、それでいて当時の事を思い出したのか震えた声で説明した円谷は視線を景色に移す。
それを見てから、その事件について俺は知りうる限りを思い出す。
確か四年前に起こった事件で、ヒーローを輸送していたその車輌全てが同時に爆発し、全員が死亡したという奇怪極まりないもの。
当時警察など総動員で調べたが犯人は結局捕まらなかったという事件で、心理関係の能力を持っているヒーローが駆り出されても分かったことは無に等しいという証拠の無さだった。
暴発とかいろいろ噂されたが結局真相は闇の中。わざと協会が情報を消した可能性も否めないが、それもどうだかわからない。
結構ひどい事件だったよなと結論付けた俺は「そうか」と返すことにした。
結構ひどいことを言っているのは重々承知だが、ぶっちゃけ同情なんて必要ないと考える。
俺だって散々な人生を歩んでいるが同情されるのが滅茶苦茶嫌いだ。というより、何かしらの負い目がある人生を歩んでいる人にとってそれが何よりもダメだろう。
まぁ自論なわけなので他人がどう思っているか知らん。そう考えながら言葉を待っていると、「やっぱり君はいいね」と嬉しそうな感じで言ってきた。
「あ?」
「いやーこうして暗い話ですら何ともないように感じられるから、やっぱり私の直感は間違っていなかったよ」
「なんだよそれ」
「なんでもないさ。私の主観的感想だからね」
「ああそう……ところで」
不意に腕時計を見て気付いた俺は、嬉しそうな円谷に対し言った。
「もう昼なんだが、戻らんとダメだろ」
「あ」
――そんな訳で猛スピードで駆けていく車が一台あったとさ。
なんてことでオチがつけば大変よろしかったのだが、そうは問屋が卸さないのが人生らしい。
戻ってきたところ、なんだか人だかりが。
車を戻してから合流した俺達は、集団の一人に声をかけた。
「一体どうしたんだよ」
「ああ。なんか爆発騒ぎがあってな。現在調査中だとかで全員外に出されているんだよ」
「そうなのか。ちなみにどこだ?」
「地下の方だと。幸い誰もいなかったから逃げ遅れた人はいなかったようだぜ」
「ありがとな」
事情が呑み込めたので礼を言ってその場を離れたところ、「何があったんだい?」と円谷が質問してきたので簡単に説明した。
「地下で爆発騒ぎがあったらしい」
「そうなんだ」
思いっきり他人事なので「昼食食べれないぞ」と言っておく。
「ああそれは大変だね」
「本当に他人事だな」
「まだ残ってるだろ?」
「人任せじゃないかおい」
そんな会話をしていると、突如としてホテルが崩壊した。
全員が崩壊したホテルを見ていると、「あー疲れた全く」という声が静かなこの場に響く。
ここの管轄俺じゃないから別にいいが、なんでこう最近厄介事が降りかかってくるのかねなんて思いながら遠巻きの遠巻きでいるとその集団が一気に割れた。
なんだなんだと思いながらその中を歩いて近づいてくる人物をその場で眺めていると、不意に気付いてしまった。
向こうもこちらに気付いたのか「お」と声を上げてから引きずっていた奴をその場に置き、こちらに掛けてきたと思ったところ……速度を置き去りにして俺に抱きついてきた。
衝撃自体をさらっと受け流すことができた俺は、頭をぐりぐりと押し付けてくる女性を引き剥がして地面に置き不満そうな顔をしてるので言い放った。
「テメェのせいで免許取れなくなっただろうがどうしてくれる……『サイ』」
「あーそりゃ悪かったね勤」
バツの悪そうな顔を見た俺はなんだってこう……と諦めにも似たため息をつくことにした。
ふと気になったのですが、自分みたいな何の拡散もしてない人の作品ってどうやって皆さん調べるんですかね?




